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「ようやく陸地が見えてきたな……」
思わず独り言がこぼれる。警戒しながら進むので以上に時間がかかってしまった。幸いあれから襲撃はなく、無事に橋を渡りきることができそうだ。
一人胸をなでおろす思いをしていると、釘を刺すような声が頭上から降ってくる。
「まだ安心するのは早いみたい。あそこを見て」
双眼鏡で狙撃に対して警戒をしていたゆずが指した方向には大きめの建物がある。木々の中を走る道路を上ったところにあるその建物は瀬戸内海を一望できそうだ。見晴らしと狙撃ポイントにはよさそうだ。
「それとあそこ」
次にゆずが指したのは正面方向。今通っている道路の上を交差するように道があり、よく見るとそこにチラチラと動くものが見える。
「生存者か……どっちだと思う?」
難しい顔になったカナタが誰ともなく聞くがそれに答える者はいなかった。カナタの言うどっちか?というのは敵かそれ以外かという意味だったが、この時点で分かるはずもないのだ。
「ああ~……なんかバタバタしてるねえ。随分びっくりした顔してるけど何かあったのかな?」
ヒナタもいつの間にか双眼鏡を取り出して見ていた。
「あいつらは見張りかな?ほら上に見える建物に道が続いているし、あそこを拠点にしている奴らがいるんだろ。そんで橋をトコトコ歩いてくる奴らがいたんで慌ててんだろ」
「あ、原因は私たちかあ!フフッ、何も慌てなくてもいいのにね?よかったねお兄ちゃん!さっそく生き残ってる人たちに会えたよ」
なんでもない事のように言うスバルの言葉を聞いて、楽しそうにヒナタは笑っているがカナタ達の表情は優れない。よかった。と、思えるといいなぁと心の中でつぶやいていたくらいだ。
「お?」
無用な刺激を避けるためにカナタ達はその場で小休止をとっていた。どうやって接触するかを話し合っていたのだが、遠目にも右往左往しているのが見えた生存者たちに動きがあったのだ。
カナタ達がいる道路に数人が下りてきて何かしている。
「あー。なるほどなるほど、バリケードね」
降りてきた男たちは廃棄された車を押して、道路をふさぐようにした。おそらくいつでもそうできるように位置を修正してサイドブレーキも解除していたんだろう。
大鳴門橋を渡って来たカナタ達が四国から来たという事は考えなくてもわかるだろう。そして揃いの隊服に身を包み武装も特に隠していない。
どうみても避難民には見えないはずだから、一般市民であれば妙なことは仕掛けてこないはずだが……
様子を見ていると、数人の男が両脇に配置につくように移動し、二人の男が廃棄車両で作った即席のバリケードを越えて歩み寄ってくるのが見えた。
「……なんか持ってんな。銃じゃないみたいだけど。ま、向こうから見たら俺たちだって不審なグループだ、警戒してるだけかもしんないけど……油断すんな」
油断なく装備を確認したスバルがいつでも戦闘に入れるよう準備しながら、主に新人二人に向かってそう言った。
早めに発見した事もあり、相手との距離はたぶん1kmくらいある。黙って見ていると、近づいていた二人の男たちはこちらと味方の方を何度か振り返って手で大きく「こっちに来い」と合図してきた。
あまり離れるとせっかくバリケード作った意味ないもんな。
「どうする?近寄ってみるかい?」
すっかりおなじみになったポリカーボネイト製の盾を構えたダイゴがカナタの方を振り返って聞いてきた。
「まあ……。ここしか道はないから行くしかないもんな。よし、警戒しながら接近!決してこっちから攻撃はするなよ。示威行為もなしだ。できるなら穏便に接触したい」
「見える範囲に銃器持ちはいない。こっちに来てた二人がクロスボウを持っているくらい」
素早く相手の装備まで確認したゆずが全員に伝える。そして二人の後輩に今取った行動の意味やポイントなんかを小声で教えだした。不安なところも多いが、ゆずも先輩として自覚をもっている事に嬉しくなってくる。
