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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
二章 序

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二章 0 序 

新章がスタートしました!またよろしくお付き合いをお願いします!

 瞬く間に拡がった謎の感染症。

感染すると個人差はあるが数時間から一日で症状が出てくる。倦怠感から始まり高い熱を出し体中の至る所から出血し、やがて死に至る。


 命を落とした者はしばらくすると再び動き出す。そして動き出したモノは感染を拡げる媒介者となる。

 そこには生前の人格も性格も残ってはいない……。

 

ウイルスは血液を通して増殖しながら体中をめぐる。

 もちろん体に入った異物を排除するため、人間の免疫機能がウイルスを排除しようと働くのだが、ウイルス同士食い合い強く大きくなっていき、人間の免疫機能すら取り込み最終的に頭部にたどり着いて、延髄付近に着床する。


こうして延髄付近にとりついた感染体が成長して脳幹から脊髄まで支配された人間は死したのちも活動し、生きている人間を襲い、さらに感染者を増やしていく「媒介者」となっていく……。



 

 №3で起きた騒動から半年が経過しようとしていた。その騒動の渦中にいた№4の守備隊、十一番隊の宿舎では、冬の早朝であり、暖房も効いていないため寒いにも拘らず腕まくりをしながら気合を入れて、足音も荒く二階への階段を上がる少女の姿があった。


一階の広いリビングから上がれる階段を、足音も気にせずに上った少女は腰に両手をあてて二階の廊下を挟んで二つずつ並んでいるドアを睨みつけている。


「ふー……」


やがて一番近いドアを見据えた少女は深く息を吐きながら数歩進むと、目的のドアのノブに手をかけ……息を大きく吸い込むと勢いよく開け放った。


「起きなさーい!!」


少女、十一番隊が保護して共に暮らしている花音は、カーテンを閉め切り朝日が入らず薄暗い部屋にあるベッドに向かって大声を放った。


 まるで寝坊する弟を叩き起こしに来たお姉ちゃんといった雰囲気だが、花音が開けた部屋は十一番隊の隊長であるカナタの私室である。

 

当然その部屋のベッドにはカナタが眠っているのだが、花音の声に布団のふくらみがピクリと動いたのだが寝がえりをうつと再び安らかな寝息が聞こえだす。


「もー……毎日毎日……」


入り口に仁王立ちして肩を怒らせている花音は、そんなベッドの様子を見ると、文句を言いながらずかずかと部屋に入っていった。

 繰り返すがここは十一番隊隊長の部屋である。

 

いくら私室とはいえ、普通は入ることが憚られるだろう。しかし、カナタを叩き起こすという使命をもつ花音はずかずかと部屋に入ると一切の躊躇もなくカナタが使っている掛け布団に手をかける。


「もー!カナタさんもゆずさんも、なんで自分で起きてくれないんですか!今日は守備隊の本部に行かないといけないから早く起きるって言ってたじゃないですか!」


言いながら花音が掛け布団を思い切りめくると、体を丸めて眠るカナタがいる。上半身をあらわにされ、さすがに寒さのためにぶるっと身震いすると薄く目をあけ、花音を見た。


「……おはよう、花音ちゃん。7時になったらもう一度起こしてくれるかい?」


半分寝ぼけ眼でカナタはそう言うとめくられた布団に手を伸ばそうとした。しかしその手は布団を掴むことはできなかった。伸ばした手を掴んだ花音がその手に力を込めて言った。


「もう7時半です!7時前に起こした時に一度起きたじゃないですか、今しようとしているのは二度寝じゃないですよ、三度寝ですからね!」


起きないといけない時間を過ぎている事に、さすがにカナタの目がぱっちりと開いた。


「え……7時半?あー……ま、いいか。うん?」


一瞬だけ慌てたものの、すぐにのんびりした雰囲気になったカナタは何か違和感を感じたようだ。花音によってめくられて今はカナタの腰のところにある布団をそっとめくると、そこには猫のように丸くなって寝ている少女がいた。


「「ゆず!?」さん!?」


 二人が声を揃えて思わず驚きの声をあげると、その声のためか、それともただ寒かっただけなのか……

 迷惑そうな顔をして目を開けて驚きで固まっているカナタと花音を交互に見て少しだけ表情を和らげると言った。


「おはよう……カナタ君、花音」


「え……あ……?」


普通に朝の挨拶をするゆずに対して、動揺しているカナタはまともな答えすら返せないでいる。


「ん?」


そんなカナタを見て、かわいらしい仕草で小首をかしげていると、先に我に帰った花音がまた大声をあげる。


「どうしてゆずさんがここで寝ているんですか!え?お二人は……というか、隊舎でそんな事を……」


口に手を当て、花音から冷たい目を向けられたカナタが慌てて弁解をしだす。


「いやいやいや……ちょ、ちょっと待って!何を考えているか知らないけど誤解だ、何もないから!」


蔑んだ視線にかわりつつある花音にそう言うとカナタは今も眠たそうにしているゆずに向き合った。


「お前、いつ俺の布団に入り込んだんだ?どういうつもりだ!」


 焦ったカナタに、問い詰められているというのに、当のゆずに慌てるような様子は全く見られない。のんびりとあくびを一つした後、答えた。


「ん?夜中目が覚めて……トイレに行った後に自分の部屋には戻らずにここに来た。大丈夫、あえて言うなら理由もある。毎朝こうして花音がカナタ君や私を起こすのは、なかなか大変。」


当事者の一人であるくせに真面目な表情になったゆずが、そんな事を言うのでカナタは視線をそらし、花音は二の句が継げないでいる。

そんな二人に構わずゆずは話を続ける。


「そして昨日トイレで思いついた。私がここで寝れば花音は起こす手間が一回ですむ。ん、完璧」


ゆずは満足そうな顔をしてそう言い切った。


「……却下で」


 真顔でそう言ったカナタにゆずは納得のいかないという感じで言い返す。


「カナタ君、朝は何かと忙しい。隊舎の家事を一手に引き受けている花音は特に。少なくとも声を掛ければ起きる他のみんなと違って私とカナタ君はすぐには起きないし、平気で二度寝をしたりする。しかも毎朝……ね?」


自信すらうかがわせ、そう言ったゆずが花音の顔を見て同意を求めた。そんなゆずの視線を受け止めて花音は言った。


「いや、お二人とも自分で決まった時間に起きてくれれば、そもそもこんな事する必要もないんですけど……」


正論である。そう言う花音からカナタもゆずもスッと目をそらすのであった。

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