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21-4

「ここは密閉された空間だからか?足音がやたら反響するなー」


迷惑そうな顔でアマネが何歩か歩いてみて確認している。たしかにアマネの言う通り、そっと歩いても靴が床を擦る音とか体の動きに伴う衣ずれの音とかが普通より大きく聞こえる。これではこっそり後をつけるなんて事はできそうにない。


「よし、なるべく足音と気配を消して、可能な限り急いで移動するぞー。できれば烏間に追いつきたいからなー。おい、いおりんとダンゴ君のカップルと私が先行するぞー」


そう言うと、アマネが滑るように移動を始める。


「そ、そんなカップルだなんて!」


そう言いながら、ダイゴと伊織が頬を染めながら足早にアマネの後を追う。スバルと喰代博士がなんだか優しい目で見るのを見ないようにして……


そんなことをやってはいても、まじめな二人はアマネの後ろに着くころにはしっかりと意識を切り替えている。詩織が敵に捕まり、その敵も一筋縄ではいかないようなのがいるのだ。ダイゴも己の頬をパンと張って気合を入れなおしている。


「よし、行くぞー」


さっきまでとはすっかり雰囲気の変わった無機質な通路を、声を潜めたアマネの声を合図に早歩きくらいの速度で進みだした。曲がり角の度に止まって、先の様子を見ながら慎重に進むが烏間の姿もほかの感染者の姿もない。さらに二つほど角を曲がった時、それに気づいたアマネが手で止まれの合図を出す。


「……?」


なぜ止まったのか分からなかった伊織がアマネに聞こうとした時、今いる所の先に扉があってその扉の向こうから重い打撃音が聞こえていた。


「…………ダンゴ君」


少し考えていたアマネだったが、ダイゴを手招くと扉の方を親指でクイクイと指した。それに無言で頷いたダイゴが今も断続的に打撃音の聞こえる扉の前に立つ。そして大きく深呼吸すると扉の枠に手をかけた。


「ふんぬぅ!!……」


恐らく自分たちが通って来た扉と同じように向こう側から隠してあるのだろう。その分こっちに出ているので、分かりやすいし、手も掛けやすい。

そして、その向こうからなんとか開けようと何かを叩きつけているのだとすれば、それは扉の開閉手段を持たない味方だと思える。

ミシっという音が聞こえたが、アマネの回し蹴りの分衝撃が足りないのか、なかなか動かない。ダイゴの顔が真っ赤になっていき、それを見ている伊織も思わず握りしめる両手に力が入っている。


扉の抜こう側にいる者は、こちらから開けようとしている事に気付いたのか打撃音は止まっている。扉が開いた瞬間、勢いのついた鈍器の一撃を食らう事故はなさそうだ。


それでも今度の扉はしっかりとロックでもされているのか、一度きしんだきり微動だにしない。それを見ていたアマネが一瞬ニヤリと笑みを浮かべた。


その瞬間を後ろを警戒しながら扉の方も見ていたスバルが見た。そして思った。ああ、またなんかいたずらを思いついたんだな、と。どんな時でもユーモアを忘れない、それがこのチームの特徴の一つである。はたして、ダイゴのそばで両の拳に力が入っている伊織にすたすたとアマネが近寄っていく。


「なー、いおりん。いおりんも手伝ってやったらいいんじゃないか?」こう、ダンゴ君の手に添えるようにして……」


アマネは両手で扉を開こうとしているダイゴの手に上から添えて手伝うように言う。


「?そんなん、ウチの力が加わったくらいで……それにダンゴさんの手を引っ張ってもあまり意味が……」


怪訝な顔でそう言う伊織の言葉を遮って、アマネは促した。


「いいからいいから。やってみろって。愛の力を見せてみろー」


そこで、またこいつからかっているんじゃ?と伊織の頭に浮かんだが、さすがにこんな場面で。と思い返す。まだアマネという人物が完全に把握できていなかったようだ。


「なんやねんそれ……」


口をとがらせながらも、言われたとおりにダイゴの手に自分の手を重ねた。すると、ダイゴの肩がピクリと跳ねる。


ぎし……


「お?」


ばきっ!


それと同時に何かが割れる音がして、扉が少し開いてダイゴ達はしりもちをついた。


「おー、らぶらぶぱわーも馬鹿になんないなー」


アマネがしりもちをついているダイゴと伊織にぱちぱちと拍手しながら感心したように言った。


「なんやねんそれ……」


一緒にしりもちをついて、ダイゴに背もたれ掛かったまま伊織をぷいと横を向いてまた同じ言葉を吐いた。ただ少しだけ頬がにやけていたが……


「む、アマネさん。カナタ君は……いないか。」


「おい、露骨にがっかりしてんじゃねーよ。」


少し開いた隙間からひょいと顔をのぞかせたのはゆずだった。そして周りを見渡しての言葉だ。それに思わずと言った様子でスバルが突っ込んだ。


「ん、確認しただけ。がっかりなんてしてない」


そう言いながら隙間を何とか通り抜けてきたゆずだったが、さっきのは明らかにがっかりしていた。


「よかったー。びくともしなかったからどうしようかと思っちゃった」


ゆずの後からヒナタも隙間をくぐってくる。ヒナタたちは長野を見送った後、どうにかしてみんなと合流したいと思い、通気口のあった部屋まで戻ったが、扉がロックされていて開かなかった。長野が通る時ここに隠し通路があるのを見ていたので、何とかあかないかといろいろ試していたら、向こう側で何か音がしたから様子を見ていたらしい。


「という事はここにいたのは二人だけだなー。また隠し通路開けたら今度はかなちん達がいるかもしれないなー」


それを聞いたダイゴががくりとうなだれた。


「また開けるの?これほんとにつらいんだけど……」


うなだれながらそう言うダイゴの前に座ったアマネがダイゴの肩にポンと手を置く。


「大丈夫だ。らぶらぶぱわーがある!」


それを聞いて、ダイゴはますます肩を落とすのだった。






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