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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
1-1.新人隊員

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1-11

すいません、少し多忙になってまして……更新が乱れると思います

 「錦さんって松柴さんと会った日にヒノトリの事務所にいた人ですよね?」


カナタがそう尋ねると二人とも頷いた。ほとんど接したことのない人だけど、思い出すのは松柴を連れてヒノトリの事務所に行ったときに心配そうにしてハンカチで汗を拭きながら出迎えてくれた姿だ。


「長く勤めてくれていたし勤務態度も真面目そのものだった。少し肝っ玉が小さいのが玉に瑕だったが……予備隊の設立の時も適任者がなかなか見つからなくてね。補給で走り回っていた錦が手を挙げてくれなければ設立も危うかったかもしれないね。しかしいったい何があったのか……慎重な錦の事だから信用できない奴を近くに置くとは思えないし、長野が押し付けたにしても、もっと上手に立ち回るくらいの事はできそうなんだが……」


表情を曇らせ松柴がそう言うと、隣に立っている橘はそれを心配そうに見ながら付け加える。


「それに仮に乗っ取られたにしても代表に一報もないのは不自然です。錦さんなら一も二もなく代表に知らせてくると思います」


「そうなると……すこしまずいかもしれないねぇ。連絡すらできない状況にあるという事だ。それも最近の話じゃなさそうだし。最悪……」


そこまで言うと言葉を止めて松柴は言葉に詰まる。橘も一瞬つらそうな顔をしていた。


「……とりあえず現況を知ることが一番だね。かといって露骨に動き出すと……もし錦が生きていて、囚われているだけだとしたら動いたがために危険がおよぶ可能性もある。ここは極秘に動く必要がある。向こうに気取られないようにしないといけないからね」


不安そうな表情をしていた松柴だったが、そう言う頃にはすっかり代表の顔に戻っている。さすが違うなと感心していると、ふと視線に気づく。


「ちょ、なんすか。そんなもの言いたげな顔で……あ、橘さんまで!」


気づけば松柴だけではなく橘までカナタとの顔をじっと見ている。


「カナタさん。こういった時は信頼のおける人物に密かに調査を頼むのが一番だと思うんです」


「アタシらが下手に動けば、気づかれたと思って相手も慎重になるだろうしね。錦の身も心配だしの」


二人してそう言いながらずいとカナタに近寄る。


「え、え、?」


ぐいぐい近寄ってくる二人にうろたえていると、松柴が至近距離で言う。


「調査して、くれるな?」


「うまいことあの新人たちを理由に近づく事も出来るでしょう。できますよね?カナタさん」


「ちょ、待って……え?」


◆◆ ◆◆



「と、言うわけで予備隊の調査を行う事になった……」


十一番隊の隊舎に戻ったカナタはちょうど居間でくつろいでいたゆずとヒナタに憮然とした表情のまま事の次第を伝えた。


「と、言うわけでの意味が分からない。私たちはマザーの時も佐久間の時も動いてる。しかも部隊の編成もあって十全に機能しているとはいえない。なんでカナタ君にばかり負担をかけてくる?」


話を聞いたゆずが納得いかないと言った顔でそう言って来た。ヒナタも同じ意見のようで、ゆずの言葉に頷いている。


 ゆずの言う事は分からなくもない、守備隊という組織で考えた場合一つの部隊にばかり負担がかかるのはおかしいし、受け取り方によっては手柄の独り占めをしているようにも見えてしまう。

 

 マザーの時と長野の時の件では大変な目にあったが、その分功績として評価はされている。他の部隊から見れば、なんで十一番隊ばかり特別な任務を受けるんだ。と不満の声は時折耳にする。


カナタ達がマザーや長野の件にかかりきりの間、都市の治安や防衛の任務は他の部隊がカバーしてくれていたのだから。

そう言った点をあげて、部隊でも相談しないといけないからと言って一旦返事は保留にしてもらってはいる。


№4における守備隊と言う組織は軍隊ではないので、代表といえどそこまでの強制力はない。都市の防衛や治安活動は別として、こういった任務を受けるかどうかは任意なのだ。


「どう考えてもカナタ君にばかり負担がかかっている。納得いかない」


そう言ってゆずはプイっと横を向いてしまった。ヒナタも同じ意見ではあるようだが、ゆずほどの露骨には拒否していないようで、今はぷりぷりと文句を言っているゆずを苦笑して見ている。


