20-13
「お前もか獅童……」
「……獅童隊長」
ハルカは査問会の時、軟禁されていたので査問会とその後の事は話でしか聞いていない。しかも獅童は査問会で有罪とされた後、何者かによって連れ去られていた。おそらくは長野と同じく№3の協力していた勢力に助けられたのだろうと話してはいた。
「……やっぱり長野や獅童に手を貸していたのは佐久間だったか……」
感染者を研究すること自体はそう珍しいことではない。誰だって感染者の脅威をどうにかしたいと思っているのだ。ただ、有数の研究者である喰代博士や人体実験すらいとわない佐久間ほど研究の内容は進んでいない。それだけ特異な現象なのだ。であれば、その研究がある程度進んでいる組織でほかの都市の人間にまで手を貸すことができる組織など限られている。
佐久間の存在が明るみに出てから、それと長野達がつながっていると考えていたのはカナタだけではあるまい。
それでも実際に獅童とのやり取りを目にしていないハルカには思うところがあるのか、感染者となって再開した獅童を見る目は複雑なものとなっていた。
その指導はカナタ達の姿を認めると、やや間を開けて反応した。カナタを見る目が大きく見開かれる。
「ああ……あああ!も、もう嫌だ!人の……人の頭なんて!」
感染者ゆえか反応はややゆっくりとしたものだが、明らかにおびえている。さらに後ずさりをしながら気になる事を口にする。
「人の頭?獅童、頭がなんだってんだよ」
様子がおかしい事にいぶかしい顔をしながらカナタは獅童に声をかける。その手は刀の柄にかかっていて、すぐにでも抜けるような体勢でじりじりと間合いをつめる。
そんなカナタの言う事に答えることなく、獅童はおびえた様子で意味不明な事を口にするばかりだ。
「何か様子がおかしい、獅童隊長!仁科です。わかりますか?」
なおも後ずさりをするばかりの獅童にハルカも声をかけるが、結果は変わらない。ちらりとハルカの方を見はしたが、相変わらず要領を得ないことばかり口にしている。
「普通の感染者とも様子が違うし……佐久間の事だ、きっと普通じゃない事を試しているに違いない。気をつけろハルカ」
二人の知る姿とはあまりにかけ離れた反応を見せる獅童に警戒したままハルカに声をかけ、カナタはもう一歩踏み出してみた。
「嫌だ!やめてくれ!頭なんか食べたくない!もう勘弁してください!」
いっそ泣き出しそうな顔でカナタに向かって懇願する様子さえ見せている事に、二人の困惑は深まるばかりだ。ただ、その内容を想像すると寒気が走る。
きっと一部の感染者が共食いをして強化している事を佐久間も掴んでいるのだろう。だから普通の感染者を捕まえてきて頭だけを無理やり食べさせていたに違いない。
「敵ながら同情するわね……いくら強くするためだからって頭を食べさせるなんて……」
不快な顔を隠そうともしないでハルカが呟く。やはり想像してしまったのか、その顔色は悪い。共食いした感染者が強化することは喰代博士も掴んでいて、話を聞いたことがあったが、どうやら食べるのは頭だけでいいらしい。
「わかった……かつての同僚のよしみだ。苦しまないように終わらせてやる」
そう言ったカナタがすらりと抜刀する。薄暗い廊下に微かに入ってくる日の光を反射して、カナタの持つ桜花がキラリときらめいた。
「ああ!戦いか!待ちくたびれたぜ。さあ楽しく死合おうじゃないか」
抜刀したカナタを見た獅童は、一瞬たじろいだ様子を見せたが次の瞬間にはがらりと様子が変わっていた。それまではひどくおびえた様子の、おとなしいような印象をうけていたが、今の獅童はどちらかと言えば荒くれものの印象になっている。言葉遣いだけではなく、表情などの雰囲気も一変している。
「何、どういう事?」
あまりの雰囲気の変わりように、同じく抜刀しようとしたハルカが刀を抜く手を止めて獅童を見つめている。
「おいおい、どうした。ここまで来て何をためらってんだぁ?こねぇならこっちからいくぜぇ」
すっかり変わって、今では楽しそうに言った獅童が一瞬で間合いを詰めた。4~5mはあいていた距離が一息で詰められ慌ててハルカは抜刀した。
殴りかかった獅童の攻撃は油断なく構えていたカナタがふせいだが、状況がつかめずカナタもどうしていいか迷っているくらいだ。
そのために反撃をすることはできず、攻撃をふせがれた獅童はまた元の位置まで戻った。その顔には薄ら笑いが張り付いている。
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