20-12
№4の戦力を集めるだけ集めて事に当たっている松柴さんはそれだけこの戦いが重要であると判断しているのだろう。
ならば俺たちも気合を入れてやるしかない。カナタが気合を入れながら振り返ると、そこには仲間の姿がある。それぞれの顔を見るに、みんなカナタと同じ考えをもっているらしい。
「そこでなんですがぁ」
これほどの雰囲気でもマイペースな調子のハクレンが顔を見合わせるカナタ達に話しかける。
「気合を入れるのはよいのですがぁ、相手も待ち構えていると思います。佐久間は感染者を戦力とすることができますから、どこか袋小路に誘い込まれて感染者を山のようにけしかけられると、なかなかやばい状態になるでしょう」
ニコニコしながらなかなか恐ろしい事を言うハクレン。そしてその隣に並んだスイレンが話を続けた。
進行するルートがつぶされて限られているのがその証拠です。このまま道なりに進めば相手の思うつぼかと……」
スイレンたちの言っている事に頷く。
「でも、これまでほとんど分岐はなかったし、一度外に出てからほかのルートを探す?」
カナタがそう返すとスイレンは微笑んで上を指さした。
「この扉の先にも佐久間が用意した戦力が待ち構えているでしょう。カナタ様達は天井裏の点検口から上がっていただき、先の部屋に行ってください。ここは私とハクレンが囮になって相手の目を引きます」
スイレンはそう言い、ハクレンは上に行く階段をふさいである椅子を外して持ってくきて、天井にある四角の部分をドライバーでいじるとぱかっと開いて、そこには50cm四方くらいの穴があった。
「本来は配管とか配線とかのメンテナンスのためにある点検口です。ここをのぼっていけば先の部屋に行けます。どこに出るかまでは資料がないためわかりませんが、真正面から突っ込むよりも意表をつけるかと」
そうスイレンが説明してくれた。聞けばスイレン達は諜報活動などもやるらしく、こういった天井裏の配管や換気口などをよく利用するらしい。
「なるほど。でもそれならスイレンさん達も一緒にここから移動したほうがいいのでは?」
無理して待ち構えているところに突っ込まなくてもいいのでは、と思ったカナタがそう言うと、スイレンは首を振る。
「いえ、相手はルートを限定して待ち構えている以上、そこに誰も現れなければ警戒してしまいます。それならば誰かが正規ルートを進んで相手の目を引いているうちに天井裏から迂回したほうがいくらか相手の予定を崩せます。もちろん相手もすぐ気づくでしょう。それをなるべく相手に考えさせないように気を引く必要があるのです」
「なるほど、分かりました。」
スイレンの言う事は理解できる。それでなくても歪んだ扉をどうする事もできなくて進むことすらできなかったのだから、他に道があるならそっちから進んだ方がいいに決まっている。
しかもその歪んだ扉を少し調べて、スイレン達はなんとかできるそうだ。
「よいしょっと。換気用のダクトが使えそうですね。大きさも四つん這いで十分進めますし、ここは集中換気システムがあるみたいですので、各部屋に通じているでしょう。」
慣れているハクレンが先にあがり様子を見てきてそう言った。
こうして、スイレンたちが囮として正規ルートを進んで敵の目を引いて、カナタ達は天井裏から迂回して進むことになったのだ。
「意外と広いんだな」
ダクトに頭を突っ込んだカナタが感想をもらす。換気ダクトは思っていたよりも頑丈でカナタどころか、ダイゴでも入って行けそうな大きさだった。途中に中間ファンがあるが、今は動いていないし動いたとしても簡単に止めれるらしい。
モタモタしていると、せっかくスイレン達が囮を買ってでてくれた意味がないので、カナタを先頭にダクトの中を進んでいく。
「さすがに何人も乗れないか……二人ずつ進もう。どこに出るかわからないけど、どうせ佐久間がどこにいるか掴めていないんだ、下りたとこから探していくしかないか」
