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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
1-1.新人隊員

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1-2

 橘の案内に従い、アスカたちは4階の豪華な扉の前に立っている。

 そこでアスカたちに待機を告げた橘は先に中に入る。


 待っていると、思わず予備隊に入隊した時の事を思い出す。

 アスカたちを連れてきたことを、その隊長さんとやらに報告しているのだろうが、あまり無体な事を言う隊長さんじゃないならいいな……とアスカは思っていた。


 予備隊入隊する際、適正やらなんやらで複数の教官と面接をさせられたが、中には最初の顔見せでいきなり全裸になれと言われた事もある。

 

脱ぐくらいなら今ならどうってことないけど、当時は死ぬほど恥ずかしかったし、舐めるように見られるのは不快だった。


 思えばその教官の時から隣りの子とは一緒になった。脱げと言われて顔色を赤くしたり青くしたりしたあげく、目をまわしてぶっ倒れてしまったのを覚えている。

その介抱を命じられてそれ以上の事を言われる事がなかったからこの子のおかげで助かったのかもしれない。

 

当時同じ部屋だった別の女の子は筋肉のつき方を確かめると言われて体中触られたって泣きながら帰って来た事もあったな……


 アスカが隣の子をちらっと見る。ほとんど喋らない子であがり症?なのか何かするたびに気を失ってた。なんでこの子が正規の守備隊に合格したのかわからないけど、もしかしたらこの子の見た目が好みという上官がごり押ししたのかもしれない。……そうなるとこの子にはまた辛い日々になるのかな。

どうやって生きてきてどうして守備隊を目指したのかなんて事はおろか、名前も知らない。そっと盗み見ると今も真っ青な顔で震えている。

 

ああ、また私が介抱するのかな……


 アスカがそんな事を考えていると、扉が開いて橘が戻って来たのを見て、アスカが敬礼してそれを迎えた。隣の子も、そんなアスカを見て慌てて敬礼しようとしてたけどやり方がよくわからなかったのか、不格好な敬礼をしたまま、ちょっとかわいそうになるくらい震えていた。


橘は怪訝な顔していたが、ただ二人の全身を確認して身なりがおかしいところを直してくれただけだった。


「これから会う人があなた達が命を預ける隊長です。そこまで気負う必要はありませんが気を抜いてはいけませんよ?」


最後に小さな声でそう言ってくれた。私はぽかんとしていたかもしれない。こんなふうに助言をしてくれる人なんて、見る事なかったから……


「橘です、入ります。新人二名連れてきました」


橘は扉の向こうに向かって短く告げた。

 そして、扉を開けてアスカたちの肩を押して進むよう促す。

 ここまできたら覚悟を決める時だ。何を言われても耐えるしかない。それで都市の中で、ひもじい思いをすることなく生きていけるんだ。


アスカは目線を落として姿勢をただしたまま歩いて、上官がいるであろう机が見えたところで止まり、直立した。隣の子もぎこちないながらも同じように並んで直立した。


そうして敬礼してから声を張り上げて言った。


「失礼します!予備隊コード117、守備隊の末席に加えさせていただくことになりました。よろしくご指導をたわまりますようお願いいたします!」


そして一歩下がると直立姿勢のまま待機する。


私が一歩下がると隣の子が一歩前に出て不格好な敬礼をして自己紹介を始めた。


「…………あ、……よ……ぃ、2……ぅ…………ます……」


何を言ったのかもよくわからないまま隣の子は一歩下がった。耳まで真っ赤にして。あーあ、半泣きどころか八割泣いてる……。

皮肉なことに隣の子の惨状を見て私は幾分落ち着いてしまった。


 咎められないように視線を動かし前を見ると、そこには案内してくれた橘を除いて三人座っている。正面にお婆さんがいて、その隣にアスカと同年代の男性、さらにその隣にはアスカよりいくつか下に見える女の子がいた。

全員が口を半開きにして唖然としていた。


「あー……史佳?説明をいいかの?ちょっとあたしには今の状況を飲み込むことができそうないわ」


お婆さんが橘に向かってそう言ったが、橘も困った顔をしている。それはそうだろう、だって今日初めてあったんだもの。わたし達の事なんか知るはずがない。


困る橘とそれ以上に真っ青になっているのは、この状況を作った隣の子だ。また顔色が赤くなったり青くなったりしている。きっともうすぐまた倒れるんだろう。せめて頭は打たないように気を付けておいてやろうかな。


 そう考えたアスカが、周りに気付かれないように立ち位置をずらした。ここからなら手を伸ばせば隣の子の頭まで届く。それを確認して安心した私が視線を戻すと、同時にものすごい悪寒が走った。


……見られてる。あの子…………私が動いたことを咎めてる?


