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20-19

カナタ達が獅童と戦闘を始め、ヒナタたちが長野との邂逅を果たしていた頃、天井裏の大きい鉄骨の梁に鳥のように並んで換気ダクトの中を見る姿がある。


「これほんとに僕が入っても大丈夫かなぁ?」


さっきから何度も心配そうな声を上げるダイゴ。


「まー、大丈夫だろ?天井からボルトで吊ってあるし」


アマネがよく見もしないで簡単に言ったのを見て、ダイゴは余計に不安を募らせていた。


「誰だって怖いもんはある!気にしたらあかんでダンゴさん。ウチもおるから」


アマネの横から押しのけ気味にでてきた伊織が不安がるダイゴの右手を自分の手で包み、ダイゴを元気づけようとしている。


「ん~、なんか微妙なのが残ったな……」


そういうやり取りをしている周りのメンバーを見て、思わずといった感じでスバルが呟いた。そして自分が言った事がマズかった事に気付いて慌てて手で口をふさいだ。そしてそのままゆっくりと振り返ると、目の前にアマネが立っていた。


「聞き捨てならない事を言うなー。誰が微妙だってぇ?」


半目でスバルをじっと見るアマネに、差バルはたじろいで何歩か後ずさって勢いよく首を振った。


「ちが、違う違う!アマネさんは別だよ。そうじゃなくて……ほら戦えない人もいるしさ」


慌ててそう弁明する。が、スバルの言う事はアマネもひそかに思っていた事だった。だからか深く追及されず、スバルは肩の力を抜くのだった。

先ほどヒナタたちが入って行ってからしばらく経つが次の組が出発できていないのがその証拠だった。


(む~、スバルっちのいう事もわかるんだよなー。)


心の中でそう考えながらアマネが周りを見渡した。ぶっちゃけ第一線で動けるのがアマネしかいない。


(スバルっちとダンゴ君は二人で一人分、いおりんとしおりんは二人でも一人前に満たない。そしてそもそも戦闘員ですらない喰代博士。そして天井裏を進むには換気ダクトの中を通るしかないのに、一度に通れるのは二人……無理したら三人くらいかー)


(私と喰代博士が行くとして……普通に考えたらすばるっちとダンゴ君のコンビ、いおりんしおりん姉妹のコンビ。……不安だなー。かといって組み合わせを変えたらもっとダメになるしなー)


組み合わせを考えるとなかなか進めなくなってしまっていた。

それに何といっても当人たちも自覚しているらしく、誰も自分から行こうとは言わない。スバル達はせいぜい二類感染者は楽勝で倒せるが、虫型の三類感染者になるとすこしやばい。伊織たちは完全に勝てないだろう。マザーや佐久間が手を加えて変異した奴らと会うと逃げれるかどうかも怪しい。


下では激しい戦闘音がしている。進まないと囮を買って出てくれたスイレン達に申し訳ないのだが、こちらとしてもむやみに突っ込むわけにもいかないのだ。

アマネが髪の毛をバリバリとかいていると、そっと喰代博士が近寄ってきた。


「私にアイデアがあります」




喰代博士の出したアイデアに従って、ダクトの中をアマネが進んでいる。そしてもう二つ目の分岐のところまで来ていた。


「ここをひなちゃんたちが曲がったんだな。じゃあもう少し先に行くかー」


進もうとする先は闇に包まれていて、いよいよ何も見えない。それでもランタンをもったアマネが進むにつれ、次第に闇が散らされていき、他のところと同じような格子の点検口が見えてきた。

例によって下の様子を窺い、何もいないことを確認してアマネはそこから下に降りた。だが、他の組と違いアマネの後に誰も降りてこない。そのかわりアマネは持ってきた棒でダクトの中を何度か叩いた。

金属のガンガンという音がダクトの中を伝わっていく。アマネが叩いてからしばらくすると向こうでも叩く音がしてこちら側まで伝わってきた。


「よし、これであとはこの場所を防衛する、と。」


喰代博士が悩むアマネに伝えたのは、何も二人一組にこだわる必要はないのではないか?という事だった。一度に通れないなら誰かが先行してそこで待ってればすむ。ダクトを叩いて合図をしたのはダクトを出た合図だ。向こうからの合図は今からダクトに入るというものだった。


