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20-16

「長野……」


ゆずが姿を見せた中年の男性を見て、殺気じみた気配を放ち始めた。

その様子にヒナタも相手をよく観察してみるが、どこかで見たことはあるかな?程度の感覚しかなかった。長野と呼ばれた男は不機嫌そうな顔でヒナタたちを見ている。守備隊の隊服を着ているので、関係者ではあるのだろうが……


「ヒナタ、あれは当時六番隊隊長だった獅童と一緒になってカナタ君を罠にはめた奴……私は査問会に姿を見せた時のカナタ君の姿を忘れたことない。……長野、礼を言う。ここで……私に殺されてくれるために来た。」


ゆずが長野に今にもかみつきそうな雰囲気で言った言葉で、ようやくヒナタも思い出した。……不当に拘束されて、開かれた査問会での様子……。あの時はカナタの様子に驚きすぎてそればかりに意識が集中していたので、当時よく知らなかった長野の事は覚えてもいなかったのだ。


「ふん……」


そんなゆずの殺気をまともに浴びても長野は面白くなさそうに鼻を鳴らしただけだった。


「これだから若者はつまらん。もっと大局で物事を見たまえ。剣崎といったか、あの男は松柴の手ごまだった。都市を運営して守備隊という組織を動かしていくのに、そういう特別扱いされた存在というのがどれだけ目障りかわかるか?ほかの守備隊員がどんな感情を持っていたと思う?守備隊という組織の中でイレギュラーな存在だったんだよ。何が十一番隊だ!松柴の手下にすぎん。そして代表である松柴に優遇されマザーの情報や組織の一部などというわかりやすい手柄を立ててくる。それでは地道に頑張っている隊員たちが腐るばかりだ。あれは必要な措置だった、だから№3から協力する話が来たときに私はそれを利用して排除しようとしたというのに……獅童という馬鹿者のせいで私まで都市を追放され、こんなところで不遇な扱いをされている。うんざりなんだよ、松柴と貴様らを消して私は元の場所に戻らせてもらう」


当たり前ではないか。そんな顔で長野は言ってのけた。


「ふざけるな!カナタ君は縁があって個人的に仕事を依頼されていただけだ!結果を残せたのはカナタ君が頑張ったからだ!」


ゆずは怒りに任せて反論するが、長野はもう取り合おうともしなかった。そして相棒であるゆずが激高しているためか、ヒナタも腹は立っているものの比較的冷静にいる事ができていた。


「なんか、結局あなたが守備隊のお偉いさんの立場にいたいだけでは?隊員たちがどうこう言ってるけど、都市にいて何か問題になることはなかったし、あなたとあたなの周りにいる人たちが勝手に嫉妬して勝手に騒いでいたように思います」


激しい口調で感情をぶつけるゆずの言葉は無視できていたが、冷静な様子で反論するヒナタの言葉には長野の眉が動いた。


「なんだと?」


「だって、あなたは別に守備隊を統括する役職を持っていたわけじゃないと聞いてます。それなのに総督とか呼ばせていたって……守備隊のためとか、隊員のため、みたいな事言ってるけど。元の場所に戻るって……結局は自分がそのポジションにいたいだけなんですね。」


痛いところをつかれたのか、ヒナタの言った事に一瞬顔色が変わる。それでもさすがに自重したのかなんとか自分を落ち着けたようだ。


「お前みたいなガキになにがわかる。私のような者が統率してああいう組織はうまく動くのだ。役職などは後からいくらでもついてくる。」


苛立ちを何とか嚙み潰した長野が吐き捨てるように言う。


しかしヒナタはさらに言葉を続けた。


「確かに私は子供です。あなたの言うように大きな視点から物事が見えていないのかもしれません。でも、私にはあなたが世界がこうなってしまう前にテレビで見た、悪いことをしているのに言い訳にもならないような言い分で、分かりやすく権力にしがみついたり、追求するポーズは見せるけど結局深いところまで追求しないでなあなあで終わらせる政治家と同じように見えます。」


