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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
1-1.新人隊員

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1-5

 「おお、すまんの!アンタ達にはいつも面倒な役目をさせてしまうね……」


ゆずが力強く請け負うのを見て、一瞬だけ笑顔が浮かんだがすぐに消え去った。カナタ達に任せてしまう事が悪いと思っているのだろう。


「大丈夫、どうしても話すのを拒むようなら口の中にライフルを突っ込んででも吐かせる」


「いや、だめだろ!」


とんでもないことを言い出すゆずに慌てて突っ込む。ゆずは油断してると、それくらい本気でやりかねない。

そんなカナタの言葉にゆずはきょとんとして首をかしげる。


仕草はかわいいが、騙されない。言葉にすれば、話さないなら銃を突き付けて尋問する。それの何がいけないの?と言ってはいるようなものだ。


「……あの子たちはかなり俺たちに対して壁を作っていた。アスカって子は一見軍人ぽく命令に従いそうな空気を出していたが、逆に言えば業務的な感じだった。もう一人の由良って子は……よくわからないけど俺を怖がっていた、のか?それが激しい人見知りによるものかアスカが言ったような事が原因で男性不信になっているのか知らないが……まともに部隊として活動する前にメンタル的なケアは必須だと思う。脅すなんてもってのほかだ」


目を閉じ、腕を組んで考えていた事を言った。そして目を開けると、わずかに笑みを浮かべているゆずと目が合う。まさか……


「うん、カナタ君がこう言っているから大丈夫。おばあちゃんは安心して報告を待つといい。それと……また、お菓子を食べにきても、いい?」


最後はやや恥ずかしそうに言うゆずに、松柴がとても柔らかく微笑んで言った。


「ああ、もちろんさ。ゆずちゃん、いつでもおいで」




結局なし崩し的に松柴の依頼を受ける事になったカナタ達は庁舎を後にして十一番隊の宿舎に向かっていた。


「ゆずは松柴さんから何か聞いていたのか?ライフル持ち込んでいたり俺を誘導するような言動を取ったり……いくらか前情報をもっていたんじゃないかって思えるんだが?」


わずかに不満げな口調になってしまうのは仕方がないだろう。

それに対してゆずは松柴からもらった袋入りのせんべいを手に持ち、バリバリと食べながら返事をした。


「ん?そんな事はない。何も聞いていないけど新人が入ると聞いた時点で女性の可能性が高いのは予想ができる。これは格付け、手を出すと痛い目をみるくらいに思わせる必要があった」


「ええ?いや、まだ会ったばかりなのにそんな事……てか格付けって。」


「…………」


呆れたように言うカナタを足を止めたゆずが無言で見つめる。カナタはその雰囲気に思わず動きを止めていた。


「カナタ君。今この世界では男性の方が少ない。これは知ってる?」


 少し真剣な顔になって、ゆずがそんな事を言った。それくらいはカナタも理解している。

 世界がこうなってしまい、物資を探しに出たり感染者と遭遇してしまった際に最初に相対するのはどちらかと言えば男性の役目だった。単純に体力面を考えたら不思議ではない。その結果、被害が多く出てその絶対数を大きく減らしていた。


「そんななかで男性に求められるのは生存競争を勝ち抜くことができる強さ。それは単純な力だったり知識だったり権力だったり……カナタ君はこれまでにかなりの修羅場をくぐり、生き延びている。カナタ君の庇護下に入りたいと思う人は少なからずいると思う。でも誰でも彼でも救うことはできないから……カナタ君も甘い顔しちゃだめ」


 そう言うとカナタの返事も聞かず、さっさと歩いていってしまった。残されたカナタは分かったような分からないような面持ちで頭をかいていたが、やがて先を行くゆずに待つように言いながら足早に歩きだすのだった。


◆◆ ◆◆


十一番隊の宿舎に着き、中に入るとすぐに元気のいい声に出迎えられる。


「おかえりなさい、カナタさん!新人さん、もう着いてますよ」


大人用なのだろうか、その体には少し大きめのエプロンをつけた花音がパタパタと玄関までやってくるとそう言った。


「ああ、ただいま花音ちゃん。新人さんは部屋かい?」


「うん、持ってきた荷物を整理しているみたい。でも……」


カナタの問いに快活に答えていた花音が少し言葉を濁らせた。カナタは足を止めそんな花音を見ると、花音は廊下の奥の方を少し気にしながら話し出した。


「荷物っていっても、両手で抱えるくらいなの。多分衣類が数着と小物くらいじゃないかな。ねえカナタさん予備隊ってどんなところなの?」


足を止めたカナタを居間のほうに誘いながら花音は気になったことを言った。


カナタ達が帰ってくる少し前に彼女たちはやってきた。新人さんがくることは聞いていたし、玄関のインターフォンにはカメラがついているのでしっかりと確認して、花音は玄関のカギを開けた。