やがてそう長く経たないうちに伊織と詩織がやってきて、同じことを繰り返しスバルと喰代博士がちょうど降りてきたところだ。


「ふう、思ったよりも狭かったなあ……ダイゴ大丈夫かなぁ。途中で引っかかったりしないよな」


最後に降りてきたスバルは想像していたよりもダクト内が狭く感じたらしく、しきりに後ろを気にしている。残るはダイゴだけだからだ。

そういうのも、もう数分前に合図を送ったのだがダイゴからの合図は返ってきていない。つまりダイゴはまだダクト内にも入っていないという事になる。


一分、二分と時間が経過していくにつれ、不安の波が広がるように伝播していく。誰もが心配げな顔をしだした頃、ようやく合図があった。それもほんとうにダイゴが叩いたのかと疑うほどに弱弱しい叩き方で……


「大丈夫なんでしょうか?」


とうとうあまり交流のない詩織まで心配する言葉を口にする始末だ。


「もしかして何かトラブルがあったのでは……さっきの合図も何というか、ダイゴさんらしくない叩き方だった気がしますし。今こっちに向かっている人は本当にダイゴさんなんでしょうか?ここってたくさんの方が実験に使われて亡くなっているんでしょう?私、少し気味悪くって……」


そう言うと詩織は一度周りを見て、自分の両肩を抱いた。


「なんや、幽霊なんか信じとるんかいな詩織。もしそんなもんおったら、今頃この辺うじゃうじゃおるできっと。ゾンビが蔓延る世の中に幽霊はあまり雰囲気にあわんとちゃうか?」


「でも姉さん、この場所は特別無念に命を落とした人がたくさん……」


「あーあー、そんなんええねん。詩織、生きとる人の事を最優先に考えや?その上で余裕ができた時に考えたらいいねん」


伊織はやや大げさな仕草で詩織の肩をバンバンと叩く。そのやりとりを見ていたアマネが何か思いついたのか、そおっと伊織の後ろに移動する。そして何度か咳ばらいをすると、おどろおどろしい声真似をしてみせた。


「おおおおぉぉん!」


こういういたずらには無駄な才能を発揮するアマネ。周りが思うより数段高いクオリティの声真似だった。


「ひいいぃぃっ!」


それまで陽気な声を出していた伊織はアマネの出した声を聞いて飛び上がると、目の前にいた詩織に抱き着いた。


「な、なんや今の声!」


詩織に抱き着いたまま伊織はすでに半泣きになっている。


「ええ、地の底から聞こえてくるような恐ろしい声でしたね。何か言いたいことでもあるんでしょうか?」


そこで詩織までアマネのノリに付き合い、とぼけた事を言い始める。普段は強がっている姉の怖がる姿がかわいいのか、よしよししながらも言ってる事はだいぶ脅している。


「詩織も聞いたんか……あかん、もうあかん。お祓いや、誰かかんぬっさん知らんか?な、な」


よほど慌てているのか、まわりにいる人に手当たり次第に聞いて、最後にアマネにたどり着いた。


「おおおん(笑)」


さっきの声を少しだけ出してみせると、ぴたりと伊織の動きが止まった。その後ろでは詩織がこらえきれずにくすくすと笑いだす。


「なああっ!詩織まで一緒になってなんやねん!!」


アマネはけらけらと指をさして爆笑している。


おおおおん…………


「ああ!?今度は誰やねん!」


イラついた声と巻き舌でそう言って伊織は振り向く。しかしそこには誰もいなかった。さっきは通気口の下でアマネが声を出していたのだが、今は伊織に追われて詩織と一緒に逃げて離れた所にいる。


おおん…………


「ひっ!」


ふたたび伊織の顔が青くなる。さすがに全員の雰囲気が変わった。武器に手をかけ周りを確認しながら耳を澄ます。


おおおおん…………


「ひいっ!なんやねんな、もうっ!」


叫びだしそうな伊織の肩にポンと手が置かれる。泣きながら振り返るとアマネが優しい顔で伊織の肩に手を置いている。


「…………なんや、またあんたか?手の込んだ事し」


「いや、違うぞー?さっきのは私じゃない。しおりんと一緒に逃げてたのに何かできるわけないだろー?」


そう言ったアマネに伊織はフルフルと首をふった。


「いや、あんたやろ?もうそれでええねん。な?うんて言うときぃーな」


むしろそうであってくれと懇願する伊織をよそに、アマネはスタスタと換気口の下まで移動した。


おおおおん…………


「あああ………………」


またその声が聞こえ、伊織は今にも倒れそうな雰囲気になっている。アマネはじっと換気口を見ていたが、おもむろに振り返ると言った。


「この現象を解決するには必要なものがあるなー。ロープと……それから油もしくは石鹸水がいるなー」


真面目な顔をしたアマネがそう言い放った。




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