冷静な様子で真顔で語るヒナタの言葉に、今度は自分を律する事もできなかったのか、長野が怒りを露にする。


「黙れ!世界は従える者と従う者で構成されているんだ!きさまらのような愚民は黙って私のような優等な治世者に従っていればいいんだ、こざかしいことを言うな!」


右手を大きく振るって長野は叫ぶように言った。


「結局それが本音なんですね」


あくまでも冷静にそう返すヒナタに、感情にまかせて長野は一歩踏み出した。そこに無機質な音が聞こえる。


「……戯言はいいかね?そろそろ例の物を服用してもらおうか。それとも醜い言い訳を吐いて約束をたがえるかね?その娘が言ったように」


スピーカーを通してさえわかるうんざりした様子の佐久間がそう言った。その言葉にわかりやすく苛立って長野はカメラがある方を睨みつける。

そのまま数秒睨んでいたが、ギリっと奥歯を噛む音が聞こえるくらい食いしばり、もう一度ヒナタを睨んでから懐から何かを取り出した。

それは金属のケースに入った注射器だった。長野はヒナタを睨みつけたままその注射器を己の首筋にそえる。


注射器に入った薬剤を注入しようと、長野の指に力が入った時。


ターン!


廊下に銃声が響き、長野の持つ注射器が割れ薬剤は長野の肩口を濡らすにとどまった。ヒナタの隣で拳銃を構えるゆずが放ったものだった。


「敵が何かしようとしているのに、黙って見ているのはお約束。でも私はあえて空気を読まない女」


なぜか得意げにそう言い放ったゆずが拳銃の照準を長野の頭にずらす。


「御託はどうでもいい。お前にはカナタ君を罠にはめた罰を償ってもらう。だまって拘束されればよし、でなければ私が代表して刑を執行する。ちなみに私が執行する刑は死刑一択。さあどうする」


至近距離で銃弾が通り、持っていた注射器を割られた長野は持っている注射器の破片を捨てようとした。しかし手が離れてくれない。ぶんぶんと、何度か手を振ることでようやく手から離れた注射器の破片が廊下に当たってカシャンと小さい音を出した。

長野はその自分の手を見た。小刻みに震えている。


長野は№4が出来て、守備隊という組織の前身ができたくらいから所属している。実は長野はもともと小さな町の町議をしていた。ヒナタが例えて言った事は、当たらずとも遠からずだったのである。

それまでに作った取り巻きや、小さな町とはいえどあった政治闘争などの経験を使い守備隊が結成されたころにはそれなりの立場を確保していた。長野は町議だった時にも権力に固執していた。いずれは国会に……そう考えていた。しかし世界が崩壊し議会どころか国会すら機能しなくなった時に、わかりやすく権力を誇示できる集団として守備隊を選んだに過ぎない。

市民を守るためとはいえ、武力を行使できる組織は強い。その集団を率いる立場というのは長野の欲望を満たす絶好の場所だった。


しかし、長野は表向きには守備隊の統制に尽力していたにも関わらず、松柴は決して長野に実権を握らせることはなかった。それは長野の本性をそれとなく察した松柴の功績との言えるのだが、長野は強引に自分の取り巻きに己の事を総督と呼称させ立場を固めていったのだ。


守備隊の中でも裏工作を盛んに行い、己に有利な状況を作っていた。その方面にはある意味才能があったのかもしれない。しかし単純な戦闘力という点においては長野は人並み以下である。長年裏工作や政争に明け暮れ、私生活では見栄もあり人より贅沢なものを好んだ。そんな生活をしているだけの者が戦う体などできるわけがない。

これまで荒事になったとしても取り巻きが対応して、長野は安全な所から眺めることができた。できていた。


しかし、ここにきて顔のすぐ横を暴力の塊とも言える銃弾が至近距離で通り抜けたのを肌で感じ、長野の体は明らかにおびえていたのだ。だが、そんな事はおくびにもだしてはいけない。長野にとって小娘が放った銃弾におびえるなど絶対に認められないし、あってはならないことだったからだ。

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