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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
1-1.新人隊員

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1-8

 小鳥の鳴く声と不思議な違和感を感じながらカナタは目を覚ました。昨日はあれからすぐに解散して自室に戻ったのだが、普段使わない頭を余計に使ったためかベッドに横になるとすぐに眠ってしまっていたようだ。

枕元に置いてある時計は八時をさしている。


「……ん?いつもなら花音ちゃんがとっくに起こしにきてくれるはずなのに」


 朝起こしてもらうのを十才を超えたばかりの少女に任せきりなのもどうかと思うが、それも十一番隊の日常となってしまっていた。

 何よりカナタやゆずが自発的に早起きすると花音はどこか物足りなそうな顔をするのだ。それもあってカナタとゆずに自分で起きようとする気持ちはすっかりなくなっている。

 

 今日は特に早起きする用事はなかったので問題はないが、朝から花音の大声で起こす声が聞けなくて、どこか物足りなく感じてしまい、思わず苦笑いになってしまう。


「すっかり花音ちゃんに起こしてもらうのが当たり前になってんな。そういや隣に住むばあちゃんも朝から花音ちゃんの元気な声が聞こえないと調子が悪いって言ってたっけ。」


 寝ぼけ眼をこすりながらそんな事を思いだし、カナタは一人で笑った。隊舎のある地域では花音はすっかり人気者になっていて、誰も何も言わずとも気にかけてくれている。この近所には子供も少ないのでみんなから可愛がられているようだ。


「花音ちゃんは、すっかりこの地区のアイドルって、うわあぁっ!」


 微笑ましく思いながらベッドから移動しようとしてカナタは思わず大声をあげてしまった。カナタの視線の先には扉を少しだけ開けて顔を出し、カナタを窺う目があったのだ。


「あっ……そ、……ごめ…………」


 部屋を覗いていた犯人はカナタが驚いていると、ドアを開けて半身の状態で何やら言葉にならないことを呟いたと思うと勢いよく頭を下げて走って行ってしまった。


「…………え?」


 驚いた格好のまま固まったカナタが再起動を果たしたのはそれから十秒近くを要した。


「申し訳ありません。由良は隊長を起こしに行ったのですが、どうしても声をかける事ができなかったようです。代わりにお詫びします」


 再起動したカナタが着替えて居間に行くと、背中に由良をかばうように立ち、朝からビシッとした姿勢でアスカがそう言って頭を下げた。


「ああ、いや……なんだ。起こしてくれようとしたんだね。ありがとう。今度花音ちゃんと一緒にやってみるといいよ。俺とゆずを起こす時は遠慮とかいらないから」


 乾いた笑顔を張り付けたカナタがそう言うと、由良ではなくアスカがビシッと敬礼をして「承知いたしました!」と軍令でも告げられたような対応をしてくる。


 その時点で何も言う気がなくなったカナタは曖昧に笑ってリビングに向かった。カナタ達の話し声が聞こえていたのだろう、ヒナタとゆずが苦笑いで迎えてくれた。


「お兄ちゃんおはよ。」


「はよ……カナタ君、ご飯は台所にある」


ヒナタは朝から元気がいいが、ゆずは眠たそうな顔をしている。


「今日はゆずが当番だったのか。……彼女たちは?」


今だリビングの入り口で歩哨でもしているかのような体勢のアスカ達を指して、食事はとったのか聞いてみる。


「あー……なんか、隊長より先に食事はできないって……大丈夫だって言ったんだけど」


苦笑いのままヒナタがそう教えてくれた。見た感じ、ゆずは何かを言う事もあきらめているみたいだ。


「そっかー……えーと、アスカ、由良ちょっといいか?」


カナタは俯いてしばらく考えていたが、振り返ると二人に声をかけた。その声を聞いたアスカは機敏な動作で、由良はおどおどとした様子でリビングにいるカナタの所までやってくる。


「何かお呼びでしょうか」


踵をそろえてアスカが言う。その様子と表情からは親しみなどというものは一切感じられない。そして、なるべくアスカの陰になるようにして立っている由良は視線すら合わせてこない。


「……まだここに来たばかりで慣れないとは思う。何度も言うようだけど、ここはそう堅苦しくない部隊だからそんな気を張らなくていいぞ?食事だって俺に気を遣う必要はないから先に食べてくれていいからな?」


