3-4
男はまるでカナタがそう答えるであろうことを予想していたかのように笑いながら言った。
「俺たちも鬼じゃねえ。ここらはまだマシだが、人口の多い都市部なんかは地獄みたいな状況だからな。大事な大事な武器を無理やりって事はしないさ。ふ~ん、見ればなかなかいい武器みたいじゃないか」
男はニヤニヤと笑いながらカナタ達を舐めるように見る。特にゆずやヒナタ達女性陣を見るときなどは下卑た視線を隠そうともしていない。
男はそう言うが、カナタ達は武装のほとんどをまだ荷物の中から出していない。カナタやヒナタは腰に刀を下げているが、他の面々はいかにも作り物めいた支給用のライフルを持っている。
そんな事はつゆ知らず、男はもはや舌なめずりしそうな顔になっている。
「そうだなぁ、武器は勘弁してやる。食料もあまり取らないでやる。ただ……女は置いていけ。」
とうとう本性をあらわした男は嗤いながらそう言い放った。
「どうせ連れていってもゾンビどもに喰われるか、他の奴らに奪われるだけだぜ!」
「お姉ちゃんたちも死にたくないよなぁ!ここはよそより安全だぜ?ちゃんとお仕事さえしてくれればうまいもんだって食える。きっとろくなもん食べてなかっただろう?」
ぎゃははと笑い声をあげながら、これまで黙っていた男たちも騒ぎ出した。
カナタは、そこでようやくピンときた。こいつらに感じた違和感。最初双眼鏡越しにお互いの姿を確認した時、こいつらは明らかに動揺していた。その様子から、下手したら姿をかくしていない振りをするんじゃないかと思ったくらいだ。
しかしこいつらはわざわざ車両を動かし、道を塞いで姿を現した。右往左往していたのは迎え撃つ準備と仲間も呼びに行ったりしていたのだ。
こいつらは……俺たちの姿を見て一度は逃げようとしていたのだろう。だが、俺たちに女性が同行している事に気付いて襲う気になった。争って勝つために、放置された車両でバリケードを作り、さらには……
カナタはスッと視線を動かした。道路の両脇に茂っている木々の所々に気配がある。森に隠れて、戦いになったら後ろから襲い掛かるつもりなんだろう。
視線を男たちに戻す途中でヒナタと目が合う。小さく頷いたのはヒナタ達も気づいているという事だろう。
「はあ……」
カナタは肩を落としてため息をついた。どーしてこんなんばっかり沸いてくるのか……いくらなんでもこんなのばっかりってわけじゃないだろうに……
心の中で嘆いていると、ゆずがぽつりと呟いた。
「今度も見事にクズを引き当てたカナタ君は、もう胸を張ってトラブルメーカーを名乗っていい……」
などと、そのトラブルの原因の筆頭みたいなやつが宣ったことで、穏便という言葉がカナタの頭の中からdeleteされた。
「なあ」
「ああ?」
低い声でカナタが言うと、男は反射で言い返してくる。もはや頭の悪そうなただのヤンキーである。
これ見よがしにクロスボウをちらつかせながら、脅しのつもりかカナタの方に何歩か近寄る。
「シュッ!」
「へ?」
鋭く息を吐いたカナタの姿がぶれた。男は何が起きたのか分からないでいる。
全く構えていない自然体の状態から、一瞬で刀を振り抜いた姿になっていたカナタがビュンと音を立てながら桜花を血振るいした。
そしてキンといい音をさせて、桜花を納刀したところで男はようやく自分の手首から先がない事に気付いた。
「ああああ!おでのてっ、手がああぁ!!いで、ヒイイィィィ!!」
驚きなのか痛みなのか、それとも怒りなのか……よく分からない感情で男は自分の腕を握りながら数歩後ずさり、しりもちをついた。
「あああああぁぁ!!」
男が泣き叫んでいるのを見て、ようやく他の連中が正気に戻った。
「てめえ!」
もう一人のクロスボウを持った男が、納刀を終え自然体で立っているカナタに狙いを定めて撃った。カナタはそれを見ているが身じろぎもしないでいる。
ビシュツという矢が放たれた音がすると同時にキン!という金属音があたりに響く。
「…………あ?」
クロスボウを放った男は口を開けたまま固まっていた。その視線の先には刀を振り抜いたヒナタの姿がある。なんとヒナタはクロスボウから発射された矢を空中で斬ってみせたのだ。
「ふふーん♪私もなかなかでしょ?」
男たちは時間が止まったようにしている中で、ヒナタがそう言ってスキップしながらカナタに近寄る。
「いや、もうまともにやりあったらヒナタの方が強いんじゃないか?」
「もう!お兄ちゃん、そこはそう思ってても強がって「いや、まだまだだな」とか言わないと。そして陰でめちゃくちゃ練習してもっと強くなるの!」
カナタが返した答えが不満だったのか、ヒナタは口をとがらせている。カナタは、それどこの主人公だよと言いながら苦笑して返している。
命の奪い合いをしている最中に、呑気な会話をしだしたカナタとヒナタを男たちは呆然と見ている。
「クロスボウは連射ができないのが欠点。ただでさえそうなのに、撃った後にぼうっとして次の矢を準備しないのは大きな減点」
さらに、いつの間にかクロスボウを持つ男に近づいていたゆずがダメだししながら支給品のM-4を突き付けている。いや、突き付けてというか、もはやどついている。だってゴッ!ってにぶい音してたし……
道路の左右の森に隠れていた男たちは、戦いが始まったとみて、道路に一歩踏み出したところで足を止めていた。
木刀や金属バットなどの鈍器をもっていたが、それらを投げ捨てて膝をついて両手を上げた。次々としかもあっさりと制圧された仲間を見て、動きが止まっているところをアスカと由良が制圧したのだ。
「あ、ああ……」
周りが次々と制圧されていくのを見て、手首の痛みも忘れたのか言葉もなくせわしなく周りを見ていた男は、苦笑いしながら近づいてきたカナタに思い切り峰打ちされて意識を飛ばした。
その時点でバリケードに隠れていた他の者達も次々と両手をあげて出てきて降伏を申し出てきた。
「どうやら素人の集まりだったみたいね」
「これで今までよく生き残っていたな」
あまりにもあっさりと制圧したために出番がなかったハルカやスバルは降伏してきた者達を後ろ手に縛っていき、整列させるとスバルが手際よく全員を縛り上げた。
「よし、これで完成。」
両手をパンパンと払いながらスバルが得意げにしている。
「なんか……斬新な縛り方だな」
黙って見ていたカナタが言った。両手を後ろ手縛り、首に回して見た事のない結び方をして次の者に……という感じで全員を連結している。
「うちの部隊に元レンジャーがいてさ。いろんなロープワーク知っててさ!俺も習って練習したんだ。いろいろと便利だぜ?例えば今回みたいな縛り方をしたら手と首は縛ってるけど足は自由に動くから、護送する時にも自分の足で歩かせられる。さらに誰かが歩かなかったりわざと歩調を乱したりしたらメインのロープが張って、全員の首が締まるんだ。」
そう言って、スバルがロープの一部分を軽く引っ張ると全員の顔が歪んだ。首が締まっているらしい。
「こわっ。なんだそれ!」
思わずカナタがそう言うと、スバルは面白そうに笑った。
「他にもいろんな縛り方や結び方を教えてもらったからな。機会があれば見せるよ」
そう言うスバルに、冗談を言って返しながらもスバルが「うちの部隊」という言い方をしたことにわずかに寂しさを感じてしまうのだった。
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