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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
二章 序

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0-2

 「……朝から大変な目にあった」


守備隊の本部に向かいながら、まだ覚め切っていない頭をぼりぼりとかきながらカナタが呟く。あれからゆずと二人、廊下に正座させられて花音にお説教をうけ、その声を聞いて何事かと上がってきたヒナタにも追加でお説教を頂戴した。すっかり寒くなったこの時期に、冷たい廊下に正座させられての説教はなかなかに効く。


「ん、同意する。二回しないといけない事が一回ですむのは合理的。怒られる意味がわからない」


カナタの後ろを歩くゆずにもカナタのつぶやきが聞こえたのだろう。納得いかないというような口調でそう言った。ゆずは別に来る必要はなかったのだが暇だからという理由で着いてきている。


「いやお前は反省してくれ!年頃の女の子が男の寝ている布団に潜り込むとかありえないだろう!何か間違いがあったらどうすんだ」


「ん、私は基本ウェルカム。もちろんカナタ君以外の布団に潜り込むことはないから大丈夫」


たしなめる言葉になぜが胸を張ってそう言い返され、カナタは頭を抱える。カナタとて一般的な成人男性であり、間違いなく美少女に分類されるであろうゆずに、そんな事を言われて悪い気はしない。

 

 ただ、ゆずとは出会った経緯が普通じゃないし守ると言う誓いもある。なによりヒナタと仲が良く、年齢も背格好もどことなく似ている事からどうしても妹みたいなものとして見てしまう。

それに部隊内での恋愛を禁止しているわけではないが、男女間のもつれからチームの不和につながった話もわりと聞くので、隊長である自分がほいほいと手を出すわけにもいかないのだ。


別にゆずの事が嫌いだとかいうわけではないので、あまり邪険にすることもできずどうしたものかと考えているうちに庁舎、守備隊の本部に着いてしまったので、その考えを一旦頭から追い出す。


歩哨に立っている守備隊員に来た目的を告げ、連絡を取ってもらう。すぐに返事があり四階の代表の執務室に行くように言われた。

№4では、ここ最近でメガソーラーをいくつか保有して、天気や日照時間に左右されるが、都市内の一般家庭にも時間と使用料を制限されて送電されている。消費電力の小さいものに限るが電化製品を使えるようになっているのだ。

 

さすがにエレベーターまでは使えないので階段を使い、四階を目指す。守備隊の本部は、最近まで工事用の仮設事務所をくっつけて作った建物だったのだが、今は元の市役所が本部になっている。

 

工事用の仮設事務所はプレハブ式なのでいろいろ応用がきき使いやすい。今は都市の外から来た人の仮設住居として使われていたはずだ。

ここでは、避難民は受け入れる方針なのでよほど素行が悪いとか問題がない限り受け入れられる。

 

 ただ、しばらくは仮設の住居で暮らしてもらうこととなる。

 なぜならば、感染者から傷を受けているのに、追い出される恐怖からか、申告しない避難民がいる事はどこの都市でも問題視されている。中には都市に入った後発症し、少なくない被害が出たケースも報告されている。


 そうやって監視のもと、しばらく暮らして問題がないと判断されれば、晴れてNo.都市の市民になれるのだ。


四階について執務室のドアをノックするとすぐに内側からドアが開けられる。


「お久しぶりです。カナタさん」


そう言って薄く微笑んで頭を下げてくるのは、ヒノトリの時から代表である松柴の秘書のような役割を果たしてきた橘史佳(たちばな ふみか)だ。

いつものように、ビシッとした服装と凛とした佇まいをしている。

 

 そして正面の奥にあるでかい机で都市No.4の代表、松柴小百合(まつしば さゆり)は書類に埋もれるようにして仕事をしていた。


「おう、来たか。ん?ゆずの嬢ちゃんも一緒かい?あんたら仲がいいねぇ」


顔をあげると俺たちを見てそう言いにっこりと笑った。



「悪かったね、わざわざ呼びつけて。少し話がしたくてねぇ」


そう言いながら、部屋に置いてある応接用のテーブルとソファのほうに移動して、カナタたちにもソファに座るように促した。そうやって挨拶を交わしているうちに、音もたてずに橘が応接セットの上にある不要なものを片づけ、お茶とお茶菓子をテーブルの上に準備していた。相変わらずの早業である。