カナタがおそるおそるダクトの中を進みながら言うと、後ろから抑えた声で了解の返事があった。さすがに方向転換するほどの余裕はないので後ろに誰がいるか確認する事も難しい。
誰かがついてきているのは音でわかるので、とりあえず奥に向かって進むことにした。
「どこかの部屋には出るはずだ」
こういった建物の構造には詳しくないカナタは願望も込めて口に出してしまう。ダクトはアルミか鉄かわからないが金属でできている。カタンカタンと音を出しながらしばらく進むと中間ファンがあり、その先に分岐がある。
「こっちに行ってみるか。」
一応後ろの誰かに声をかけるつもりでそう言って分岐を左に曲がった。その時に笄を使ってダクトの壁面に傷をつけてこっちに行ったことを示す。
「……出口だ。部屋があるぞ」
分岐を曲がって数メートル先に明かりが見え、格子のふたがある。メンテナンスのためだろう、簡単に開くようになっている。
「よっと」
上から見る限り人も感染者も見えなかったが、なるべく音を立てないように部屋の中に降り立った。
滅茶苦茶狭かったわけでもないが、落ちないだろうかとか考えながらの四つん這いでの移動は意外と体に力が入っていたようで、無意識に背伸びをしていると、後ろから着いてきていた人物も降りてきた。
「ふう……」
カナタと同じ思いだったのだろう、背伸びをしているのはハルカだった。
「ハルカだったのか」
「何よ、私だと何か問題ある?」
なんとなく口をついた言葉を聞きとがめたハルカが口をとがらせる。
「いや、そういうわけじゃ……誰が来てるのかわかんなかったからさ」
何気なく行ってしまった言葉だったので、苦笑しながらそう言い訳をしていると、軽く鼻を鳴らしたハルカは早速部屋の様子を確認しだした。
カナタも苦笑いの表情のまま辺りを見回す。誰もいないことは確認して降りてきた。すぐ隣とかにもおそらく誰もいない事も音で判断している。
「ここは……誰かの私室みたいね」
部屋の端にベッドがあり、乱雑に物が散らばっている机と倒れたいす、私物を入れるための物だろうか、両開きの扉の着いた棚などが置いてある。
手分けして手早く机や棚などを調べたが、個人を特定するようなものはなく、研究員であろうという事しかわからない。
「役にたつ情報はないわね、佐久間がどこにいるのか早くつきとめないと、スイレンさん達の囮が無駄になっちゃう」
置いてあるものを手早く確認しながら、ハルカが呟く。
何かのデータやグラフがある資料などはあるが、それをみても二人とも何を表しているのかもわからない。カナタは少しだけ見ていた資料を机の上に戻し、ハルカの言葉に頷いた。
「そうだな、もし誰かいたら捕まえて佐久間の居場所を聞く事もできる。先に進むか」
そう言って顔を見合わせ、この部屋に一つだけあったドアのそばに立つ。そして耳をつけて音がしない事を確認するとそっと開けて顔を出した。そこには無機質な廊下があるだけで何も変わったところはない。廊下はすぐに左に折れているが、特に物音なども聞こえてこない。
「廊下だな、誰もいないし誰かがいる気配もない。行こう」
そう言うとドアを抜け、足音を忍ばせて廊下を進む。後ろでは音がしないようにドアを閉じたハルカがぴったりとついてくる。
カナタが廊下の角まで行って、そこから先を確認しようと顔を出したときだった。
音も気配も感じなかったのに、ゆらゆらと立っている人がいた。いや、元人間というべきか……なんとなく見たことがあるような気がする感染者の後ろ姿が見える。
カナタ達も気配を殺していたのだが、その感染者はまるでカナタ達が来たことをわかっているかのようにゆっくりと振り向いた。
「…………!?」
振り返った感染者を見てカナタは危うく声を出しそうになった。同時に既視感の理由も理解した。
「お前もか、獅童……」
うなるようにカナタが声を出す。そこに立っていたのは感染者となり、変わり果てた姿となった元六番隊隊長の獅童の姿があった。
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