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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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4-9

「でも……でもマザーならコロニーを作る。配下の感染者が何もいないのはおかしい!本当にマザー?」


重い雰囲気に誰もが口を閉ざす中、ゆずが必死な口調で如月にたずねた。マザーであってほしくないような言い方だ。別にマザーであろうがなかろうが、そこに強力で危険な存在がいるという事は変わらないのだが、それだけマザーという存在の恐怖が深く刻み込まれているのだろう。


「俺ぁマザーの事をよく知らないからよ。だがな榊隊長が色々調べてそう言ったんだ、俺はそれを信じているだけだ」


如月は榊という隊長に絶大な信頼を寄せているようで、ゆずの問いにそう答えた。そう言われると何も言えないのか、ゆずは押し黙ってしまう。


「あの……いいですか?」


そこに手を上げて、遠慮がちに発言の許可を求めるように花音がぽそりと言い出した。如月は花音が手を上げているのを見て、微笑ましそうにすると優し気な声と口調になり花音に向き合った。


「なんだいお嬢ちゃん。難しい話で退屈したかい?」


如月がそう言うと花音は遠慮がちに話し出した。


「いえ、私いつかカナタさん達の役に立ちたくて色々調べていたんです。ゆずさんが言ったようにマザーの特徴で欠かせないものがありますよね?」


花音がそう言うと如月は驚いたように目を見開いた。花音みたいな小さな少女がそんな事を言うとは思っていなかったようだ。むしろカナタ達も驚いていたが……花音がそんな事を考えていて、感染者について勉強までしていたという事を始めて知ったのだ。


「あー……悪いお嬢ちゃん、さっきも言ったようにおじさんはずっと都市の外にいたからな。マザーの事に詳しくないんだ。」


気を取り直した如月が頭の後ろをかきながら、包帯越しに少し困ったような表情になってそう言った。


「あ、ごめんなさい。その……マザーには対になる嚢腫格っていうのがいつもいるって……コロニー?を作るのに重要な役割があるって、ちょうどこの作戦の前に呼んだ資料に書いてあったから……」


少し申し訳なさそうになった花音が遠慮がちにそう言うと、カナタ達の方が驚きの声をあげて、ハッとした顔をして花音を見つめる。


「そう、嚢腫格……マザーは一体じゃない」


思い出したようにゆずが呟くと、如月はさらに困ったような顔をする。


「待て待て、すまんが本当におれはマザーの事を知らないんだ。榊隊長がなんかそんな事を言ってたような気もするが……」


「えーと、今都市では……時に№4では感染者に対する研究がだいぶ進んでいます。マザーに初めて接触したのだって№4が、カナタの部隊だったから」


重い雰囲気が当惑に変わって、その場を代表してハルカが説明を始める。如月も黙ってハルカの方を見ている。


「今の所、マザーは感染者の突然変異で現れると言われてます。はっきりとは分かってませんが、共食いなんかをして変異すんじゃないかといわれていて、マザーという個体になると姿かたちが大きく変化して嚢腫格という内臓のような物体が分裂する?生まれる?んだそうです。マザーになった個体は自分のコロニーを形成しはじめて他のマザーと距離を取り始めるんですが、その時に他の感染者を食べて、食べられた感染者は全く同じ状態で嚢腫格から吐き出される、吐き出された感染者はそのマザーの配下になって一緒に行動を始めるそうです。」


まるで教科書でも読んでいるかのようにスラスラとハルカは語った。初めて聞いたのだろう、如月は時折相槌を入れながら聞いていた。


「へぇ……マザーの配下の感染者ってそうやってできるのか……」


「ちょ、スバル君!」


腕を組んで、まるで初めて聞いたかのようにスバルが呟いて、ダイゴにたしなめられているがそっちは放置していいだろう。

ハルカもスバルの方をちらりと見たが眉をひそめるだけで突っ込むことはしなかった。


「んん!えーと、あ!マザーでしたね。今の所№4だけではなく、他の都市で発見されたマザーにも形は違いますがすべて嚢腫格らしき存在が確認されてます」


「ふーむ……しかしなぁ、何をもって判断したのか知らないが、榊隊長はあいつがマザーだってはっきり言ったんだよなぁ。まあしかしだ!あれがなんであれ、間違いなく精鋭部隊だった俺たちが抜けなかったんだ。行くことはおすすめしねえって話だよ」


