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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
1-1.新人隊員

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1-6

 「あ……あの?」


花音が部屋をノックした時、確かにどうぞとの返事が返って来た。ならばこれは見てはまずいものではないはずだ。それでも花音はこの場の状況を理解することができず、次のの言葉を出せなかった。


「倉田さん?何か伝達忘れでもあったのでしょうか?何かありましたら、どうぞ私たちのほうを呼びつけてください。」


きれいに正座をしたままで、アスカが至って真面目な顔をしてそう言う。


「え?えっと……」


何をどういったらいいか分からなくなった花音が動揺していると、アスカが助け舟を出すように言った。


「取り急ぎの伝達がなければ、どうぞ我々の事は気になさらないでください。もうしばらくしたら隊長殿も戻られるでしょうし……いささか行き違いがあったように見受けられますので……あ!倉田さんは何も悪くありません。すべて我々のせいとおっしゃっていただいて結構ですので」


助け舟を出されたのだろうが、そのアスカの言葉はさらに花音を混乱させた。


「え、ええと……ごめんなさい!カナタさんが戻ったらきちんと説明があると思いますっ!」


とうとう考える事を放棄した花音は、勢いよく頭を下げるとそう言って部屋を後にした。きちんと新人さんの案内もできなかった自分を責めながら……


◆◆ ◆◆


「ああ……うん。花音ちゃんは悪くないから、多分」


話を聞いたカナタはどこか遠いところを見ながらそう言った。しばらく遠くを見つめていたカナタはやがて小さくため息をつきながら肩を落とした。


「……ゆず、とりあえず二人を居間に連れてきてくれないか?詳しい話を聞きたい」


「ん、わかった」


そう言うとゆずは席を立って奥の方に歩いて行った。


「あの……カナタさん?あたしは部屋に戻っていたほうがいいですか?」


伏し目がちに花音がそう聞いてくる。まだ気にしているんだろう。部屋でゆっくりしていてくれてもいいが……


「いや、特に用事がなかったら花音ちゃんもそこにいてていいよ。もしかしたらつらい話がでてくるかもしれないけど、それが今の世界の現実だし、目を背ける事が正しいとは思えないしね。もちろん花音ちゃんが聞きたくないって思えばいつでも席を外していいからね?」


そう言うと、カナタは花音の頭に優しく手を置いた。

最近11歳になった花音はここに来たばかりと比べて幾分大人びてきている。状況がそうさせているのもあるが、なるべく年相応であってほしいというのがカナタの望みではある。


「多分だけどあのお姉さんたちは何か事情があるっぽいんだ。だから花音ちゃんの案内の仕方が悪かったなんて事はないからそんな顔するな。花音ちゃんはよくやってくれているよ」


そう言ってカナタはやや乱暴に花音の頭を撫でた。


「もう、髪の毛が乱れます。新人さんがくるからなるべくきちんとしとこうと思ってセットしたのに!」


口をとがらせてそう文句を言いながらも、少し安心したのか先ほどよりも表情は柔らかくなっていた。

 

 そういうところも花音は大人びていると思う。カナタは自分が花音くらいの年だった頃を思い出してみるが、そんな周りの事なんか気にする事もなく、ただ自分が楽しい事をひたすら追いかけていた気がする。お客さんが来るからと言って身なりを気にする当時の自分を想像してみたが、我ながら似合わないと苦笑するばかりだった。


花音は少しだけすっきりしたような顔で、何も言われていないのに台所へ行き人数分の飲み物の準備をしだした。


「やっぱりしっかりしているよなぁ」


そんな花音を見ながら感心して呟いていると、廊下をこちらに歩いてくる複数の足音が聞こえてきた。ゆずがアスカ達を連れてきたんだろう。カナタも思わず居住まいを正し三人を待つのであった。