「まあゆずちゃんの言う事もわかるよ、どこの部隊の人か知らないけど私達たちばかりおいしい任務をもらってみたいなことを言っていると聞いたこともあるんだよね。松柴さんと癒着しているみたいに言う人もいるみたいだしね」


 ヒナタがやんわりとそう言うと、ゆずが勢いづく。

 

「それなら……」


断ればいい。おそらくそう言おうとしたゆずをカナタは手で制した。


「俺は受けようと思う。これは俺の個人的な感情でもあるんだが、やっぱり松柴さん達には恩義を感じてる。パニックが起きた時すぐに№都市に避難できたのは松柴さんが誘ってくれたおかげだし、いろいろ優遇もしてもらってる。それに新人たちの様子も気になる。いまだに心を開いてくれてないだろ?」


新人たちの話をすると、ゆずはぐっと息を飲んだ。配属されて一緒に暮らし始めても一向に馴染む気配がない。かなり強固な壁を感じるのだ。そのくせ何かお願いするとそれが強制的なものであるかのような受け取り方をしている。正直言って、今のところうまくやっていく未来が見えない。


「でも……」


それでもゆずは納得いかないような表情をしている。


「まあ、無理に参加しろとは言わないよ。今回は感染者の群れとやりあったりマザーや、佐久間の作った半感染の奴みたいに、化け物と斬り合う事はないだろうし」


カナタがそう言うとゆずが横を向いたまま半目で目線だけを向ける。


「……カナタ君、そういうのをフラグって言う。そんなこと言ってると、またとんでもない奴が出てくる。」


「お兄ちゃんが言うと全く安全におもえないんだよね」


 ヒナタまでそんな事を言い出して、カナタは焦って反論した。

 

「いや、いくらなんでも都市の中だし、一応味方の施設なんだからそんな事はないだろ、さすがに!」


ゆずとヒナタの言葉に、カナタがそう言い返すと、ゆずは大きくため息をついた。


「……わかった、私も参加する。」


渋々と言った感じでゆずが言う。ヒナタも苦笑いしながら頷いてくれた。


「悪いな、世話になったというのもあるし……知り合いが苦労してると……力になりたいって思うじゃないか」


№4に来てから幾度となく松柴達には世話になっている。それに都市を維持するのに苦労しているところも見ている。


「わかってる……カナタ君は放ってはおけないだろうなとは」


不満そうな顔のままゆずが呟く。そう思ってくれているのなら最初から素直に協力してくれればいいのに……。

 そう思ったカナタの何かを察したのか、ゆずがキッと睨む。


「納得はいかないってだけ!」


ゆずはカナタにそう言うと、立ち上がった。


そして「準備する」とだけ言い残して居間を出て行った。


「待ってゆずちゃん、私も」


そう言ってヒナタも居間を出ていくのを見送っていると、入れ違いにアスカがやってきた。


「隊長、我々も指示を頂ければ……」


多分話が終わるのをうかがっていたのだろう。居間に入るなりアスカは相変わらず固い口調で簡潔にそう言ってきた。


「そうだな……アスカ、予備隊時代の担当教官に会いに行く。ああ、連絡はとらなくていい、案内だけ頼む」


「え……」


カナタの言葉にアスカは固まる。あきらかにまずいと思っている顔だ。


「アスカ達は予備隊の事を話せないんだろう?なら直接聞きに行くしかないじゃないか。これは決定だからな、準備が整い次第行くぞ」


 考える余地を与えない勢いで捲し立てる。そうされると、命令される事に慣れているアスカは、無意識のうちに従ってしまう。

 

「あ……その、は、はい。了解しました」


なんとか姿勢を正すとアスカはそう言い残して部屋に戻って行った。


アスカ達の話を少し聞いただけで予備隊の状況はおかしいと思える。守備隊の隊員育成機関であるだけのはずなのに守秘義務を課したり軍隊のような上下関係を窺わせたり……そのわりにはきちんとした育成を行っているようには思えない。直接話した事はないが、錦という人は真面目な人に感じたし、ヒノトリで会った感じ本気で松柴を心配していたようだったし、尊敬しているような雰囲気もあった。

 

そんな人が松柴の意向を無視したようなやり方をするはずはない。きっとまた何かトラブルが起きているんだろう。


「はぁ……ややこしい事じゃないといいなぁ」


 心からそう思いながら、カナタは準備のため自室に向かう。

 そして、カナタがそう願えば願うほど、大体ややこしい事にぶち当たるのだ。

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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