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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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3-5

「くそっ!」


思わず山下は毒づいた。人の好さそうな奴らが見た目の良い女の子を、しかも複数連れて歩いているのを見てしまった。そして気づいた時には決まりを破って勢いで襲い掛かってしまった。

その結果、ご覧の有様さ。何が起きたのかもよく分からないうちに俺の右手は手首から先がなくなっていた。しかもその後殴られ意識を失う瞬間、これでもうこんな世界とはおさらばできる。死の恐怖よりこんな世界から逃げる事が出来る。そう考えていたっていうのに……


気付くと応急処置がされていた。止血も消毒もきちんとしてある。そのことが余計に山下を苛立たせた。

こんなクソみたいな世界で生き長らえる事がいい事とは限らない。あっという間に俺たちを制圧した奴らは、少し離れた所で何か話し合っている。周りを見ると、すっかり牙を抜かれてしまった仲間たちがロープで縛られてうなだれているのが見える。


俺は生かされた。それどころか仲間の誰も大したケガもなく制圧されている。とんだ甘ちゃんがいたもんだぜ。だが、あいつら思ったよりいい武器を持っていた。女たちは小銃を持っていたし、腰にも刀っぽい物を下げていた。特に俺の手首を切ったあの刀だ……斬られた事を気付かないくらいの切れ味で、骨までキレイに断っている。

あれらを奪う事ができたら……こいつらを殺した上で、道の駅で偉そうにしているあいつらも……へへっ。

山下は密かにほくそ笑んだ。貴重な医薬品まで使って俺を生かした事をせいぜい後悔させてやるさ……




皆で手分けして捕まえた連中に個別に話を聞いて、この男たちがこの先にある道の駅を拠点にして生活している事が分かった。この辺りは海の幸も山の幸も豊富で、自分たちでも畑を作ったりしてなんとか生き延びているとか。

しかも彼らは感染者や略奪者に対しての見張りであそこにいたらしく、このコミュニティでは、自分達からの攻撃はおろか略奪行為なども厳しく禁止されている、らしい。

カナタが話をした男性はひどく憤っていて、そういうグループだと思われた事がくやしいと言っていた。


今はその道の駅に向かっているのだが、途中にあった民家にお邪魔して小休止をとり、個別に話を聞いていたのだ。


「山下のせいで……」


どこからかそんな声も聞こえた。山下というのは手首を斬られた男らしい。山下のせいでこんな事になった。とか、信用を失った。などの声も聞こえてくる。


「野宿した方がまだ安全だったかもしれないな」


少し離れた所でヒナタとハルカがいた。カナタは二人に近づきながら声を落としてそんなことを言った。


「怪しい?」


やや不安げにハルカが聞いてくる。


「うーん……いまいち言ってることが信用できないんだよなあ。俺たちから略奪をしようって時、誰一人止める奴はいなかった。なんならノリノリだったと思う。でも……」


カナタが聞いてきた話をハルカ達にも聞かせるとハルカ達も眉を曇らせた。


「なんか山下って人のせいにしてごまかそうって感じが見えるね」


憮然とした表情でヒナタが言った。ヒナタは特にコロコロ立場を変えたり仲間を平気で売るような奴が嫌いだから余計に気持ち悪いんだろう。


「その山下って人は?」


ハルカも不安な表情のようで、そう聞いてくる。


「別室で寝かせてる。アスカと由良が見張りをしているはずだ。」


「大丈夫なの?」


カナタが答え、ハルカが心配そうに言った瞬間だった。


ガチャン!


向こうで何かが割れるような音がして、騒いでいる声が聞こえてきた。……こりゃゆずにトラブルメーカー扱いされても何もいえないな。カナタはそう呟きながら音がした方へと急いだ。



「おい!こいつの声が今後も聞きたいならおとなしく俺に武器をよこせ!」


音がした部屋に行くと、山下というらしき男が包帯を巻いた右手で体を支えながら左手で由良の喉を掴んでいる。アスカがその正面で何とか落ち着かせようとしているようだが、山下は聞かずに武器をよこせと一点張りの様子だ。


