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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
21.所業

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209/353

21-13

「みなさん、こちらです」


暗闇の中から聞こえてくる声には聞き覚えがある。そっちの方にライトを向けるとダイゴに背負われていた詩織が目を覚ましたのか伊織に肩を借りて立っていた。


「詩織ちゃん、大丈夫かい?体の方は問題ないかい?」


カナタ達が照らす明かりを頼りにゆずに肩を貸した喰代博士が声をかけて体の様子を聞いている。


「はい、まだ血を抜かれたりしかされてません。もう少し遅かったら何かの薬剤を投与しようとしていたようですが……それよりも佐久間たちは、この部屋を抜けていきました。感染しているからでしょうか、私にも見えていましたが気を失っているふりをしたいたので、もしかしたら見られていたことに気付いていないかもしれません」


そう言って詩織が指し示すところは佐久間が最初にいたほうの部屋だ。中に入ると細いライトに照らされて乱雑に重ねられたファイルや書類などがある机と、ビーカーや試験管などが並んでいる机があり、電子顕微鏡とPCもある。棚にもたくさんの書類や専門書が収めてあるが出入口は一か所しかない。


「そこの本棚が動きます。右の本棚の真ん中あたりを何かすると開くみたいです」


詩織は気を失っているふりをしながらしっかりと佐久間たちの動きを追っていたようだ。


「一見すると普通の本棚だね。どこをどうすればいいんだろ?」


詩織が言う本棚の前にヒナタとハルカが立って順番に確認していく。


「すいません、他の三人の体が邪魔で肝心なところは見えなかったんです」


申し訳なさそうに詩織が言うので、慌てたヒナタがわたわたと両手を振る。


「そんな!ここまで見ててくれただけでもすごいですよ。ここまでわかってたら、こういうのって大体本を引っ張ったら……開くんですよ?」


ヒナタがそう言いながら見もせずに適当な本をガタガタと引っ張って、辞書のような厚い本を引いた時にカコンと壁の中で音がした。


そっとヒナタが手を離すと、その辞書が元の位置に戻った瞬間に本棚自体が奥にずれて滑るように横に動いた。


「なるほどね」


現れた通路にはうっすらと明かりがあり何の飾り気もない無機質な廊下がまっすぐに伸びている。


「外に通じてるのかな?」


通路に半歩足を踏み入れたハルカが耳を澄ませているが、特に環境音が聞こえてくるわけでもないし、だいぶ先に進んでいるのか佐久間たちの足音も聞こえない。


「でもただ外に出ても、№3と№4の守備隊が建物は包囲しているから逃げれるとは思えないんだけど……」


ハルカが怪訝な顔でつぶやく。後続として自分の6番隊を含む№4の守備隊を率いてきたハルカはこの研究所を囲むように守備隊が展開している事を知っている。ハルカの言う通りなら研究所を脱出したところで逃げる事は難しい。もちろん長野や夏芽などをけしかければ包囲を破る事も出来るだろうが、そこでいくらか足止めもされてしまう。それは望むところではないはずだ。


「どっちみち来た道を戻ることはできんのや、進むしかないやろ」


色々考えても仕方ないとばかりに伊織が言う。確かにこれまで通って来たルートは夏芽が呼び寄せた感染者であふれているんだろう。なんならここにも押し寄せてくるだろう。


「仕方ない、進もう。ただし警戒は怠らないようにして、だ。罠がないとも限らないからな。この先がどうなっているか、何が待ち構えているかわからない以上、非戦闘員やけが人はここで待機したいとこだが……」


カナタがそう言っている間にも感染者たちの出す物音や気配はどんどん近くなってきている。


「……そうもいかないみたいだから、全員で進もう。喰代博士やゆず、詩織ちゃんを中心にして……ダイゴ、スバルで移動を補助してもらっていいか?」


ダイゴはもう詩織ちゃんをおぶっているのでそのまま、あとは重傷で応急処置した状態のゆずをスバルが抱え喰代博士が付きっ切りで容態を見ながら進むことにする。


無機質で何の飾り気もない通路を進む。警戒はしているが急いで進むことを優先した速度で。できる事なら佐久間たちに追いつきたいし、後ろから迫る感染者たちに追いつかれたくはない。


「かなり進んだよな?どこまで続いているんだ?」


いつまでたっても変化のない通路をひたすらに進む。おそらく2kmから3kmほど進んだ頃、ようやく視界に変化が見えた。前方に人工の物ではない明かりが見えてきたのだ。すなわち出口が近い事を意味している。待ち伏せされてもつまらないので一層の警戒をしながら進むと、まぶしい明りに包まれる。

