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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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4-2

「あ、あの……」


言葉もなくお互いの顔を見合わせていた男たちだったが、やや年かさの男がカナタに向かって話しかけてくる。たしかこの男は山下の近くで偉そうにしていた奴だ。

カナタが視線を向けると必死に自分は悪くないと言う。従わざるを得ない立場だったと、この世界は弱いものは奪われるだけなんだから仕方がない、などと口早にそうした理由を並べている。その割にはカナタの記憶では山下が花音を人質を取った時にみせた勝ち誇ったような顔は、仕方なくやっていたとはとても思えないものだったが……


強いものには媚びを売り、下手にでながら仲間でも平気で見捨てる。その一方で有利な状況や立場になった時には躊躇なく奪う尽くす。これまではそうやって生き延びてきたのだろう。


「っ!……」


年かさの男はずっと「仕方なかった」理由を述べていたが、カナタが立ち上がり無言で近づくと息を飲んで黙った。そんな男の様子をつまらなそうに見ながら、カナタはスッと腰の桜花に手を伸ばした。


「ちょ、ちょっと待ってく!うっ……」


男の話などまったく耳にも入らないような雰囲気でカナタはすらりと桜花を引き抜くと、数回振った。声も出ずにただ強く目を閉じるしかなかった男たちの周りでカナタの振るう桜花が閃いた。


……キン。


鍔鳴りの音を響かせ、カナタは桜花を納刀する。それとほぼ同時に男たちを拘束していたロープがはらりと地面に落ちる。

突然の事に男たちは自分の手や体を見て、斬られていないことを確認すると安心したような、しかし動いてもいいのだろうか?といった表情をして、周りやカナタの顔を不安そうにうかがっている。


「どこへでも行くといい。ああ、助けたわけじゃない。斬る価値もないから斬らなかった、ただそれだけだ。」


かけらも興味のなさそうな表情でカナタは言い捨てる。それでも生き延びたと思ったのか男たちの顔に喜色が浮かぶ。


「ただし!」


今度は少し強めの口調でそう言うと、男たちは息を合わせたように同時に肩を跳ねさせる。


「道の駅の人たちはお前たちともう関わりたくなさそうだったし、問題を起こすようなら俺たちは道の駅の人たちにつく。その時は一切の躊躇はしない。もちろん俺の仲間たちに近づこうものなら今死んでおけば良かったと思うような目に合わせてやる。それだけは覚えておけ」


冷たい口調で言うカナタの言葉は男たちを震え上がらせるに十分なものだったのだろう。壊れたように何度も頷くと我先に道の駅とは違う方向に駆けていった。


「行かせてよかったのかよ?」


飛ぶようにこの場を離れていく男たちの背中を見ていると、隣に来たスバルが声をかけてきた。


「んー?まぁ……よくは、ないかもな。またどこか知らない所で力を持ってる奴にすりよって……悪さをするかもな。でもだからって斬るのもなぁ」


敵対し、向かってくるのであれば一切の躊躇いもなく斬ることはできる。仲間や大切な物を守るために、その覚悟はすでに済んでいる。

しかし、抵抗できなくなっていたり、下手に出ている者を斬ることにはどうしても抵抗があるのだ。

敵か味方かと問われれば間違いなく敵寄りのほうだし、後顧の憂いをなくすと思えばここで斬っていた方がいいという事は頭では分かっているのだが……


スバルはカナタが何に躊躇っているのかがよくわからなかったようで、「ふ~ん」と言ったきり何も言わなかった。


我ながらはっきりしない性格でモヤモヤしていると、背中を結構な強さで叩かれた。


「大丈夫。カナタ君の思うようにやればいい。何を考えているか大体わかるけど、きっとカナタ君が思っているより世の中は単純」


背中をさすりながら見ると、思い切り叩いて自分も痛かったのか手のひらを振りながらゆずがそう言った。


「いやそこまで簡単じゃ……」


と、カナタが苦笑しながら言おうとするのをゆずが遮って言った。


「んーん。いろいろと決まりが煩わしい平和な時ならともかく、今の世界はずっと単純になったと思う。だから斬りたいと思えば斬ればいいし、そうじゃなかったら見逃せばいい。私はカナタ君の考えを尊重する」


「そんな事言ってたら、これからあんな奴らばかり出てくるかもしれないんだ。その度に深く考えずに斬ってたら俺は大量殺人鬼になっちまうだろ」


「だから大丈夫。カナタ君は大量殺人鬼になんてなれっこない。そんな人はまずそんなこと考えないし、もしカナタ君がそれほどたくさんの人を斬るような事があれば……それはそうする必要があったんだろうと思うから。なんなら半分くらい私が受け持ってもいい」


滅茶苦茶な事言うなこいつは。とゆずを見ているとバシンという音と背中に衝撃。……地味に結構痛い。


「私もゆずちゃんの意見にさんせーい。私もお兄ちゃんがそうするなら、そうしないといけない理由がちゃんとあると思うから……その時は私が三分の一を斬るよ」


勢いよくカナタの背中を叩いたヒナタまでもがそんな事を言い出した。


「お前たちに斬らせるわけ……」


ないだろう。そう言う前に三回目の衝撃と音。だから結構……いや今のが一番痛いかもしれない。


「ちょっとカナタ。あなたの部隊どうなってるの?隊長が乱心した時には自分も付き合うって事じゃない!私のかわいいヒナタちゃんと、いたいけなゆずちゃんにどんな教育してんのよ?」


そう言いながら、ハルカは笑っていた。冗談のつもりということと、カナタの背中へのクリーンヒットが気持ちよかったに違いない。


「俺がそう仕向けたみたいに言わないでくれるかな?十一番隊(ウチ)は養殖はやっておりません。すべて天然ものでございます」


苦笑しながらカナタが言うと、口を抑えてハルカは楽しそうに笑っている。


「ふふ……。あ、ゆずちゃん?ヒナタちゃん?三分の一を引き受けるなんて……せめて四分の一にしましょう。私も入れてね?」


「四分の一になったら、もはや()()殺人鬼とは言わないかもしれないね」


「むう、そこまで減ると物足りない気もする……」


「何言ってんのよ。か弱い女の子なのに。そんなものはカナタに全部押し付けちゃいなさい」


それはいわゆる本末転倒というやつでは……そう思ったが、カナタは何も言わなかった。自分の罪の片棒を担ぐと言ってくれた女の子達が楽しそうに笑いながら冗談を言い合っているのを見ていたら、考えていた事はとっくにどうでもよくなっていたからだ。

話している冗談の内容が、斬るだの刺すだのといった物騒なものじゃなかったらもっと良かったのだが……



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