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20-14

戸惑っている二人を前に、獅童は先ほどとはうってかわりこちらを挑発するような動きをしている。まるで街中でけんかをうるチンピラみたいな雰囲気になっている。


「どういう事?獅童隊長じゃないみたい……」


ハルカも怪訝な表情をしながら攻めきれないでいる。カナタよりも付き合いが深いだけにものすごく違和感を感じている。


「佐久間になんかされたんじゃないかな……これまでみた佐久間が作り出した感染者たちみたいに大きく見た目が変わっているわけじゃないみたいだし……」


ニヤニヤと笑っている獅童から視線は外さず、感じたことをカナタが言った。そう、これまで佐久間が手を出して感染者となって再会した者はその姿を大きく変容させていた。それに比べると目の前の獅童は一般的によく見る感染者と見た目は変わらないし、生前の姿からそう多く変わってはいない。


「人を……何だと…………」


憤った声を出すハルカの表情は怒りや憐み、悲しみなどがないまぜになった複雑な顔をしている。


そんなハルカをじっと見ていた獅童から、それまでのチンピラみたいな雰囲気が鳴りを潜めていく。


「……なに、憐れんだ顔で見てんのよ。言ったでしょ、その上から人を憐れんでみるような顔がムカツクって!」


「また雰囲気が、なんだ?いろんな人の人格が入ってる?」


腕を組み斜に構えてハルカを睨むしぐさはどことなく女性っぽい感じがする。しかもまるでハルカと話した事があるかのような言い方をしている。そんな獅童の姿を見たハルカはじっと黙して考えていたが、思い当たる節があったのか、ハッとした顔になる。


「その言い方!?あなた……遠野さん?」


「は?気安く呼ぶなし。あんたなんかに知り合いヅラされるのも不愉快なんだけど」


やはり知っている人物だったのか、ハルカが驚いた声をだしている。それに対して遠野さんと呼ばれた獅童は、とても迷惑そうな顔をしてそう言い返した。


「ハルカ、知ってる人なのか?」


思わずそう聞いてみたが、目の前の人物は獅童で間違いないはず。それなのに話し方や雰囲気がコロコロと変わっている。まるで多重人格者みたいに……

さらに、その人格は作り出された架空の人格というわけではなく、ハルカの様子を見るとどうやら実際に会った事のある人物らしい。


「カナタも一度会ってる。№4に初めて来たときに私が入った宿舎で同室になった娘。六番隊に加入していたんだけど、私が再編するときにはいなかった。亡くなったって聞いていたのに……」


そうカナタに説明しながらも、痛ましい表情になったハルカを見て遠野という人格の獅童がハルカを睨みつけながら叫んだ。


「そんな顔で見んなっつんだよ!人を憐れんだ目で見やがって……むかつくんだよ!」


そういうが早いか、獅童がハルカに襲い掛かる。先ほどと同様、目にもとまらぬ速さで間合いを詰めてくる。


「……飛燕」


しかし、横でその様子をじっと見ていたカナタはこうなることを予測していた。予測したうえで桜花を納刀していつでも抜けるように体のばねをためて待機していたのだ。

予想どおり動いた獅童の体は、カナタの予想を裏切らず思っていた通りの動きをみせたので、カナタは溜めていた力を解放した。


ぴう


やや高い風切り音と獅童の驚愕の表情。そして、もう片方の腕が根本から飛んだ。


「きゃああ!このくそったれ、あたしを斬ってただで……すぅごごがががが…………」


残っている方の腕も飛ばされ、口汚くカナタを罵ろうとしてまた様子がおかしくなる。壊れたゲームソフトの映像のように言葉が止まり意味不明な発音になる。


刀を振りぬいた姿勢のまま、少し下がったカナタもその様子をあっけにとられて見ていた。


「ががぐぅ…………困るなぁ、この僕の腕を。君はまた斬ったわけだ。もう、きみの命だけでは償えないよ?僕に逆らって、あまつさえ更なる傷まで負わせたんだ」


しばらく不明瞭な発音を漏らしていた獅童が、まるでチャンネルが変わり明瞭な放送になったみたいに、まともに話し出す。大仰な仕草と話し方。記憶にある獅童そのものだった。


「やっとお出ましですね、獅童隊長。」


見た目と雰囲気がようやく一致した獅童に、カナタの横に並び立ったハルカが語り掛ける。


「ハルカ君……じつに残念だよ。君はまあまあ優秀だったし見た目も好みの範疇内だったからね。君なら僕の妻の座を射止めたかもしれなかった、惜しいことをしたもんだね」


目だけをぎょろりとハルカに向けた獅童が、また大げさな仕草と一緒にそう言った。


「本気で言ってんのかよ、こいつ」


どうしてか分からないが、なんだかいらっとした気持ちになったカナタが鼻を鳴らして言うと、呆れたような顔をしたハルカがそれに答える。


「ええ、この人は本気よ。いつも色んな女の子に同じような事を言っていたけど、この人は本気でそう思って言ってるの。まあ、今は随分と壊れているみたいだけど」


そう言ったハルカを見て、フッと鼻で笑う獅童はそうしている間にも、まるで生えてくるように腕が復活していた。

生きている間に斬った部分は再生しないが、感染者となった今は1~2分あれば切り落とした腕くらいは復活するらしい。


そう考えながら構えていると、こちらを馬鹿にするような目をして立っている獅童の胸辺りからマイクのスイッチが入ったような音とラジオのチューナーを合わせようとしている時のような音が聞こえてきた。


それはガリガリと耳障りな雑音を出していたが、少しづつ雑音がクリアになっていった。


「あーあー。聞こえるかね?どうかな私の趣向は。気にいってくれて構わんよ」


獅童の胸のあたり、音のする方を気にして見ていると胸ポケットに携帯ラジオのような入っているのを見つけた。

そしてそれは聞いたことのある人物の声を流しだした。


「すまないね。できるだけ所縁のある者同士で戦ってもらおうと思ってな。多少マッチメイクさせてもらったよ。君たちにゆかりがある人物と言えば彼が最適だったというわけだ」


その機械のスピーカー部分から場違いなくらいのんびりとした声が聞こえてくる。


「あんたが佐久間か。いちいちふざけたことしやがって。」


そこから聞こえてくる声に、いらだちを隠そうともせずカナタが文句を言う。おそらくこちらの様子を見れるカメラもどこかに隠しているようだ。

姿は見えないのだが、どこか面白がってみていそうな雰囲気を感じ、カナタもハルカも不愉快さを前面に出してカメラの向こうで安全なところから見ているであろう佐久間を想像し、思わず顔をしかめる。


ただその声が聞こえだしてから、獅童は明らかに何かにおびえるような挙動をしだしていた。きょろきょろと落ち着かない様子で何度も辺りを見回している。

そして佐久間の言う事を信じるのならばここに来たのがカナタとハルカである事をわかったうえで獅童を配置したことになる。てすがに天井裏にまで監視カメラの類はないだろうからこの部屋に降りてから、それから配置できるようなルートがあるのだろう。

佐久間の声に耳を傾けながらもカナタはそう考えていた。獅童の後ろには廊下のような通路が伸びていて、部屋のドアらしき物がいくつか並んでいる。そしてエレベーターのような鉄製で両開きの扉もみえる。


そして落ち着かない様子の獅童の胸から再び佐久間の声が聞こえてくる。



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