21-3
「ここに隠し通路みたいなものがあるはずです」
一番後ろで成り行きを見ていた喰代博士がおもむろに声をあげた。
「隠し通路……」
反芻するように誰かが呟く。喰代博士はつかつかと壁際の方に進むと壁を子細に調べだした。
「おや、隠し通路って……そんなけったいなもんが……いや、まあ。そうやな……隠し通路があれば誰もいなかったはずの後ろからいきなり攻撃されてもおかしくないけど……なんでそんなもんが?」
伊織は頭を押さえながら喰代博士に近づいてはなしかけようと歩き出した。それを手は触れようとしないで何かあったらすぐに支えれるようにダイゴが追従している。
「この館内図、おおざっぱにしか書かれてないんですが、それでも違和感があるんです。この館内図は部外者用の物なので隔離された研究エリアの事は載ってません。塗りつぶしてあるだけなんですが、これだと隔離性が低いというか……ごめんなさい、口で説明するのが難しくて」
館内マップを片手に喰代博士は申し訳なさそうな顔でそう言った。
「んー、つまりプロの目から見たらなんかおかしいってことだろー?今は少しでも情報は欲しいんだ、なんでも試してみるべきだと思う」
アマネはそう言うと喰代博士の対面の壁を調べだした。それを見て他のみんなも顔を見合わせながら同じ作業をしだした。
「……特に不自然なところはないですね」
一通り調べておかしいところは見つける事ができず、消沈した様子で喰代博士が呟く。それでも気になるのか壁をじっと見たままだ。
「…………」
その様子を見ていたアマネは少し考えると休憩エリアの方に戻って行った。それをみんな不思議な顔で見ていたが、何をしに行ったのか確かめに行くこともなくすぐに戻って来た。ただ、両手に行くときには持っていなかった物を持っている。
「えと……アマネさん?植木鉢なんかどうすんの?」
近くにいたスバルがそう聞くと、アマネはにやりと笑って「こうすんのさー」と続けざまに植木鉢を壁に向かって投げつけた。
ガシャアンという陶器の割れる音と中に残っていた乾燥した土のパラパラと言う音が響き、思わず耳をふさぐものもいた。
「ちょ、いきなりなにすんねん」
伊織が抗議めいた声を出すが、アマネは取り合わず視線は壁を見ている。
「あ…………」
そう声をあげたのは喰代博士。その視線の先には……
それまで継ぎ目もないように見えた壁に線が二本入っている。それは扉のようにも見えた。
「衝撃と粉っぽいものをぶつけたら見えやすくなるかなーと思ってなー。」
そういうが早いか、アマネは勢いをつけて数歩助走をつけて地面に手をついてくるりと翻った。そして直地と同時に後方にジャンプ。
「ロンダート!?」
誰かが思わず声を上げた。アマネは体操競技で選手がバク転やバク宙の前に入れる側転のような動きをしてみせたのだ。違う部分はロンダートの後、ジャンプしたがバク転もバク宙もしない。助走とロンダートでつけた勢いを乗せて後ろ回し蹴りを放った。
ズドン!という小柄なアマネが蹴ったとは思えない重い音が壁を震わした。壁に付着していた土と積もっていた埃がパラパラと床に落ちて蹴ったアマネは身軽に着地した。
「あっ!」
さっき乾いた土が付着した事で露になっていた壁の継ぎ目がアマネの蹴りを受けてさらに動き、隙間ができている。
「これは……ドアや」
そう言って伊織が隙間を広げようとしたが、動かない。そこにダイゴが加わり力を籠めると壁がミシっときしむ……
そして、バキッ!という何かが割れた音がした。
「あ、動く。さすがダンゴさんやな。」
壁の一部が横にスライドするような造りになっていたのだ。取っ手などはないので自動制御だったのだろうが、歯車か何かを壊してしまったのだろう。今は伊織の力でも動かすことができるようになっていて、感心した伊織がダイゴの二の腕をパンパンと叩いている。ダイゴは頭をかきながら「いや、それほどでも……」とか言っているが、その表情はまんざらでもなさそうだ。
「なるほどスライド式の自動ドア。おそらく佐久間のいる集中管理の部屋から操作して開閉するようになっているんでしょうね。」
伊織とダイゴをスルーした喰代博士がスライドする壁を調べてそう言った。
「アマネさんもダイゴもなんて力業……」
スバルが半ば呆れた顔で言っているが、抜け道を見つけて沸いているほかのみんなの耳には届かなかったようだ。
「よし、ほんじゃ行こうか。きっとこの通路が本丸に通じてるはずだからなー」
まるで散歩にでも行くかのような気軽さでアマネが言うと、全員の顔が引き締まる。確かにここを通って烏間が来たのなら佐久間のいる集中管理室につながっていてもおかしくないのだ。
特に詩織をさらわれた伊織が気合が入っている。それは同時に危うさもはらんでいたが、そんな伊織の両肩に大きい手がそっと添えられた。
「僕も手伝うよ。そういう約束だったからね」
ダイゴが伊織の肩に手を置きながらそう告げた。そして、それはともすれば入りすぎていた伊織の気合と緊張をうまい具合に和らげる効果を出していた。
「ありがとうな、ダンゴさん。頼りにしてるで」
己の肩に置かれた大きいダイゴの手に自分の手をそっと乗せて、伊織がささやくように言う。
そして、その真後ろにいたスバルは所在なさげな顔をしている。
「うん、なんかもう……いろいろとガンバレ、な!」
何かが吹っ切れたような顔になったスバルはそう言って二人の肩を叩くのであった。
読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。
ブックマークや感想、誤字報告などは作者の励みになります。ページ下部にあります。よろしければ!
忌憚のない評価も大歓迎です。同じくページ下部の☆でどうぞ!