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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
21.所業

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21-9

ここ数日急性胃腸炎で更新出来ませんでした(~_~;)

その間書くこともできてないのでストックもなく‥‥しばらく更新が乱れると思います。なるべく早く復活します^^;

佐久間はじっと伊織の手の手紙を見ている。


その間十秒ほど。そして口を開いた。


「お嬢、確かに最初に感染者に目を付けたのはあの治癒力でした。娘の病はね、もう気休めしかできないような状況でした。パニック以前ならまだしも、物資も設備も限られている、化学薬品なんて望むべくもない。そんな中で、痛み止めはもう頭打ちでした。ならあの感染者たちの治癒力を薬に落とし込むことができればあるいは……そう考えた私は文字通り寝食を忘れて研究にのめりこみました。お嬢も知ってると思いますが、私も何度か倒れてますからねぇ。藤堂のオヤジにはそのたびにこっぴどく叱られましたが……でもそうやって感染者の事を調べれば調べるほどすごい可能性を秘めている事に気づいたんです。それからはお嬢も知っているように、感染者を調べようと思ったらオヤジが準備した施設では不可能でした。大きい施設がどうしても必要だったんです。」


話を聞いているうちに少し前に喰代博士が言っていた事を思い出した。


「研究者という人種にありがちなんですけど……何かを目指して研究をしていたはずが、いつか研究をすることが、未知を知ることが目的となってしまう人は結構います。そしていつの間にか目指していたはずの物を置き去りにしてひたすら道を進んでいこうとする人が。佐久間もそうだったのかもしれませんね」


「お前ずっと目的は変わらんかったんか?」


そう言われたのが意外だったのか、佐久間は少し眉をひそめて言った。


「ええ、感染者を調べて治癒能力を薬に落とし込むことが出来たら娘の病も少しはらくになるかもしれない。そうかんがえてましたからね」


「ほんまか?お前……研究しとるうちに研究するのが目的になってたんとちゃうか?ほんまにずっと頭ン中に美香ちゃんがいたんやな?」


「…………」


今度は佐久間から何の返答も帰ってこなかった。そしておおきくため息をつくと、首を振って言った。


「もうやめましょう。美香はもうこの世にいない。こんなことを言い合っても何にもなりません。いまは……」


「ふざけんなや!お前がすべきことは研究に没頭する事やなくて美香ちゃんのそばに少しでもいてやることやったんちゃうんか!」


流れる涙を拭くこともせずに伊織は叫んだ。まるで血を吐くような感情の発露だった。


「…………見解の相違ですね。私が美香のそばにいる事を選んだら誰が薬をつくるんです。もちろん結果的に薬はできませんでしたが、それは結果論です。あの時点で私は薬ができる方に賭けた、それだけです。さあ、みなさんも退屈でしょう。少しショウをしましょう。」


そう言うともう伊織の方を見もしないで、つかつかとパソコンが置いてある机の方に歩いていく。そして数回キーを押した。

伊織は何か言い募ろうとしたが、佐久間には届かない事を理解したのだろう。一度鏡を叩くとその場を離れた。


佐久間はそんな伊織をちらっとだけ見たが、スルーしてパソコンの操作を続けた。すると、佐久間の背後にあった壁が左右に開いた。壁だと思っていたがただの仕切りだったようだ。


「詩織!」


離れていた伊織が再び鏡にしがみつくように飛びつく。

仕切りの先には両手両足を固定され、半袖の薄手の入院着のような服に着替えさせられて、まるで十字架に磔にされたような状態の詩織がいた。意識はないのか深くうなだれていて、その長い黒髪がだらんと下がっている。


「いやあ、素晴らしい。この感染力が強い感染体を発症させない方法を取るとは。実にあなたは興味深いですなぁ喰代博士」


喰代博士に向けた顔は興味がありありと浮かんでいる。先ほど娘の話をしていた時よりも……

そんな佐久間に喰代博士は侮蔑の表情を隠そうともしないで見つめている。当の佐久間は一切気にしていないが。


そして傍らのスクリーンにパッと何かのグラフが表示される。それを指しながら佐久間は話を続けた。


「例えばこの染色されてあるβ受容体とγ素体。この二つの感染後と発症後の変容の仕方についてあなたはどのような見解をお持ちですか?」


このような状況であるにも関わらず、実に楽しそうに佐久間は話しかけてくる。


「おや、あなたほどの研究者がこれの変容に注目していないはずはないと思いましたが……それともあまりよそで自分の見識を話さない主義の方ですかな?お気持ちはわかります。しかし、このような世の中では情報の拡散など知れたものですし、研究の進捗は共有した方がお互いの……」