内心ビクビクしながらも必死に表には出さないように努める。男性の隣に座っている私よりも年下に見える女の子が射貫くような目で私を見ているのだ。


「ど、……しよ……、……う……」


隣の子はもはや限界が近いようだ。オーバーヒート寸前である。


「ねえ、そこの君。体調が悪いようなら腰かけると言い。橘さん、すいませんけど彼女に椅子を……」


驚いた事に男性が隣の子を気遣った発言をした。……予備隊で聞いていた話とだいぶ違う。守備隊では一人前になるまでは人として扱われないと聞いていた。

 いや、これも何か試されているのかもしれない。

 

隣の子もそれがわかっているのか、椅子が用意されてもフラフラしながら座ろうとはしない。男性はそれに訝し気な視線を向けている。いや、不機嫌になっているのか?

 

隣の子はもうそんな様子を見る余裕はない。アスカがそっと教えてやるべきかと悩む。……そう考えていると、またさっき感じた悪寒がアスカを襲った。

 この世界になって、生き延びるために嫌でも鍛えられた感覚で反射的に見ると、やはり女の子がアスカを見据えている。

……余計な事はするなってことか、ごめんね隣の子。アスカは心の中で隣の女の子に詫びた。


「……ふう。ゆず、彼女を椅子に。できれば事情を聞きたいな。松柴さん?」


男性が険しい顔になり、隣のお婆さんに声をかける。お婆さんは謝りながら自分もわからないと首を振っている。というか、松柴って聞いたことあるんだけど、どこでだっけ?


「橘さん、これはいったいどういう事です?」


男性は橘を問い詰めだした。橘は何も知らない、もし橘が何か理不尽な事を言われるなら……自分が代わりに叱責を受けなければならないのかもしれない。

 こんな自分に優しく声をかけてくれた人だ。そんな人が悪く言われるのは嫌だ。


 そう考えてアスカは顔を上げた。


 相手は困惑している様子だ。きっと自分達が呼ばれたのは何かの間違いだったのだ。アスカがそう考えていると、橘が話し始めた。


「申し訳ありません、私も何が何だか……私には、即戦力とは言えないが磨けば光るものを持っているという評価の者を送るとしか……」


 橘は申し訳なさそうに、ファイルの情報を確認しながらお婆さんに説明している。自分たちの事で困らせてしまっている。そう思ったアスカは反射的に声を出していた。

 

「あ、あの!失礼を承知で申し上げます!」


一歩前に出て、橘をかばうために私が声を出したその時だった……。

 いつの間にか、黒光りする鉄の筒が私を狙っていた……。


 いったいどこに持っていたのか、どうやって出したのか、そもそもこんなところに武器を持ち込めるものなのか……

私の頭の中を考えても詮のない事がぐるぐると駆け回る。


アスカが声を出すまでは椅子に座っていただけのはずだ。

 アスカが一歩前に出て声を出し、言い終わるまでのほんのわずかな時間で、どこからかライフルを取り出し構えすす、ボルトハンドルを操作して初弾を送り込み、狙いをつける。

 

 おそらくすでにアスカの頭部に照準を定めている。


ああ、これはダメだ。もう終わった。思わず天を仰いだ。せめて一発で始末してほしい……。

 そんな事を考えて目を閉じていたが、一向に射撃音がしない。痛みもない。……ただバシッと何かを叩く音がしただけだ。


 アスカは諦念の中にほんの少し、もう少し生きていたかったなという気持ちを隠して、ただ目を閉じていた。


 気持ち悪い沈黙が部屋を満たす。窓の外ではこちらの状況など関係なく、小鳥が無邪気にさえずっていた。

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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