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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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2-4

長い事間隔があいてしまいすいませんでした。これから少しづつ復帰していこうと思います。

「なんでここにいる。……夏芽」


それまでと雰囲気をガラリと変えたカナタが平坦な声で詰問する。実戦で剣を振るい命のやりとりを経て研ぎ澄まされた殺気に圧倒されたのかさっきまで騒いでいた男たちは声を潜めてしまっている。

そんな中、その殺気を当てられているはずの夏芽だけがへらへらと薄ら笑いを浮かべたまま緊張感のない様子で立っている。


「まあまあ、落ち着き?もうウチは無害やから。何も持ってへん、すっかり平和主義、ラブアンドピースや」


冷や汗を浮かべ始めた男たちと対照的に、夏芽はへらへらした様子を崩さない。しかもよく見てみれば夏芽は大けがをしている。

武器も持っていない様子だが、感染者を研究していた佐久間の手により夏芽は感染して発症していない半感染者となっている。素手でも十分な脅威であることからカナタは警戒を解けないでいたが、夏芽は意に介す事もなくソファに座り男たちが食べていた缶詰をのんきにつまみ食いし始める。


「どういうつもりだ?」


警戒したまま問いかけるカナタに夏芽は苦笑いを浮かべて言った。


「警戒すんなって言っても信用できんやろうけど……とりあえず刀から手ぇ離そか?今斬られるとウチ簡単に死んでまうねん。」


苦笑いを浮かべながら夏芽はそんな事を言った。確かに普通であれば重症と言っていいくらいのケガを負っているし、薄ら笑いを受かべ人を食ったような態度は相変わらずだが額には汗を浮かべているし、よく見ると余裕がないようにも見える。


……それでもこいつは半感染者。どうして傷が癒えないのかは分からないが油断はできない。


ソファに座り、缶詰からつまみ食いをする時にも傷が痛むのか不自然な動きをして顔をしかめている。とりあえず話だけは聞こうと鯉口を切っていた桜花を鞘に戻す。それでもいつでも抜けるようにしながらカナタは夏芽を見て話を促した。


そんなカナタを見て、夏芽は苦笑いを浮かべながら口にした物を飲み込むといくらか真剣な顔になり話をしはじめた。


「いろいろと思う事はあるやろうが……結論を言うとやな、ウチは死にたくないねん。だから取引せーへんか?」


テーブルに少し身を乗り出すようにしながら夏芽はそう言った。しかしそれだけ聞いたところで嫌も応も返事ができるはずもない。


「取引も何も敵がこんなところに乗り込んで来てるんだ。話しを聞く必要があると思うか?」


正直に言って夏芽のように飄々としていて何を考えているのかいまいちわかりづらいタイプの人間は苦手である。会話の主導権は渡さないと威圧を込めてカナタが言うと夏芽は目に見えて困ったように口をつぐんだ。


「そう言われると身もフタもないな。敵か……ま、たしかにな。ん~……そうや、あんな!ウチは佐久間のオッサンに騙されとってん。好きで敵対してたわけやないねん!」


しばらくじっと考えていた夏芽が、いかにも今思いつきました。といわんばかりの事を言ってくる。


「へぇ……。で?」


「なんや、取り付くしまもないな。まぁ嘘やけど。」


感情をこめずに半目で言い返したカナタに、面白くなさそうな顔になった夏芽はいけしゃあしゃあとそんな事を言った。


「お前な……」


軽い口調で嘘だったと言う夏芽にカナタが呆れて見るが、夏芽は全く意に介してもいない。


「まあ、好きで敵対していたわけじゃないって事だけは信じてほしいねん。じゃないと話が進まんやろ?それにな、もうウチは感染者やないねん。だからこうしてケガしたらなかなか治らんし戦う力もない」


まぁ嘘やけど。またそう言うんだろうと思いしばらく見つめ合うが今度は嘘という言葉は夏芽の口から出てくることはなかった。たっぷり十数秒ほど見つめ合ってカナタはようやく驚きの表情を浮かべだす。嘘や冗談でないとしたらそれくらい衝撃の言葉をあっさりと夏芽は言った。


カナタの表情から驚きの感情を見て、ようやく夏芽も話を続けだした。


「これは嘘やないで。№3から逃げ出した先で奪われたんや」


「奪われた?」


「そうや。№3にいる頃から佐久間のオッサンが懇意にしていたグループがある。そいつらは№3から海を渡って倉敷の沿岸部で生き残っていたグループや」


さらに意外な言葉が夏芽の口から出てくる。四国の外の生存者のグループと連絡を取り合っていたというのだ。№4でも四国の外の情報を調べるために何度か封鎖してある明石大橋を抜けて調査隊を派遣した事があるが、今まで一度たりとも生存者と接触したという事はないし、物資を得る事も出来ずに戻ってくるばかりだった。最悪な話、四国以外では人間は全滅しているのではないかという意見が出てくるくらいなのだ。


「お、びっくるしとるな。どや?価値のある話っぽいやろ?ウチの身の安全を保障してくれるならこの先を話したってもええで?」


驚いたカナタが思わず身を乗り出すのを見て、夏芽はにやりとしてそう言った。なるほど外の情報を交換条件にするつもりか。


……しまった、思わず興味のありそうな態度を取ってしまった。失敗したな……


心の中でそう考え平静さを装うがすでに遅いようだ。


夏芽はニヤニヤしながらカナタを見るばかりで、それ以上は話そうとはしない。


「はあ……。その情報の信ぴょう性は?信用できるかどうかが大前提なんだが?」


この場の主導権の取り合いに負けそうだと自覚しつつせめてもの抵抗にそう言ってみた。


「それは信じてもらうしかないなぁ。でもウチが実際そこに行って、この目と耳で見聞きしてきた情報や。誰かを使って集めた情報なんかよりリアリティはあるで?」


夏芽はニヤニヤした顔を隠そうともしないで言う。とうとうカナタは無言で両手を上げるのだった。



もともと襲ってきたり、抵抗したりしないかぎり手荒なことはするつもりもなかった。夏芽が言うように敵対こそしていたが、私怨はないし主義主張が対立しているわけでもない。


「……わかった。話しの内容によっては見逃す。それでいいか?」


若干悔しさを滲ませながらそう言うカナタに夏芽は満足げな笑みを向け、うなづいた。

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