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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
21.所業

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21-11

「敵はすぐそこだ。ここで撤退したら次はないかもしれない。伊織ちゃんのためにも詩織ちゃんを救い出す必要もある。ゆずは……危険な状態らしい。あいつは強いから大丈夫、きっと治療ができるところまで頑張ってくれる。そう思っているが……万が一の事があればすべての責任は決断した俺にある。ケリがついた後で何を言ってもしてもいいが今は力をあわせてくれ」


普段みせない厳しい表情で皆を見てカナタがそう言った。それに対してこの場で異を唱える者はいない。


「じゃあ、なんとかして……」


佐久間への道を開こう。そう言おうとしたが黙って口を閉じる。必要がなくなったからだ。


「いいねえ、君たち。私のために半感染者を連れてきてくれたと思えば、今度はその双子の片割れを感染者にするとは。」


心から嬉しそうな顔で、佐久間が扉を開けてそこに立っていた。そんな気はしてたよ。



もはや何かを言うつもりもない。さすがのカナタも切れていたのか無言で斬りかかっていた。しかし無情にもカナタの刃が簡単に佐久間に届くこともなかった。


「悪いけどこっちにも事情があんねん。このおっさん、殺されるわけにはいかんのや」


これまでで一番鋭い斬りこみだったと思えるほどの一撃は、佐久間の頭の30cmほど手前で止まっていた。佐久間が開いた扉の陰からカナタの一撃を止めた人物が姿を現す。


片手では耳をほじりながら面倒そうにカナタの一撃を片手で止めた夏芽を見て、カナタも言った。


「お前らの事情なんか知った事か。今度は首を飛ばした後、生き返らないように切り刻んでやるよ」


「あ゛?」


一瞬にらみ合った後、カナタの刀を受け止めた手を振り払うようにしてお互いに間合いを取る。


「そういやこん前、ウチの首飛ばしてくれたんは兄ちゃんやったな。ええやろ、首を飛ばされるのがどんな気持ちか味あわせたるわ」


そう言うと夏芽から殺気が噴き出してくる。さらにその夏芽の強大な気配に隠れるようにして年老いた男も出てきた。


「烏間ぁ……」


普段は飄々としているアマネがその姿を見た途端、殺意という感情をむき出しにしてその名を呼んだ。アマネが感情をむき出しにすること自体珍しいし、これまで抑えていたからか空気感を塗り替えるほどの濃密な殺気を向けられているにも関わらず、烏間はそんなアマネをちらりとだけ見るとすぐに夏芽に向き直る。


「我を忘れて暴れすぎるな。目的をわすれるなよ」


そう言うと、カナタ達の頭上を飛び越え倒れたままの伊織の遺体を担ぐともう一度飛び越えて佐久間の隣に着地して伊織を床に下した。


「ふふ……こやつらは一卵性。感染と半感染と一度にデータが取れる。」


喜色を隠そうともしない佐久間が伊織のそばに腰を下ろし、その顔に触れる。


「む!」


そこに飛び込んでくるものがあった。一つはダイゴが投げたこれまで使ってきたポリカーボネートの盾、一つはアマネ本人。人としてすこし異常とも思えるアマネの動きに感染者の力を得た烏間もアマネを止めるので精いっぱいだった。


「ぎゃああああ!」


その結果、ダイゴが投げた盾はその勢いのまま伊織に伸ばした佐久間の腕をへし折って抜けていった。


「き、貴様!よくも……何をしている!きちんと私を守らんか!」


佐久間が盾を投げたダイゴと、それを止めきれなかった烏間に怒りをぶつけた。


「ふん。この女の相手をしながらそれは無理というものだ。そっちは自分でどうにかしろ」


そう言うと烏間はゆっくりとした動きで飛び込んできたアマネと向かい合う。


「お前はキザさんを汚した。だから殺す。恨むならそこの佐久間って奴を恨むんだなー」


いつの間にか抜いていた刀を烏間に向けアマネが言う。口調こそ普段と変わらないが殺気は隠すつもりもないようで、二人の間に濃密な空間ができている。


「くっ!まあいい、計画通りやる。二人とも時間に遅れたら知らんぞ」


そう言うと佐久間は痛めた腕をかばいながら伊織を肩に担ごうとした。


「があああぁぁっ!」


それぞれの相手をけん制している夏芽と烏間が思わず視線を動かす。叫び声をあげたのが佐久間だった。佐久間を狙っているカナタ達は自分たちが牽制しているので、あとは佐久間が伊織を連れて扉の向こうに逃げ込めばいいだけの状態だった。