 予備隊からの異動の書類と真新しい守備隊のIDカードを提示しながら二人の女性は出迎えた花音を見て驚いたような顔をした。


まあ、いつものことではある。子供の数は少なくなったし、そのほとんどが、四つある都市の中でも一番安全とされている№1にあるという施設に入っている。家族水入らずで暮らしているところが珍しいくらいなのだ。


「あ、ゴホン……我々はこの度守備隊十一番隊に配属された本谷飛鳥と、こっちが中川由良です。本日付でこちらに移るように言われて来ました」


本谷飛鳥と名乗った人はきれいな敬礼をして一気にそう言って来た。そのアスカさんの背中に隠れるようにしているおそらく中川由良さんが気になったけど、あまり待たせてはいけないと思って、花音は笑顔で応対した。


「はい、聞いています。あたしは十一番隊のお手伝い?みたいなことをしている倉田花音といいます!あ、お部屋に案内しますね、カナタさん達はまだ戻ってないからお部屋でゆっくりしててください」


そう言って部屋に案内しようと玄関を大きく開けた。アスカは子供である花音に対して、もきちんとした態度で接している。それに花音は少しむずがゆい顔をしながら一階の奥、元々スバルとダイゴが使っていた部屋に案内した。


「この部屋を使ってください。一応きれいに掃除はしたつもりなんですが……」


そこまで言うと、部屋の中を見たアスカ達が放心したように部屋を見ていることに気付いた。

 宿舎といっても普通の住居だ。もともとシェアハウスみたいな使われ方をしていたのか、部屋数は多いが一つ一つの部屋はなんの飾り気もない。それを何か不満があると受け取ったと思った花音は慌てて付け加える。


「あの?私が掃除したんで、行き届いてなかったらごめんなさい。」


花音がそう言うとアスカは恐縮したように両手を目の前で振った。


「いえ!その……部屋が与えられるとは思っていなかったので、驚いていただけです。」


アスカはそう言うと、もう一度部屋の中を見回している。一方花音はアスカが言った意味を理解しかねていた。


(部屋を与えられるとは思ってなかったってどういうことだろ?大部屋に雑魚寝だと思ってたのかな?予備隊では個室もなかったのかな、大変なんだな……」


花音は浮かんできたそんな考えを一旦追いやって努めてにこやかに案内を続けた。


「とりあえずお疲れでしょうからお部屋で休憩されていてください。じきにカナタさん達も帰ってくると思いますから!」


そう言って花音は部屋を出ていこうとした。ここに来るまでにトイレの場所や、台所の使い方は簡単に説明してある。取り急ぎは大丈夫だろうし、あとは自分が居間にいるから対応できるだろう。そう考えて、あとはこの隣の部屋に由良と紹介された人を案内しようとその場を離れた。


「こっちの部屋は隣と全くおんなじ造りなんで」


そう言って振り返って初めて、自分の後ろに誰も着いてきていないことに気付いた。どうやら由良という人もアスカの部屋に入って行ってしまったようだ。お互いに話があるのかもしれないけど案内だけ先にさせてもらおうと花音はアスカの部屋をノックする。

 小さく返事があったので、顔だけ差し込んで要件を伝えようとした。


「あの、中川さん?先にお部屋を……」


そこまで言って花音は絶句した。


 部屋には最低限ではあるが家具が備え付けられてある。小さいが衣類を入れるチェストと本や小物を整理できる机が一体化された棚、それからベッドである。そこに元々部屋を使っていたダイゴが置いて行った小さな丸テーブルなんかもあった。

 それらがきれいに壁際に立てかけられ、何もなくなった部屋の中央にアスカと由良が入り口の方を向いて、並んで座っていた。


 それを見た花音の脳裏に浮かんだのは、まるでヒナタやゆずにお説教されるときのキレイな正座をしたカナタみたいだ……。だった。

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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