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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
NO.4

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4-2

「すまないね、いやな気分にさせてしまったね」


 そう言ってカナタ達を気遣う松柴は応接用のソファをカナタ達に勧めながら言った。それを受けてソファに腰掛けたカナタは松柴を気遣うような目線で「大丈夫ですよ」と言った。


「まったく、№都市計画が始まってからずっとこうさ。人員や建材、重機なんかを足りないところに送るって名目で油断ならない奴らを送り込んできてる。さっきの奴らも警備にって言われたから断りづらかったんだけど、四六時中引っ付かれればさすがに嫌になるね」


 さすがに憤慨した様子で松柴がそう言った。


 「№都市計画が始まってすぐに実際の施工力にとぼしいNO.2のヤマトとうちに人員が送られてきてね。確かに都市を形成するのに助かったんだけど、色んな名目で半分以上居座ってしまったんだ。まあ、いってしまえば監視と誘導さね。少しでも自分たちの有利な状況を作ろうとしているんだろうさ」


 面白くなさそうに松柴さんは言った。今の№4にはヒノトリの関係者以外の人がたくさんいるらしい。


「別に何かやましい事をするってわけじゃないんだけど、やりづらいったらないんだよ。しかもうちの人間も何人か買収されちまった様子だ。どこまで手が伸びてるのかなかなか掴ませない。まったく気が休まらないよ」


 やっぱりやつれて見えたのは気のせいではなかったようだ。露骨に邪魔をしてくるわけじゃないみたいだけど、何かと絡んでくるらしい。松柴の話では、都市の権力に手を伸ばせる位置に自分の手の者を入れたがっているようだ。


「アタシが何かやろうとすると、会長が動かなくていいとか言って持っていくんだよ。自分たちに都合がいいようにするためだろうね」


「それはもう邪魔してるのと同じでは……」


 黙って話を聞いてたダイゴがたまりかねてそう言うと、橘が凄い勢いでそれに食いついた。


「そうです!ダイゴさんの言う通りですよ。会長が思う通りにできないのなら、それは邪魔してるのと同じです。会長、何度も言うようですが」


 松柴は橘の言葉を途中で制して言った。


「分かってる!史佳(フミカ)が言う事はもっともだけど、ホウライも山城建設もトップ企業としてその座でただ鼻くそほじってたわけじゃないんだ。こういったやり方に慣れてるのさ、一つ断ればその代わり次を押し付けて来る。そしてその次は最初の奴よりもひどいってのが常套さ。むしろ断ってくるのを待ってるのさ。」


 松柴がそう言うと、橘は悔しそうに口をつぐむ。


「おっと、悪いね。つい愚痴っちまった。こんなこと聞かせるために呼んだんじゃないんだよ。」


 松柴が言って申し訳なさそうに笑う。橘はそれを聞いて隣接してある給湯室に向かった。お茶を入れてくれるのだろう。何も言わなくても通じてるようでうらやましい間柄だと思える。そういう人がもっと周りにいればいいのに。

 カナタがそう思いながら周りを見ると、同感なのかハルカも少し憤慨した顔で、ダイゴは松柴を気遣った顔をしている。スバルはというと……「フミカっていうのかぁ……」となんだかだらしない顔をしていたので、見なかったことにした。


橘が戻ってきて、全員の前にお茶がくると、松柴は机に両手を組んで呼んだ訳を話し始めた。


「実は今話してたことにも関係あるんだが、アタシに権力を集中させないで自分らは二番手、三番手として№4に居座りたい奴らがどこからかアンタたちの事を知ってね。ただアタシを助けてくれた恩人だって言ってるんだが、疑ってる節がある。ここに避難してくるときもアンタたちの事を多少優遇したのもあるんだろうが」


 それでカナタは納得した。№4に来てから会う知らない人たちの胡乱な視線がどうにも気になっていたのだ。自分たちを松柴の手下とでも見られていたか。


「それぞれが自分たちの都市を防衛する守備隊って組織を作る事になっていてね…№4もヒノトリから出してつくったんだが……どうも取り込まれたみたいなんだよねぇ」


 話を聞くと守備隊というのは、カナタ達がここについた時に見かけた揃いの制服を着た武装したグループがそうだったらしい。


「あー、あのじろじろ見ていった奴らか。道理で……」

 