「ほう……」


「ああん?」


感心するような声と疑問の声が烏間と夏芽から発せられる。なぜならば、その視線の先に佐久間の痛めた腕を足で踏み動きを封じながら見下ろす伊織の姿があったからだ。


「ようやく手が届いたで。観念するんやな」


そう言いながら佐久間を見下ろす伊織の表情には、さっきまでと違いはっきりとした感情、怒りが浮かんでいる。うつろな感染者は基本的に喜怒哀楽を表現することはない。


「伊織さん!」


そこに烏間達を大きく迂回するように回り込んでダイゴが駆けつけてくる。伊織が佐久間の手に渡った瞬間一瞬でキレ散らかして持っている盾を投げつけた男とは思えないほど喜色をにじませて。


「ごめんな、こうでもせんとこいつ部屋から出てこんやろうから……ちび、ゆずが身を挺してくれてな」


その言葉に黙って首を振ってダイゴは伊織と共に佐久間を拘束する。佐久間は踏まれた腕が痛むのかさして抵抗することなく従っている。


「まさか感染するふりをしていたとはな。もしやとは思ったがお嬢、あんたが仲間をかみ殺してまでやるとは思ってなかったよ」


「……死んで、ない。8割は演技。今年、の助演女優賞?は……きっと私」


意識を失っていると思われていたゆずが苦しそうに途切れながらの声で佐久間の言った事に対して反論する。


「ほら、いいから君は寝てな。重傷は確かなんだから……全く呆れた子だね」


ゆず達の計画に一枚かんでいたであろう喰代博士が呆れた顔でゆずをたしなめた。


「お前たち……帰ったら説教だからな……」


顔を伏せ、わずかに肩を震わせながらカナタはそう言うと、袖で汗をぬぐうようにして顔全体をぬぐった。


「ならさっさと終わらせて帰るぞ!」


再び顔をあげたカナタが気合の入った声で号令する。もうさっきまでのそばにいるだけで切り裂かれそうな殺気は消えていた。


「「「おう」」」


カナタの号令に全員の声が応える。


「博士、ちょっとシャレにならないくらい痛い」


そんなカナタ達に聞こえないようにゆずが喰代博士に泣き言をこぼす。喰代博士は特大の呆れ顔をつくってゆずを見て言った。


「そりゃそうだよ。私が処置しなかったら出血多量でもう意識もなくなっていただろうし、まごうことなき致命傷だからね。というか、このままでも死んじゃう可能性は十分にあるんだからね?」


「ん、そこは博士を信じる……」


そう言うとゆずは力を抜いた。どうやら再び眠りについたか意識をなくしたかだろう。


「……信じられない事をする子達だよ」



つまり当初カナタ達も思ったように自作自演だったわけだ。程度がシャレにならないが……


ゆずに呼ばれ隣の部屋に行った喰代博士と伊織はゆずからこの計画を聞いた。




「いや、そんなんうまくいくはずないやろ。ウチでも嘘やって思うわ」


ゆずから計画を聞いた伊織はまずそう言った。喰代博士も黙って頷く。この状況で部屋を出て行った奴が都合よく感染しました~などと言って戻っても佐久間どころか、仲間たちも呆れるだけだろうと。


「ん、だからこそ一度信じさせる事ができたら隙は大きい。」


しかしゆずも引かない。伊織の肩を掴んで引き寄せながら言った。


「現状形勢はかなり不利。佐久間という男の想定内でしかない。きっと何をしてもあの男はこちら側に出てこない。しかもあのガラスは防弾、12.7mm弾で破れないなら手持ちでは手が出ない」




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