3-7
ぐいぐい押されて、感染者の方に近づく。
「い、嫌だ。やめ……やめていぎゃあっ………………」
筋肉男が引っ張っていた鎖をわずかに緩めると、矢のような勢いで飛び出してきた感染者が脇目も振らず山下にかぶりついた。
誰もが言葉を発せない。辺りには感染者の咀嚼音だけが響いている。
「癒しなんか……するもんか」
気付くとカナタの腕の中でゆずがそう呟きながら肩を震わせている。かつて大好きな父を目の前で感染者に殺されたゆずにとって、黒服の男の言葉は決して認められないものだった。認めれば、それは父が罪人だったという事になるのだから……
やがて、筋肉男がジャラジャラと鎖を引くと、感染者は再び棺の中に引き戻され鉄格子と蓋が閉められた。二人の筋肉男は棺を抱えて台車に寝かせ、動かないように固定していく。
帽子を脱ぎ、顔の前に持ってきてまるで冥福でも祈るかのような姿勢を取っていた黒服の男は、ふうと息をつくと独り言ちた。
「やれやれ……やはり簡単には見つかりませんか。救世主は……」と。
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