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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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2-7

「とまあ、そんな感じで捕まってん。こっから先はあんまり愉快な話やないからな。自粛しとくわ。なんやかんやあって実験台にされたあげく、佐久間のオッサンがウチに植えた感染者の素みたいなもんを抜き取られてしもうた。そんであとは用済みとばかりに放り出されたってわけや。さっきも言ったと思うけど、この辺りと比べて本土はもっと過酷な環境にある。そんなところで生き残っている奴らや、手ごわいし人を殺すことなんて屁とも思うとらん。弱い奴らから奪って生き残って……生き残った同氏がまた食料や武器の奪い合いをする。そうやって残って来た奴らや。そんな奴らが生き残るために必死で観察して研究して……感染者の対する研究もそれなりに進んでるみたいやった」


夏芽は飄々と、まるで他人事のように話した。軽い口調で話していたが内容はかなり重い。


「さらにもう一つ!」


想像を超える話の内容に言葉を出せないでいた俺に夏芽が人差し指を立てて目の前に持ってくる。


「この情報が多分あんたらにとって一番価値があるはずや……」


そう言うとにやりと笑った。





パタパタと廊下を走る音が近づいて来ている。それは俺にも聞こえていたが、俺は夏芽から聞いた話のせいで反応できないでいた。


「ほら、お仲間が来たみたいやで。勢いに任せてウチの事撃ち殺さんように気ぃ付けてや」


夏芽がそう言うが早いか、ガラリとこの部屋の扉が開けられた。そしてそこから顔を出すゆずとヒナタ。


「お前!」


ゆずが夏芽の姿を見た瞬間、腰のホルスターに手を伸ばし拳銃を抜いて構えた。時間にして一秒かかってるんだろうか、それくらい早く手慣れている。

ゆずもすっかり頼もしくなったなぁ……


そんな場違いの事を考えながら夏芽を狙うゆずの射線に割り込んだ。


「まて、ゆず。彼女はとりあえず敵対の意思はないらしい。貴重な情報ももっていそうなんだ、彼女は|十一番隊

《ウチ》で確保する」


「情報?そんなもの拷問でも何でもして吐かせたらいい。こいつらは都市に対する裏切り者の一味、カナタ君もこいつらのせいで捕まってあんなことに……」


鼻息も荒くゆずはそう言い放った。よく見るとこの部屋に入って来たのはゆずとヒナタだけではなかった。もう一人知らない男が床にうずくまっている。なんだか顔が腫れているが……深く聞くのはよそう。きっとこの部屋までの案内をお願いしたんだろう……


「お兄ちゃん、その人の事を信用するの?」


目を離すとすぐにでも発砲しそうなゆずの隣ではヒナタが腰の短刀の鯉口を切っていつでも抜けるように構えながらカナタにそうたずねてきた。

ヒナタはいくらか冷静には見えるが、夏芽が少しでも不審な動きをしたならばすぐにでも抜刀して斬り付けるだろう。じっと力を溜めるようにして構えるヒナタの姿は極限まで縮めたばねみたいだ。


「信用は……していない。ただ情報には聞く価値があると判断した。ゆず、ヒナタ……言わばこいつも佐久間の被害者だ。有無を言わず殺すのは間違っているし、抵抗していない者を拷問するなんかもってのほかだ」


そう言ったカナタの言葉をそれぞれがゆっくりと考え出す。そうしてしばらくするとゆっくりと構えを解いた。


「カナタ君が言うなら従う。ただ少しでも変な事をすれば秒で脳天に空気穴をあけてやる。覚えておくといい」


拳銃をホルスターに戻しながらも夏芽に対して敵意を隠そうともせずゆずはそれだけ言ってカナタの後ろに控えた。それを見たヒナタも短刀から手を離してゆずの隣に移動する。


「ふう……とりあえず助かったわ。そっちのねえちゃんらは話とか聞かずに殺しにかかってきそうな気がしてたからな。なんつー殺気や……怖いわ」


2人が戦闘態勢を解いたのを見ると夏芽は大きく息をつきながらもそんな軽口を吐く。軽口こそ叩いてはいるが夏芽の顔色は悪いし冷や汗もかいているように見える。

それはそうだろう。言ってることが本当なら今の夏芽は普通に死んでしまうのだから。そしてそれがおそらく本当の事であろうという事は、夏芽の今の姿を見ると簡単に想像できた。