少しだけゆず達を微笑ましそうに見ていたが、カナタも前を向いて歩き出す。
「さあ、第一生存者との接触だ」
少し冗談めかして言いながら……
「そこで止まれ!」
用心を怠らずゆっくりと進んでいると、お互いの距離が100mほどになったところで生存者の男から声が飛んできた。おそらくはこれくらいの距離が向こうの武器での交戦距離なんだろう。
しかも近づくにつれ、道を塞ぐようにあった放置車両の数が減っていき、とうとう相手のバリケードに使われているくらいしか無くなる。
「お前たちは何者だ!」
油断なくクロスボウを構えながら男が誰何してくる。声から察するにまだ若い、たぶんカナタ達とそう変わらないくらいだろう。クロスボウを構えて車両を盾にするようにして道路の左右に立っているのが二人、後方のバリケード付近に五~六人いる。そして今いる道路を交差して上を通ている道に数人隠れているようだ。上の道は位置的にも見えにくいし、さらにガードレールもあり、ほとんど様子は見えない。
「聞こえてるのか!何者だと聞いているんだ」
イライラしたように男が再度聞いてくる。あまり怒らせるのは得策ではないかもしれない。
カナタは身を隠していた気の影から両手を上げて出て行く。ダイゴが盾を構えてついて来ようとしたが、目線で皆を守るように伝えておいた。
「俺たちは№都市から来た。偵察が任務だ。見ての通り武装はしているが争うつもりはない!」
両手を上げたまま誰何してきた男をまっすぐに見て言った。男は……というよりここにいるほとんどの者がヘルメットをかぶり、口を覆うようにバンダナを撒いているので、人相はおろか感情も読みにくい。
「偵察だと?№都市っていうのは……四国に作られた壁の向こうにあるところか?」
男は№都市という名称が聞いたことなかったらしく、そう聞き返してきた。
「そうだ!俺たちは都市の守備隊……治安維持のための部隊の者だ。俺たちの目的は状況の確認と、岡山の倉敷あたりにいるグループの情報を集めに来ただけだ。黙って通してくれれば争うつもりもないしおたくらの縄張りでは物資あつめなんかも避けよう。お互いに無用の争いは避けたいはずだ。通してくれないか?」
今度ははっきりと目的まで告げてカナタが言うと、一度後ろに下がった男たちは顔を見合わせてこそこそと話し始めた。
そしてしばらくして戻ってくると、隠しきれない「欲」をにじませ、唇をゆがませて言い放った。
「確かに「無用」の争いは避けたいしするつもりもない。だが、「無用」でなければ争いも辞さないぜぇ?いいか、ここはいわば関所だ。ただで通すわけにはいかない。そうだな……武器と弾薬、食料の半数、をもらおうか」
もはや欲望を隠すこともしなくなった男はいやらしい笑みをバンダナ越しでもはっきりとわかるくらい浮かべてそう言った。
「どうせこの先で殺されて奪われるんだ、俺たちに渡した方がよっぽど有意義だぜ」
囃し立てるようにバリケードに隠れたほうからもそんな声が飛んでくる。
……やっぱりこうなるのかぁ。交渉中のため、余所行きの表情は崩さないままだが、心の中でカナタは嘆いていた。
(っていうかこいつら俺たちの姿を見つけた時に明らかに動揺していたのに……なんでこんな強気で言えるんだ?)
そこが不可解な点だった。遠くからお互いの存在を確認した時、こいつらは明らかにどうようして右往左往していた。カナタも双眼鏡越しにはっきりと確認していたのだ。
「……これから危険な場所に向かおうとしているんだ。むしろ足りないくらいなのに、武器を渡せるわけないだろ。食料もいつ補給できるかもわからないのに……当然渡せないな」
少し疑問に思うながらもカナタははっきりと拒絶する。この場で承知するやつがいたら見てみたいレベルだ。
カナタがそう答えると、男たちは怒り出すこともいきりたつこともなく、まるでそう答えるのを分かっていたかのように見える。
そしてにやりと笑うと言った。
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