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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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4-8

「ど、どうぞ。ここです」


カナタと一切目を合わせようとはしないまま案内してくれた若者は停まっていたトラックを指した。荷台の方に回るとトレーラーハウスのように改造してある。周りには似たようなトラックが結構な数停まっていて、それらも同じように改造してあるのだろう。カナタが見ているうちにも何台かのトラックの荷台から人が出入りしているのを見かけた。

パーキングエリアだけにパニック当時もたくさんの長距離トラックがあったのだろう。


若者がノックして扉を開けると中に向かって声をかけるとすぐに出てきてカナタ達に軽く一礼して去って行った。……結局、最後までカナタの方を見る事はなかった。


「疲れているのにすまんな。入ってくれ……どうした?」


包帯の男がカナタ達をコンテナハウスの中に迎え入れると、カナタを見て何か感じたのかそう聞いてきた。


「いや……ちょっと精神的にダメージを負っただけで……大丈夫す」


「そうか……つらいことがあると体にも変調を起こす。適度な気分転換は必要だぞ?隊長職なんぞをやっているとストレスが溜まる事だらけだがな」


そう言って包帯の上からでもかろうじてわかるくらいに微笑んだ。


やはり最初に見立てた通り、悪い人間ではないようだ。ただ、男が心配してくれるような内容じゃないので、カナタも礼を言ってあいまいに微笑むしかなかった。


トレーラーハウスの中は狭くはないのだが、カナタ達全員が入って腰を落ち着けようとするとさすがに手狭に感じる。それでも包帯の男は見た目の威圧感に反して細かな心配りをしてくれて、全員がとりあえず座って休める程度にはなった。


「よし……お前たちも早くゆっくり休みたいだろうから手短にいくぞ。まず、そうだな……私の事だな。私はかつて№4の守備隊、一番隊に所属していた如月という。一応副隊長という立場にいた者だ。俺たちはおおざっぱに言えば都市の上層部の手柄取りに巻き込まれてここにいるわけだ。任務でここにいるという事は、君たちも守備隊なんだろう?俺達の事は何か聞いてるか?」


包帯の男、如月は自分が守備一番隊の者だと名乗った。こんなところで行方不明の一番隊の人間に会えるとは思っていなかったが……


カナタは自分が十一番隊の者であると改めて名乗り、一番隊、二番隊の事は長野一派が分かりやすい手柄を立てて、権力とあわよくば探索で得た物資などを得ようとする企みに巻き込まれて淡路島に行く羽目になった。と聞いている事を伝え、ついでにもろもろあって長野と一部の仲間は都市から追放されたか死んだことを伝えた。


カナタの言う事に相槌を打ちながら聞いていた如月は長野一派が失脚した事を聞くと、大きく目を見開き包帯がずれるほど大笑いをしだした。

その反応にカナタ達があっけにとられていると、ひとしきり笑った如月は笑ったためにずれてしまった包帯を整えながら謝りの言葉を口にする。


「いや、すまんな。あまりにも愉快な話だったんでな。そうか長野は死んだか……しかも悪だくみの末に感染して、そうか……フフフ、いや愉快だ。長野はその辺うまく立ち回れると思っていたし、俺たちが都市を出る時には、自分の意見を突き通せるくらいにがっちりと足場を固めていたからな。今頃は権力を握って都市を牛耳っているんじゃないかと思っていたが……よほど大ポカをしでかしたな?」


如月は長野の失脚が本気で愉快なことのようだ。長野の欲望のために未開の領域に出動させられたのだから、やはり思うところはあるのだろう。


「いや、実に愉快な話でもう少し詳しく聞きたいが、本題とはずれてしまうな。話しを戻すと、お前たちは倉敷付近にいるグループが都市にちょっかいを出そうとしている情報を掴んでそれを偵察・妨害に行くのが主任務で、直接瀬戸大橋を渡っていくと動きがまるわかりだから、明石大橋を渡って迂回して倉敷の方に行くつもりだと、そう言う事でいいな?」


さすがに元々守備隊に所属していただけあって、要点だけを話しただけでしっかりと概要も理解してくれている。カナタが頷くのを見て、如月は一呼吸置くと急に真剣さを帯びた口調になり言った。


「やめておけ」……と。


「どういう……事ですか?」


意味もなく言っているわけではないのだろう。そう思いカナタも真剣にそう聞き返す。


「その理由は、これだ」


そう言って如月はなくした自分の片手片足を指して話を続けた。


「確かに俺たちはクソみたいな理由で偵察もろくにできていない淡路島に派遣された。だが当時の一番隊、二番隊は№4のなかでも戦える技術を持っている奴らの集まりだった。よほど油断でもしないかぎりその辺の感染者や素人の襲撃なんぞに後れを取るような事は無かったんだ。実際俺たちはろくに消耗もせずに出発した当日に明石大橋のたもとまでたどり着いた。」


話には聞いていたが、やはり当時の一番、二番隊は優秀な人材の集まりだったようだ。出撃した当日に今のカナタ達よりも遠くまで移動出来ていたということは、道中のトラブルや襲撃などほとんど時間も掛けずに突破したという事になる。


「お前たちもここまで来たんならそれがどういう事かはわかるだろう?はっきり言ってエリート部隊だったな。それぞれの実力があり、連携でそれが何倍にも活かされていた。なにより一番隊の隊長の指揮が抜群だった。俺は元陸自の特殊部隊だったが、現役の時でも彼ほどの人物にはあった事がないほどだった。ただ……まともに任務をこなすのも馬鹿らしいと思っていた俺たちは本州の様子を見てみようと軽い気持ちで明石大橋を渡ったんだ。…………その日はいい天気でな、真っ青に拡がる空と海に気持ちよく橋を進んでいた。橋の上には見える範囲に動くものは見当たらなかった。今考えればあれだけ見通しのいい橋の上の道路で人どころか感染者も全くいない事を不思議に思うべきだったんだ。しかし俺たちは進んでしまった。自分たちの戦闘力におごりもあったのかもしれん。…………そうして大橋を支えている柱の所まで進んだ時だった。突然橋野下から太い触手のようなものが伸びてきて……道路を横断するように叩きつけられた。その触手で総勢で20人くらいいた一番隊と二番隊は半数近い隊員を一気に失った……一撃で、だ。俺の手と足もその時に持っていかれた」


そこまで話した如月はカナタ達の様子を窺うようにそれぞれの顔を見回す。その呆然とした表情を……


「その……それって何だったんですか?」


口が乾いて思うように声が出なかったが、なんとかカナタはそう口にすることができた。


「当時は何も分からなかった。さすがにパニックを起こしてしまった俺たちはその場を撤退するので精一杯だったからな。ただ一番隊隊長の榊さんが全員をまとめて、何度かアタックを仕掛けた。その結果大橋を支える柱、主塔というらしいがその根元から伸びる触手に融合するように変異した感染者がいたそうだ。変異を繰り返して特殊な進化をする感染者……お前たちはマザーと呼んでいるらしいな。そのマザーが大橋の淡路側主塔にへばりついてやがる。そして橋を通る奴ら、人も感染者も関係なく触手で攻撃してくるようだ。」


如月はゆっくりと、しかしはっきりとそう言った。よりによって橋の途中にマザーがいるという話にカナタ達の雰囲気は一気に重苦しい物へと変わっていった……。


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