「……というわけや。敵対の意思がない事は分かってもらえたか?」


カナタ君に話した事をもう一度話せ。と、ゆずに強要されまた同じ話を一からするはめになった夏芽は面倒そうな顔をしながらも素直に最初から話した。言う事に従う事でも敵対の意思がない事を示したいのだろう。


ゆずは話を聞いた後も夏芽となぜがカナタの顔をチラチラと見ていたが、やがて小さく鼻をならして今度こそ殺気も引っ込めた。


「じゃあ契約は成立ってことでいいな?話すだけ話させて後からバン!……なんてのは無しやで?」


夏芽はそう言って俺たちの顔を見渡して再度確認すると椅子に座っていた態勢を正して話し始めた。


「佐久間が連絡をとっていたグループ……そこのリーダー的存在がいてな。なんか小難しそうな話ばかりしとったし実際に感染者も捕まえてきて研究してたし、ウチの感染の素を取り出したのもそいつや。その時ウチは麻酔をかけられていたんやけど、切れかかっていたのか体はよう動かさんかったけど意識はあったから聞いていたんや。そいつらは感染者をうまく利用して支配地域の拡大を計画していた。そうなるとどこが目を付けられる?」


そこまで言って夏芽は言葉を一度切った。まさかと思いつつも言葉に出せないでいた俺たちに夏芽はゆっくりと口を開いた。


「ある程度安全が確保されてて、食料や武器の自給もしている。土地は広くアクセスが限られていて守りやすい。さらには先住者がある程度住みやすいように整えている場所……つまりここや。あいつらは感染者を自分の思い通りに使う事で使い捨ての軍隊を作ってこの都市……いや四国に攻めてくる計画を立てている」


真剣な表情でそう夏芽は言った。





「どう思う?」


カナタはゆずとヒナタに向かってそう聞いた。ここには三人しかいない。夏芽の話を聞いた後、相談を理由にして別室に移動したのだ。

もともとは家庭科室だったのか各テーブルに小さなシンクがついている。その部屋のほぼ中央に三人額を寄せ合うようにして座っていた。


「あいつは信用できない。きっと状況次第でまた裏切る。ただ言ってることは本当だと思う。」と、ゆず。


「本土の状況が分からないけど、外から見てここが攻めにくいだろうって事は思ってた。それは逆に言えば守りやすいってことだから……物資の事もあるし、ここを狙うのはわかるかも」と、ひなた。


「でも四国に通じている橋はそれぞれの都市がちゃんと抑えてる。簡単に攻められるとは思わない」


ヒナタの言葉に頷きながらもゆずは四国の状況を語った。ゆずが言うように№都市ができ始めて最初に行われたのが橋の封鎖だ。強固な砦を築き入る事も出る事も徹底的に管理されている。これは感染者の流入、流出を防ぐ役割としても大きい。


しかも砦は橋の手前側に広く作られている。対して中に入ろうとする者は橋を渡ってこなければならない。隠れる場所もなく、幅が限られているので一度に進む人数も限られる。守る側はその一点だけを守ればいいのに対して、相手から見れば扇状に敵が広がっているのだ。圧倒的に守る側が有利だと言える。


「でも、それがわかっているのに攻めてこようとしてるんでしょ?なにかよっぽどの作戦があるんだよ。」


ヒナタが心配そうな表情をしながらそう言うと二人は考え込んでしまった。


「……嘘か本当かわからないけど、夏芽も具体的な内容までは知らないって言ってたしな」


これまでにも守るのに向いていて都市が運営できている。そんな話を聞いて中に入ろうとする者はいた。武力を使って押し入ろうとする者もいればぼろぼろの姿で息も絶え絶えに入れてほしいと訴えてくる者達もいたらしい。しかし都市の上層部の人たちは安定するまでは外部からの流入は受け入れないとし、非情に徹して中に入れる事はなかった。


時にはいくつかのグループが手を組んで攻めてくる事もあったらしいが、簡単に撃退したらしい。


「夏芽の話では感染者を利用するみたいだけど……そう簡単にどうこうなるとは思えないけど……一応松柴さんか橘さんに伝えておこう。夏芽の事も報告はしとかないといけないだろうし……」


そう言うとカナタは反対の声が上がらないのを確認して立ち上がった。



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