「む、私はけして近づくなと言った!」


カナタ達が来ると、同じく騒ぎをききつけたのかゆずも来ていてアスカ達を叱っていた。


「し、すいません!咄嗟の事で……それに由良はその男性の事が……」


謝りながらアスカが何か言いにくそうにしていた。


「ああ、昔男性に乱暴されて極度の男性不信って言ってたっけ」


そう言ったカナタの顔をちらりと見たゆずは苛立ちも隠さないで叫ぶように言った。


「由良!男性不信というなら遠慮しなくていい。ぶっ飛ばしてこい!」


ゆずは大胆にもそう言ったが、見る限り由良には難しいように見える。けが人である山下から逃げ出せないばかりか、真っ青な顔で今にも倒れそうにしている。


どさくさにまぎれて山下の腕が胸などにも触れているのだが、由良は一切反応を見せない。


「くっ!」


ゆずが怒りに任せてライフルを構えるが、山下は巧みに由良を盾にしている。


「おいおい、仲間ごと撃つつもりかぁ?いいからさっさと武器を持ってこいやあぁ!」


ゆずに対して牽制しながら山下はじりじりと下がりながら叫び散らしている。その後ろには大きめの窓があるので、下手したらそこから逃げられる。その場にいる者達がそう考えた時だった。


ガラリと音を立てて、ドアが開いた。間の悪いことにお盆を抱えた花音が入って来たのだ。


「食事のしきゅ……え?」


いきり立つ山下が由良の喉をつぶさんばかりに締め付けて立っている。そんなところに出くわして、花音は一瞬ぽかんとしてしまった。


「あ……」


お盆を落とし花音は踵を返したが、山下のほうが一瞬早かった。震えて動けなくなっている由良を離し、花音に手を伸ばして乱暴にその肩を掴んだ。


「痛いっ!や、やめ……」


悲痛な声を出した花音を見て、山下は一層嗜虐的な表情になる。


「へへ……いいのかおい!子供が痛い目を見る事になるぜ?」


「いやだ!」


花音が身をよじるが山下はがっちりと花音を掴んでいる。


「おい、さっさと武器を奪ってこい!」


山下がそう叫ぶと、いつの間にか後ろに来ていた男たちがカナタ達の武器を取って山下のほうに歩いていく。


「へへ……悪いな」


そう言ってハルカから刀をもぎ取っていったのは、さっき話をした時に山下の所業に憤っていた男だ。悪びれることなく武器を奪い、それを構えた。


「あなた達!」


ハルカが憤慨した声をあげるが、男たちは全く意に介した様子はない。つまるところこれが本性という事なんだろう。


「これで全部か?ああ、あと食いもんだ!あるだけ持ってこい!早くしねえとこの嬢ちゃんのかわいい顔がどうなるかわかんねえぞ」


「やめとけ」


「あ?」


「悪いことは言わない。やめておけ」


怒りに震えるでもなく、感情をむき出しにするでもなく、普通の口調で発したカナタの言葉だった。それはこの場面においては異様に感じられ、その場が静かになった。


「もう一度だけ言うぞ?やめとけ」


武器も取られ丸腰のカナタはただその場にまっすぐ立っている。一瞬気圧された山下が顔を真っ赤に染めていく。


「てめえ、ふざけてんじゃねえぞ!死にたいのか、ああん?それともこいつが死んでもいいのか!」


唾を飛ばしながら激高して花音の腕を掴み、見せつけるようにしたその時。


山下に掴まれたまま、花音はその場でくるりと宙返りをした。自らも山下の腕をつかんだまま。


人間の関節の可動範囲は当然ながら限りがある。花音が宙返りしたことで、山下の腕の関節の可動範囲はあっけなく限界を迎える。後には腕の関節を極められ、地面に伏せる山下とそれを抑える花音の姿があった。


「ぎゃあ!いてえって、放せ、おい!」


「え?」


言葉も出せないとはこの事だろう。武器を奪い、圧倒的優位な立場に立っていると思っていた男たちは咄嗟に対応する事もできなかった。


「えい」


さらに花音が手近な男の足の健だけを斬った。


悲鳴を上げて倒れこむ男の姿を見て、混乱に拍車がかかる。その程度の者がいくら武器を奪い、武装していようが人質さえいなければカナタ達の敵ではない。

全員を再び取り押さえるのに三分とかからなかった。


「だからやめとけって言ったのに……」


カナタが苦笑いしながら呟く。その隣で、暴れる男の関節を極めながら花音はにこやかに言った。


「えへへ。私も頑張って修行したかいがありましたね」


カナタ達が任務で出ている時など、隊の宿舎に一人で待っていた花音。彼女は一人待つという事を良しとはせずに、日々訓練に明け暮れていた。その成果を発揮することができてご機嫌な様子だった。

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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