カナタはそう言ったが、アスカは微妙な顔をするばかりだった。


「我々は皆さんが食べた後の残り物で十分です。どうぞ気になさらずに」


頑なにアスカはそう言うばかりだ。隊長であるカナタがそう言っているのに聞き入れようとする気配がない。最後にはカナタの方が根負けしてしまった。


結局カナタが食事をとった後、全員分の食器の片付けをしながら食事をとった様子だった。


◆◆ ◆◆


 

 №3での出来事や部隊の再編制などもあったため、しばらく通常の任務からはずされていた十一番隊だったが、数日前から通常の任務にも復帰している。今日からはアスカ達を加えての業務になるのだがカナタの気は重かった。


 №4の守備隊の通常の勤務は部隊毎の交代制で、朝から夕方までの日勤。夕方から朝までの夜勤、何かあったり、手が足りない場合のためすぐに動けるような場所に詰めておく待機、それから休暇。特別な任務などがない限り、それを他の部隊と順番に行っている。


「基本は月初めに渡される勤務表に従って動くことになる。勤務表は玄関のここに貼ってあるから目を通しておくように」


 本日の十一番隊の勤務は待機番である。基本宿舎か守備隊本部の詰め所で待機しておくか、訓練に時間をあてたりもする。 

 今日は新たにアスカ達が加入した事もあるから訓練場で動き方の確認をする予定にしている。


 待機と言っても、日勤の部隊の手が回らなかったり、都市の内部で治安活動を行っている警備隊からの応援要請などもあったりするので、割と出動する事も多い。そのためには、アスカ達の適性を把握しておくのは急務だし、アスカ達も隊員それぞれのポジションは把握しておいてもらわないといけない。


「質問があります」


カナタが通常時の勤務の流れを説明しているとアスカが手を挙げる。


「そう固くなくていいから……何かな?」


言うのも少し面倒になりながらカナタはアスカを促す。


「本日は訓練という事ですが、いざ実戦となった場合、我々に期待される動きは、矢面に立つことになると思います。盾などは支給されるのでしょうか?」


 真剣な顔でアスカはそう言った。言われたことがすぐに理解できずカナタはぽかんとした顔になる。矢面?盾?


「なんだって?えーと……ああ、君は盾役が希望ってことなのかな?」


何とか頭を動かして答えらしきものをひねり出してみたが、アスカの表情を見ると、違っていたらしい。


「いえ……特に希望はないのですが……もしあればと思っただけです。すいませんでした」


そう言ったきりアスカは口をつぐんでしまった。盾役を希望していて盾が欲しいのかと思ったが、そうというわけでもないらしい。

守備隊では戦闘行為をする場合、特に感染者に対応する時には適正でポジションを決めている事が多い。

 盾役の者が前線で感染者の動きを止め攻撃を逸らしているうちに近接戦闘をする者が積極的に攻撃をしていく。


 場合によってはここに銃や弓などの間接的に攻撃できる者が、狙撃や援護を行う。

ただ銃は、発砲音で遠くの感染者まで呼び寄せたりするし、弾数にも限りがあるので、可能な限り直接的な手段で排除するのが望ましいとされている。

 

 かつての十一番隊で言えば、カナタやヒナタ、スバルが近接攻撃役を担っていて、ゆずが狙撃手でダイゴが盾役と言った具合で動いていた。


 アスカがそれ以上何も言おうとしないので、カナタは一旦スルーしようとしたが、何かが引っ掛かり思い直した。アスカが言った事に重大な意味があるように感じたのだ。


「わかった。これからもきっとよくあることだろうから、きちんと擦り合わせしていこう。アスカ、君は盾役がやりたいわけではないんだな?」


カナタがそう問うとアスカは黙って頷く。


「俺はまだ君達のポジションをどこにするか決めていない。それなのに、なんで盾が必要と思った?ってか、最初に何か言ってたな?自分らが矢面に立つだろうからとか何とか。なぜそう思ったんだ?」


 まっすぐにアスカを見てそう尋ねたが、それにはすぐに答えが返ってくることはない。アスカを見ると、どこか逡巡しているようにも見える。


  カナタは、それ以上何も言わずに黙って見つめていると、アスカが少しづつ話し出した。


 そして、カナタ達とアスカ達の認識が大きく食い違っている事を思い知らされる事になった。

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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