如月もしばらく考えていたが、結局のところはカナタ達に行かないようにという本題に戻って話を締めた。


「でもさ、その時には武器だって大した物はなかったんだろ?今は銃なんかもあるし、なんならその一番隊や二番隊の人も手伝ってくれればなんとかなるんじゃね?」


行くなという如月にスバルがそんな言葉を投げかけた。しかし帰って来たのは非情な現実だった。


「お前、俺たちがそんな存在を確認して、何もしないでいたと思うのか?」


やや怒りを含んだような声になった如月がそう言ってスバルを見る。


「え?何もって……そういえば他の人は……」


「死んだ」


如月の視線と口調にたじろいだスバルが口に出した問いに、如月は短く単調に答えた。


「え……」


「俺たちだって遊んでたわけじゃねえ。むしろあんなバケモンを野ざらしにできるかって話になった。色々考えて何度もアタックを重ねて……残ったのは俺一人だ。最後は満足に動けねえ俺を残して、満身創痍の隊員を率いて榊隊長は攻撃を仕掛けて……帰ってこなかった。……俺は一人で何をすることもできなかったが、守る事が容易なここに避難民を受け入れてなんとか生き延びている。俺は置いて行かれた負傷兵ってとこなんだよ」


悔しそうに、そして辛そうに如月はそう言った。体は満足に動かなくても経験と知恵を生かしてここを安全な場所にしているが本当は一緒に戦いたかった、その表情はそんな本音をありありと語っていた。


「すいません、無神経な事聞いちゃって……」


あわててダイゴがスバルに代わって頭を下げた。それを見たスバルもダイゴに倣うようにして頭を下げる。


「いや……いい。とにかく俺は言ったからな。あとはカナタ、お前の判断にまかせるよ」


それだけ言うと如月は部屋の奥の方へ行ってしまった。


カナタ達は顔を見合わせしばらく様子をみていたが、もう如月は奥から出てくる様子はない。話しは終わったという事なんだろう、誰からともなくコンテナハウスから外に出て行った。最後に残ったカナタはコンテナハウスの奥の方に向かって、ありがとうございました、と声をかけて一礼するとその場を後にするのだった。


「怒らせちまったかな?」


さすがにバツが悪そうにそう言ったスバルにダイゴが苦言を呈す。


「あれは無神経すぎたと思うよ。あれだけの人がなんでこんなところにいるのか、なんでケガをしているあの人がここの代表みたいにしてるのかって事を考えなきゃ」


さすがのスバルも心なしか落ち込んでいるように見える。まあ、すぐに元に戻るだろうが……


「それよりもスバル君?あなた嚢主格の役割も理解してなかったの?」


ところが、追い打ちがかかった。さっきの話の途中でスバルが嚢主格がマザーの配下となる感染者を産み出すという話の時にまるで初めて聞いたような反応をしたのを忘れてなかったようだ。


「え?いや……多分俺聞いてないと思うんだけどなぁ」


「聞いてない?そんなことないでしょう!こういう情報は全部隊に共有されるはずよ?」


ハルカがそう言うと、スバルは首をひねって考える。しかしその答えが出る前にダイゴがぽつりと言った。


「いや、確かに聞いたよ。ほら、庁舎の会議室で僕も一緒にいたから間違いないよ」


そこまで言われてもスバルはいまいちピンと来てない様子のスバルにダイゴはちいさくため息をついていた。

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