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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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2-8

「というわけだから、これから№4の代表に会いに行く。俺たちだけで判断できることでもないしな。異論はないな?」


カナタがそう言うと、夏芽は両手を頭の後ろで組んだリラックスした格好のまま頷いた。こいつには緊張感ってものはないのか……


「分かってると思うけど、お前は捕虜に準じた扱い。みんながカナタ君みたいに優しく扱ってくれると思うな」


立つように促しながら辛辣な言葉を投げかけているにはゆずだ。ゆずは最後まで拘束してから連れていくべきだと主張していたくらいだ。


「まあそういじめてやるなよ。俺だって全面的に信用しているわけじゃないさ。ただ今回話した内容については信じてもいいかなって思ってる」


なぜかは分かんないけどな。そう言って笑うカナタをゆずとヒナタは呆れたような顔で見ていた。そうして移動しようとして一歩踏み出したところで急にカナタが立ち止まる。そして振り返った時にはさっきまでの雰囲気とは一変した表情で夏芽を見据えた。

その雰囲気に、夏芽はおろかゆず達も一瞬立ちすくむ。


「ただ確認しておくことがある。お前……なんでこんな事をした?」


触れただけで斬れそうな殺気……とかではない。怒りなどの感情を込めた、というわけでもない。ただ前に立っているだけで気圧されるような空気をカナタは発している。


「な……え?こんな事って?」


いつもの飄々とした雰囲気も出せず、おそらくは素の表情になっている。カナタに問われた事が何を指すのかすぐには理解できずに、言葉に詰まりながら問い返すことしかできなかった。


「ここの事だよ。本土の情報を持って俺たちに接触しようとしたのはわかる。もう感染者でないなら大した力もないお前が取れる行動はそう多くないからな。ただこの訓練校を乗っ取ったみたいなやり方は迂遠すぎるだろう。ここまで潜入できたんなら普通に接触しようと思えばできたはずだ」


そこまでカナタが言うと、ようやく納得したのか夏芽は大きく頷いて片手ピースサインを作った。


「理由は二つある。まずは……信じられへんかもやけど、ウチは別にここを乗っ取ってどうこうするつもりはなかったで。たまたまここに潜入した時には教官っちゅうにはおこがましいようなガラの悪い連中がでかいツラしとったわ。あと一つは……ほんまにギリギリやってん。ここにたどり着いた時には死ぬ一歩手前やった。向こうで体いじくられて感染素体とかってやつを切り取られたらしいけど、目的のモン取ったらウチの事は切り刻んだまま放置しとってん。少しはマシな奴がおって、応急処置だけはしてくれたけどな。しかもそんな状態で逃げないかんかった……追手もかかったし、烏間のオッサンも途中で倒れた。ウチもようやくここについた瞬間意識なくなってしもうたくらいや。ベッドから立てるようになったのもここ最近の事やで。」


奥歯を食いしばり語った内容はカナタ達を凍り付かせるに十分だった。飄々とした雰囲気でそうとは悟らせないが、夏芽はかなりの死線をくぐってここまで逃げてきたようだ。

そう言われて見ると確かに痛々しいほどの包帯が巻いてある。出会った時が不死者だったからかケガの程度に考えがおよんでなかったのだ。


それでもまだ疑わしそうに包帯の巻いてあるところを見ているゆずを見て、夏芽はとんでもない行動に出た。


「あっ!ちょ、おい……」


止める間もなかった。上着を脱いだと思えば勢いよくTシャツを脱ぎ捨てた夏芽は下着をつけていなかった。止めようと近寄ったカナタは途中から目を逸らして後ろを向くくらいしかできなかった。


後ろから聞こえる衣ずれの音から察するに夏芽は最後まで脱いでしまったようだ。


「案外ウブなんやな。……ウチはかまへんで。さんざんいじくりまわされた体や。研究材料としか見てなかった佐久間のおっさんはともかく、本土では晒しもんにされたしな。…………見るだけで済むはずもないしな」


小さく、しかし深い感情がこもったような声でつぶやいた最後の言葉は、聞こえなかったことにした。夏芽も触れられたくもないだろう。


「お前が構わなくてもこっちが構う。カナタ君はそのまま後ろを向いてて。……夏芽、お前よく生きてたな」


カナタに振り向かないよう告げた後、おそらく子細に調べたのだろう。ゆずは最後にそう呟いた。ヒナタが息を飲んでいるのは見ていないカナタにもわかるくらいだ。ゆずもカナタも世界がこうなってからかなりの数の人の生き死にに関わって来た。凄惨な状態だって何度も見てきている。そんな二人がそんな反応をするのだ、つまり……それほどの事ということだろう。


「……分かった、夏芽。少なくともお前が今話した事だけは信じる。」


絞る出すような声でゆずがそう言った。ヒナタも黙って夏芽が脱ぎ捨てた洋服を拾っているのが見えた。


「これ大丈夫なの?え……動けるの?」


洋服を着るのを手伝っているのだろう、ヒナタの心配する声も聞こえる。Tシャツを勢いよく脱いだ時、カナタにも一瞬だけ見えたが、白い肌の体の中心。小ぶりな乳房の間を通ってへその下まで生々しい斬り傷があった。赤く盛り上がった傷跡はそれがまだ新しい事を示している。そのほかにも、まるでメスを入れてない箇所はないと言ってもいいほどの傷跡があった。


「感染していた名残かしらんけど、痛覚が薄い気がすんねん。じゃないとさすがに動けんやろな。もうええで、服は着た」


夏芽がそう言うので、ゆっくりと振り返るといつもの夏芽が立っていた。どこか掴みどころがなくて飄々とした雰囲気で。その隣には険しい表情になったゆずと目を赤くしているヒナタ。


「…………ヒナタ」


「……正直言って動いているのが不思議な状態。本当に最低限の手当てしかされていないからか、傷の状態もよくない。縫合も雑でいつ開いてもおかしく無い!そもそも……切る時点で治す事を考えてないような切り方をしてる。……それに…………これをやった人は人間じゃない、そう思う……」


カナタに問われ、傷の状態を話していくうちに、こらえきれなくなってきたのか声を震わせるヒナタ。吐き出すように最後の一言を付け加えた。


「あ~……なんかごめんな。傷見せるのが手っ取り早いと思うてん。見て気持ちのいいもんじゃないしな……それに女の子が見るようなもんじゃないもんもあったしな……悪かった」


深く衝撃を受けている二人に、普段とそう変わらない口調で夏芽は言う。ただ最後のくだりはカナタにはわからない感情がこもっていたように思った。二人の様子や夏芽の口調から、おそらく実験や研究とは関係のないような暴行の跡もあったのだろう。


「…………夏芽、しばらく待て。ゆず手伝ってくれ、担架を作ろう。間に合わせの物しか作れないだろうけど、ないよりましだろう。ヒナタ、夏芽についていてくれ」


カナタがそう言うと夏芽は両手を振って言った。


「ああ、大丈夫やで。さっきも言うたけど、なんか痛覚が薄いねん。だから見た目はともかく動くのはにはそれほど支障ないで。……付き添いもいらんよ、割り切っとるしな」


普段と変わらない口調で夏芽は言う。ただ、ほんの少しだけ苦しそうな感情が見え隠れするのは気のせいではないはずだ。そう考えたカナタがあえて雑な口調で言い返した。


「何言ってんだ、監視だよ監視。担架も俺たちが迅速に動きたいからやるんだ。捕虜扱いだっつってんだろ?お前に拒否権はないんだよ!」


そう言い捨てて、カナタは手近な教室を物色し始めた。けして夏芽とは視線を合わせないようにして……

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