いきなりさらされた自然の明かりに目が慣れてくると、ようやく周りの様子がわかってくる。


「海か!?」


目が慣れて視界に飛び込んできたのは何も遮るもののない一面の海だった。眼下には細い道が一本伸びていて申し訳程度の構造物に続いている。

振り返ると、そびえたつ断崖絶壁が視界を占有する。その中にポツンと開けられた穴から出てきた形だ。


「これは……前も後ろも絶景だねえ」


感心したように言うのは喰代博士か。ただみんな声には出さないだけで同じことを考えているのだろう、前と後ろをなんども繰り返し眺めている。


「あ、あれ船着き場やな」


前を見ていた伊織が言ったので、そちらを見ると申し訳程度にある人工の構造物は船を接岸できるように四角いコンクリートを浮かべてあるみたいだ。小さい船が係留してあるのも見える。

そして……


「なんかおるな……」


コンクリートの船着き場は波に揺られているので浮いている事がわかる。そして断崖絶壁からそこに続く細い道は最後につり橋のようなものでコンクリートの船着き場につながっている。

そして近づくにつれ、そのつり橋の中央に誰かが立っているのがわかる。


見る限り罠などもなさそうだ。細い道を下っていくにつれてつり橋付近の様子もわかってくる。つり橋はそれほど大きいものではない。しっかりはしているようだが大人が二人並んで通るのが精いっぱいくらいの大きさしかない。

全体的に木製でそれをロープで編むようにして岩にぐるぐる巻きにして止めてある。


「長野か……」


そしてつり橋の中央で待つのは元№4の守備隊で、隊を自分の手に掌握しようと画策してカナタを罠にはめようとして墓穴を掘った人物だ。


「待っていたぞ剣崎。貴様には貸しがあるからな、それを返してもらって私は晴れて自由の身になるのだ!」


そう言ってつり橋に仁王立ちしている長野は通常の人の三倍くらいの大きさに肥大化している。つまり先に進むにはどうあってもあれをどうにかしないと進めないわけだ。


「お兄ちゃん、正面やや左。波間に船、たぶん佐久間」


その声に視線をやると双眼鏡で前方を確認するヒナタが沖合に佐久間の船を見つけたらしい。


「そんな大きい船じゃない。キャビンもない漁船?かな。夏芽とか体の大っきくなったのを乗せてるからあまり速度も出てないみたい。追いかけられたらまずいからあの人置いて行ったんじゃない?無駄に偉そうだし重そうだし」


声を潜めてだが、なかなか辛辣な事を言う。しかしあながち的外れな答えでもないと思い首肯する。


「佐久間が改良した感染者は何かを定期的に摂取する必要があるというには佐久間自身が漏らした事。そしてそれは佐久間が行う必要がある。それなのにあの長野は私たちを倒せば自由になると思っています。おそらく必要なことは告げずに捨て駒にされたと推測します。」


カナタが考えていた事を補完する形で喰代博士がまとめた。


そんな事を話しているとはつゆ知らず、上機嫌の長野はつり橋の上から盛んに挑発を繰り返している。さっさとかかってこいだの、ここまできて臆したか、だの勝手なことをほざいている。


「とは言ってもな。佐久間たちはもうかなり進んでいるし、無理に進んで船を奪って追いかけるというのは現実的じゃないと思うんだ」


カナタが言うと、何人かが同意の声をあげる。まして船着き場に残っているのは近海を行くような小さな船ばかりだった。いくら瀬戸内海が内海でもちょっとためらわれる。


「かといって長野をこのままにして置くのもな……」


かかってこいと騒ぐ長野を一旦放置して円座に集まり相談する。


「少ない人数で船に乗って追いかけたらワンチャン追いつけるんとちゃうん?」


「いやあ、佐久間がやみくもに逃げるとは思えないよ。きっと本州側の何かしらの組織とつながってると思う。そいつらが佐久間を迎えにくると逆にこっちが危なくなるよ」


伊織が少人数による追跡の案を出すとダイゴがその場合の懸念を伝える。


「長野をよってたかってボコって船を奪って沿岸沿いに帰るってのは?」


「向こうもそれを警戒してつり橋で迎え撃つつもりだよ。何人も乗って暴れてつり橋が落ちたら大変だよ」


ハルカが過激な意見をだすとヒナタがそれを抑えるような意見を言う。


「もうあいつそのまま放置して帰っていいんじゃね?」


しまいにはスバルがめんどくさそうに言う。


「しかし研究所の中はおそらく感染者があふれている。狭いところで一気に襲い掛かられるとさすがにさばききれないだろうから、戻る案はなしだ。」


カナタがそう言うとみんなの視線が集まる。リーダーとしてみんなの意見をまとめて結論を出すことを求められてるわけだ。…………まとまるか?

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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