廊下から居間に入って来たゆずは明らかに困惑した顔をしていた。それを訝しく思う暇もなく、すぐ後に来たアスカが居間の入り口で姿勢を正して、声を張った。


「新しく十一番隊に配属されました本谷飛鳥、まいりました!」


……デカイ、声がでかいよ。

 ここは一般的な住居の造りなんだからそんな声を張り上げられると部屋中に響く。すぐ後ろでそれをされたゆずは明らかに迷惑そうな顔をしているし、台所で飲み物の準備をしていた花音ちゃんも口を半開きにさせてぽかんとしている。


「…………した、……らです…………た……」


対照的にその後にきた由良は消え入りそうな声で言った。というか、半分も聞き取れなかった。


「ええと……本谷さん?」


 今だ入り口で直立の姿勢のままのアスカに声を掛けようとすると、キッとカナタを見たアスカはかぶせるように言った。


「配属されました以上、自分は剣崎隊長の部下であります。その呼び方は不適切であり、必要以上の私的な交流の必要としておりませんので、どうぞ本谷、またはアスカと呼び捨ててください!」


 来た時と同じトーンでアスカはそう言った。ゆずはもう耳を両手で塞いでいる。ていうか、なんだろうこの二人が交互に話すとそれだけで鼓膜にダメージが蓄積されていく気がする……

 それに態度もそうだが、言葉にして私的な交流は求めていないなどと言われるとカナタの心もくじけそうになる。


 それでも、隊長と言う立場である限り彼女らを使って任務にあたり、その成功と彼女らの身の安全を求める以上、くじけてもいられないのだ。


「どうしたのお兄ちゃん、なんの騒ぎ?」


アスカに話しかけようとしたところで二階からひょっこりとヒナタが顔を出す。今日は非番だったので部屋でのんびりしていたんだろうが、これだけ騒いでいるのを聞いて降りてきたようだ。


「ああ、ちょうどいい。悪いけどヒナタもここにきてくれ。新たに入った子達と顔合わせをしておいたほうがいいだろう。」


 そう言われるとヒナタは何段か階段を下りて、ちらりとアスカ達の方を確認すると何も言わず降りてきてカナタの隣に座った。……何か少し不機嫌な気がするのは気のせいだろうか?


「えーと、まずは本谷さ……アスカ、これまではそういう指導をされてきたのかもしれないが十一番隊はガチガチの軍隊のようなところじゃない。そこまで気を張る必要はないから、ほかのみんなと同じ感じで話してくれると助かる。中川さん……えーと、由良も少しずつでいいから慣れてくれると嬉しい。ここは同年代の女の子が多いからみんな助けあってな。」


カナタがそう言うと、少しだけヒナタの方を見たアスカがさらに表情を硬くしながら言った。


「確かに同世代の女性が多い……というか、女性しかいませんが?隊長のほかに男性はいらっしゃらないのでしょうか?」


幾分声のトーンは落としてくれたものの、話し方の硬さはそのままアスカがそう聞いてくる。それにカナタは苦笑いと共に頷きながら返す。


「ああ、そうなんだ。もともとあと二人俺と同い年の男性の仲間がいたんだが、それぞれ新たに部隊を任されてな。今のところは俺だけってことになるな。あ、戦力的に不安があるか?それは分かるし、申請もしているんだがな……予備隊には有望そうな男性隊員はいなかったか?」


現状を話したカナタは軽い気持ちでそう問い返した。そしてその問いに対する反応は強烈なものだった……


「……予備隊に有望な男性隊員、ですか?それはどういった方面ででしょうか?戦闘力という方面であれば壊滅的と答えるしかありませんが……」


そう答えたアスカの顔からはまるでカナタを睨み殺そうとでも考えているかのような雰囲気がにじみでていた。反射的に腰からハンドガンを抜こうとするゆずと椅子から立ち上がろうとするヒナタを両手で制すなければいけないほど……


「…………失礼しました。後でいかようにも罰則は与えてください。」


その様子を見て、我に返ったアスカは声を落とし、目を伏せながらそう言った。ゆずとヒナタと三人で視線を交わしながらこれは手ごわいのが来たとカナタはため息をこらえるのだった。

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