「どうだい調子は。隊の人数が減って何か問題はないか直接聞きたいということもあってねぇ」


松柴がお茶を飲みながらそう聞いてきた。どこかカナタの顔色をうかがっているように感じるのは、やはり悪いと思っているんだろう。

松柴が言う人数が減ってというのは、佐久間との一件の後で、十一番隊から何人か異動する事になったのだ。

カナタたちが松柴と近しく、直接の命令を受けて動く事もあり松柴の私兵のように思っている人がいる。

 さらに、そこで良くも悪くも十一番隊は力を示しすぎた。

 

松柴の直属と思われるカナタたちがそれ以上の手柄を立てることと、力を持つ事をよく思わない連中がいて、何か仕掛けてきそうな動きを見せたので先んじて松柴さんが手を打ったのだ。


 具体的にはダイゴとスバルがそれぞれ、隊長に昇格して十一番隊を離れた。ダイゴが七番隊でスバルが八番隊の隊長になった。

 ハクレンさんは龍さんの所に戻り、喰代博士は№3と№4の共同で立ち上げた感染者の研究施設の所長に任命された。


 感染者研究所は、№3と№4の中間くらいの場所にあった小規模な医薬品の製造・販売を行っていた会社を改装して作られた。これは詩織ちゃんの件もあり、むしろ好都合だったとも言える。


 そして、ゆずも狙撃の技術に注目されて狙撃専門の部隊を作るからその隊長にという話がきていた。

 

 しかし、ゆずは頑として受け入れず、十一番隊を出るくらいなら守備隊を辞めて№4も出ていくとまで言って断った。

 

つまるところ松柴の直属の部下とみられている、十一番隊の力を削ごうと企んでいた連中がいたということだ。


そうした連中に対して、何かしらの対応をとってもいいんだろうが、佐久間の一件の時に№4からも長野や獅童といった離反者がでている。二人ともそれなりの立場にいたので、各所に影響も大きく、賛同者もそれなりの数にのぼる。そこの後始末がまだ終わっていないうちに次の敵を作ったり、都市内を混乱させるのはまずいと判断した松柴は、十一番隊を一部解体させて弱体化させることで、そういう奴らの動きをけん制した。ということになるらしい。


「まあ、もともとうちの部隊は人が少なかったんで、手が回らない部分はどうしてもでてきますね」


松柴の問いにカナタは率直に答えた。結局現在十一番隊には、カナタとヒナタ。それからゆずの三人しかいない。

実際普通に守備隊としての業務をこなすのにも人手が足りず、危険がないところなら花音まで駆り出す事もあった。


「むう、そうじゃろうな。それに関してはすまん……アタシの力不足だよ。どうにかしてやりたいが、変に手を貸すとまた肩入れしているだの言い出す奴がいるからな。すまんがもう少し辛抱してくれ、都市の内部のごたごたが片付けば手も打てるんだが……」


松柴は苦虫を何匹も一気に噛み潰したような顔をしてそんな事を言った。だいぶ腹には据えかねているようだ。


「……長野や獅童がどこまで食い込んでいたのかはっきりしないのでなかなか難しいのです。」


橘もその隣で悔しそうな顔をしてそう言った。いろいろと問題はあるんだろうという事はカナタにも簡単に分かった。

 だからと言ってその方面で自分が何もできることはない。


「まあ、俺には政治的なあれこれはわからないし、できる事と言えば刀を振り回す事くらいですからね。都市の安全に力を尽くすだけっすよ」


カナタは明るくそう言ったが、松柴達の顔から憂いが消えることはなかった。


「すまんの、カナタ達には貧乏くじを引かせてばかりじゃ。いつか必ず報いる。必ずな」


 そう言って、松柴はもう一度頭を下げるのだった。

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