「すごく感じ悪かったもんね」


 スバルとダイゴも気づいていたのか文句を言っている。ダイゴがフォローしないくらいだから、かなり不躾な視線だったんだろう。


「そういう訳でアンタらに余計な面倒をかけさせてしまうかもしれないんだよ。すまないね、アタシの力不足だ」


 そう言って、松柴が頭を下げる。


「お婆さんのせいじゃないよ!」

 

「そうだよ、悪いのはその……なんか、悪い奴らだろ?」


 頭を下げる松柴を二人が慌ててフォローしているが、スバルは話を聞いても良く内容が理解できていないんだろう。なんか悪い奴でまとめてしまっている。


「会長はあなた方を守備隊に推薦するつもりでした。やはり生活するには働かないといけませんし、最低限の支給はありますがこの先ずっと保証ができません。当然都市はこれから形を整えていくので仕事は山ほどあるのですが、先ほどの理由から不遇な目にあったり邪魔をされたり。最悪危険な目に合うかもしれないと会長は危惧しています。なので守備隊に入ってもらって、会長の身辺警護などで働いてもらおうとしていたのですが……」


「まさかの守備隊が取り込まれるとはね」


 ため息をつきながら二人はそう話してくれた。


 さすがに、いろいろ面倒な事態にカナタ達も何も言えないでいた。しかし空気など読まない勇者はどんな状況でも突っ込んでいくものである。

その場をしばし沈黙が支配していると、スバルが手を挙げて言った。


「あの~、ちょっと俺に考えがあるんすけど」


 さすがに場の雰囲気にまずいと思ったのか、ダイゴがやんわり押しとどめている。

 

「スバル君、その考えは一度みんなで考えない?とりあえず僕に聞かせてくれる?」


「なんだよ、ここで考えればいいだろ?」

 

 スバルがそんなダイゴにうるさそうな顔をしていると、反対側からハルカが声を上げる。

 

「その思いついたやつを、とりあえず言ってから考えるの良くないと思う」


 ハルカも止める方に参戦した。さすがスバル、なかなかみんなに信用されているな。悪い方に……。

 いろいろと前科があるので仕方ないのだ。カナタも止めにはいるかと腰を上げた時、松柴がほほえましそうな顔で言った。


「構わないよ、ここはアタシらしかいないから。もしかしたらその意見からいいアイデアが出るかもしれないしね。で、スバル君。なんだい?」


 そう言われてスバルは嬉しそうに笑って、最後まで止めようとしていたダイゴを押しのけて姿勢を正した。


 「つまりその悪い奴らが、俺たちのなんか邪魔してくるかもってことだろ?」


「うん、色々と端折っているが、アタシが一番危惧しているのはそこだね。で?」


「俺たちがやることを邪魔して、失敗したらもちろん成功しても言いがかりつけてくるんだ、よくあるパターンだよな?」


 カナタ達を見回しながらスバルは言う。きっとそのパターンはテレビとかでな。と思ったが今は言わないでおく。


「その場合、誰も文句をつけようがない事をすればいいんだよ。」


 力一杯言い切った。


「どうやって?」


「ん?」


 ダイゴがスバルに突っ込む。


「だからその文句をつけようがない事って何さ?どうやるの?」


「さあ?それは、……何かあるんじゃね?」


「「はあぁ……」」


 予想を裏切らないスバルの考えに一同ため息を吐く。だが、苦笑いをしている橘の横で松柴は真剣に何か考え出した。


「そうだね、中途半端にやるからいけない。そういうことか…………」


「会長?冷静な判断をお願いします。事は最悪人命に関わってきます」


 考え出した松柴に、今度は橘が何か不安になったようで、しきりに自重を訴えている。

 

 あれ、もしかして松柴さんはスバルと一緒のタイプ……


「うん、悪くない。スバル君!採用だよ。」


 パシンと自分の膝を叩いた松柴は考えがまとまったのか、強気な表情が戻っていた。対照的に隣の橘の表情は曇っていたが……


 「大丈夫かな?僕たち」 


 そう呟いたダイゴの声はむなしく消えていったのだった。

 

 

読んでいただいてありがとうございます。

これからもよろしくお願いします!

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