「私は!」


ペラペラとうそみたいに饒舌になった佐久間の話を喰代博士の鋭い声が止めた。


「私も仲間内では変わり者扱いをされています。研究しだすと周りが見えないとはよく言われますし効果を確かめるために自分に投与して変化を見ることなどしょっちゅうです。私も研究者として一歩道を外れた変わり者であると自覚はしています。ただ……あなたのように人間である事は捨てていないつもりです。」


ぴしゃりとそう言い切った喰代博士の言葉を聞いた佐久間の顔が一瞬で無表情になった。


「それは……どういうことですかな?私は生物学的にも生理学的にも人間であると自負しているが?」


「そんな枠組みの事を言ってるんじゃありません。あなたは人としてなくてはならない部分が欠けています。それが先天的か後天的かは知りませんが……」


険しい顔をした喰代博士が言うのを、佐久間はさっきとは真逆の顔で聞いている。実に面白くなさそうな顔で……


「ふむ……あなたも他の有象無象共と同じような事を言うのですな。私はそんなつまらんものはなくてよかったと思っているよ。あなた方の言う人として大事なものを持っていたら、人体実験をしようとすることに躊躇するんだろう?罪悪感を覚えるんだろう?ならば私にはそんなもの必要ない。それが原因で人と分類されないのであれば、こちらから願い下げる」


そう言うと、佐久間はもう喰代博士に興味をなくしてしまったかのように液体の入った試験管を振って中身の様子を見ている。


「おい!何自分の世界に入っとんねん!」


伊織ががんがんと鏡を蹴り付ける。


その音で振り返った佐久間がおや?という表情をする。


そしてつかつかと近くまで来ると、こう言った。


「お嬢、もう会う事はないでしょうがお元気で。さ、もうみんな帰ってくれたまえ。」


佐久間がそう言った瞬間、部屋の照明が消えるかのようにそれまで見えていた佐久間の部屋が暗くなり、ただの鏡になっていく。


「佐久間~っ!!」


伊織が力の限り叫んだが、佐久間に届くことはなかった。


「とんでもねえサイコパスだな……」


「傍若無人って感じだったねぇ」


スバルとダイゴの感想だ。ダイゴは肩を落として泣き続けている伊織のそばで背中をさすっている。

今は向こうの部屋で何かガラスの器具を扱っているのだろう、カチャカチャとガラス同士の当たる音が聞こえるばかりだ。

全員が立ち尽くしていた。ここまできてあれを目の当たりにして、さらにゆずの対物ライフルで撃っても壊せない鏡に阻まれてどうする事も出来ずにいた。


「おいガサツ女」


そんな時だった。伊織に近づいて行ったゆずがいきなりそんな事を言った。出会った当初はよく言い争いをしながら「ちび」「ガサツ女」と言い合っていたが、一緒に行動するうちにお互いの事を認めてきたのか言わなくなっていた言葉だ。

ただ今は少しタイミングが悪い。


うつむいていた伊織がギロリとゆずをねめつける。


「なんや、今ウチは冗談に付き合う気分やないねん。どっかいけやちび」


「ちょっと来い」


そんな伊織の襟首をぐいと掴んでゆずは部屋の外まで引っ張っていった。さすがにそこまでの行動に出るとは思っていなかったのだろう、伊織は少し驚いた顔で引っ張られていった。


「お、おいカナタ大丈夫なのか?どうしたんだよ、いきなり」


スバルが慌ててカナタに言うが、カナタにも何が起きたのか分かっていない。ただゆずも何の考えもなくああ言ったのではないことは確かだ。伊織に話しかけに行く前に一生懸命顔を拭いていて、鼻の頭が赤いまま行ったのだから。


「不安ではあるけど、俺はゆずを信じるよ。なんだかんだあの二人仲はいいと思ってるし」


それからゆずだけが一度戻ってきて、喰代博士に声をかけ一緒に部屋の外に行った。きょとんとしてみるヒナタになにやら手で合図を送っていたようだが……


それから、三人が戻って来たのは十分ほどしてからだった。

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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