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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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4-10

「そういえばスバル君って、学生時代からそうだったよね?定期考査の時でも、一夜漬けどころか試験が始める一時間まえにテスト範囲の中をヤマ勘で覚えるみたいな事してたもんね」


「おう、自慢じゃないが家でテスト勉強なんて一度もしたことないぜ!なんなら受験の時だって試験日の前日まで隠れてゲーム少年をやってたくらいだからな!懐かしいなゲーム少年」


ダイゴが学生時代を思い出してそう言うと、スバルはむしろ胸をそらして言った。ゲーム少年というのは当時普及していた家庭用携帯ゲーム機の事である。テレビにつながずゲーム機本体にある小さな液晶画面でゲームができるから隠れてゲームをする子供が多かったらしい。


「自慢じゃないがって……それほんとに自慢にならないからね?花音ちゃん、だめよこんな人を見習ったら。」


呆れかえった顔になりながらハルカが花音を引き寄せながら言った。花音は「はい、わかってます」と頷いている。しばらく共に生活していたのでかしこい花音はその辺はしっかりと理解しているらしい。


「まあ、スバルがそういう面であてにならないのは今始まったことじゃないから、放っておくとして……問題は明石大橋にいるっていうマザーをどうするかだ。如月さんの話ではかなり手ごわいみたいだし、きっとやり過ごして進むなんて事もできないんだろうな」


カナタ達は如月のトレーラーハウスを出た後は使っていいと指示されたスペースでめいめいに休んでいる。一息ついた後は当然その話になるだろう。


「いや、一番隊とか二番隊が優秀な部隊だったってのは聞いていたけどさ、実際どうなん?確かにマザーは強敵だよ?普通に攻撃しても傷一つつけられないし……情報だってろくにない状態で戦ったらそら全滅したっておかしくないだろう。如月さんには悪いけどさぁ、いくら優秀な部隊だったからって初見でマザーに当たるのはなぁ。」


スバルは明石大橋にいるというマザーよりも当時の一番隊、二番隊の方に懐疑的のようだ。いくら当時強かったとしても、マザーとの戦いを経験していると、情報もなくマザーに攻撃を仕掛けて全滅したと聞いても納得してしまう。

それと装備も当時に比べれば充実していて、マザーとの交戦経験もある程度の情報もある自分たちと比べるのはどうか……と言っているのだ。


「まあ、ここまで来て手ぶらで帰るわけにもいかないんだ。行くだけ行ってみるさ。やばそうだったら逃げるけどな」


軽い感じでカナタがそう言うと、いくらか雰囲気が軽くなった気がした。カナタが冗談めかして言った最後の言葉に、少し笑顔も見えている。


「そうね。都市が狙われてるんだから、何とか本州に渡って最低でも陽動くらいは仕掛けないとここまで来た意味もないわ。私たちがこっちでかき乱す事ができればそれだけ都市の安全につながるんだもの」


さすがにハルカは真面目な意見を言って場を引き締めている。十一番隊だけで行動しているといつもコントみたいな会話になりがちだが、ハルカのように真面目な人が一人いるだけで部隊が引き締まるなぁ。とカナタは感心したように思っていた。未知の敵を相手取るのに、油断は禁物だが気を張りつめさせすぎても普段通り体が動かなくなってしまうものだ。


今回の作戦は松柴さんが特例で隊を越えての編成を許可してくれたが、こういうところを期待しての事だったのかもしれない。


「まあ、そう言う事だな。大事な部分はハルカが言ってくれたんでそれで。とりあえず明日に備えて体を休めよう」


カナタがそう言うと、ハルカが軽く叩いてきた。手を抜くなという意味だろうが、十一番隊はこのくらいがちょうどいいのだ。

約束通り、交代で見張りに応援を出しながら安全な場所でゆっくりと休む一行だった。




「……行くんだな」


明朝、出発の挨拶と礼を言いに如月に会いに行くと、表情で察したのかカナタの顔をみただけで如月はそう言った。驚いた様子はなかったので、そうだろうと予想はしていたようだ。


「若いお前たちを止める事がそう簡単ではないとは思っていたさ。ただ、俺の警告を頭の隅にでも置いていてくれればいい。お前たちのような若者のほうが、こんな訳の分からん事態には柔軟に対処できるのかもしれんな」


自嘲するように言った如月はカナタの肩を強く叩いて顔を寄せると言った。


「……死ぬなよ。若い奴らが死んでいくのを見るのはもうたくさんだからな……」


それだけ言うと。如月は仲間たちの方にカナタを押しやる。これまでに何があったのか知らないが、きっとたくさんの人の死を見てきたであろうことは簡単に想像できた。


「……ウチの隊員にパンケーキが食べたいっていきなり叫ぶ奴がいるんです。」


「なに?」


突拍子もない事を言い出したカナタに如月は軽く眉をひそめて聞き返す。


「甘味が食べれなくなってからだいぶ経つんで、ストレスが溜まってるのかもしれませんが……人前でそんなこと言いだしたら恥ずかしいし、食べさせてやらないと下手したら死んでもパンケーキ~って出てきそうなんですよねー。」


困ったもんだとでも言いたげにカナタは腕を組んで頭をひねっている。如月はカナタが何を言いたいのか予想がついたのか包帯越しにわずかにわかる程度に微笑んでいる。


「まあ、俺は一応隊長なんで。まさか隊員をそんな悪霊にするわけにはいかないんで、さっさと任務を果たして……パンケーキといわず何でも、たらふく食わせてやるまでは死ねませんからね」


カナタが笑いながらそう言うと、如月も微笑みながら返す。


「そうか……若いと大変なこともあるのだな。私くらいになると腹が膨れればいいと思ってしまうが……。分かった、もしパンケーキを食べる事があったら私にも少し分けてくれ」


「え……いや、ほんとに手に入ったとしてもあいつら残すかな……いや、俺が食べる分も怪しいんですけど……」


「ハッハッハ!いいや、そこは気前よく約束してくれんと、安心して送り出せんな」


気難しいと思っていたが、こういう冗談も言える人だったらしい。カナタはわざとらしく困ったような表情を作って言った。


「仕方ないですね。約束はしますが期待しないでくださいよ?こっちは餌を投げ込んだライオンの檻に入って分けてもらうくらいの心境なんですから」


「まあ、女性というものはそういうものだ。一口でもかまわんさ」


そこまで言うと如月があごで後ろを指した。振り返ると仲間たちが揃ってこちらを見ている。どうやら出発の準備も整ったようだ。


「分かりました。ではちょっと行ってきます」


あえて、近所まで出かけるノリでカナタが言うと、如月も頷いて返す。かつての先輩に見送られてカナタは仲間たちの所へ歩き出した。

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