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20-11

にこやかに手を振るハクレンの後ろからはゆずや伊織、ヒナタやスバルとダイゴの姿も見える。いくらか疲弊しているようだがとりあえず無事な様子にカナタはホッと息をついた。

しかし息をついた瞬間、予想だにしていなかった人物が姿を見せたことに思わず裏返った声を出してしまう。


「師匠!?」


「おじいちゃん!?」


ハルカも同じ気持ちだったようだ。きれいに声がかぶったが、当の本人はまるでいたずらが成功したような得意げな顔をしている。


「ふふー。援軍連れてきましたよ」


そしてもう一人、得意げな顔をしている人物、ハクレンが嬉しそうな顔でカナタとハルカに寄っていった。


「もう……すいません、カナタ様。うちの愚昧は何の相談もなしに戦列を離れたそうで……本来なら厳罰に処すべきところですが、状況も状況ですので落ち着くまで猶予をいただけないでしょうか?私が責任をもってハクレンから目を離さないようにしますので……」


そして最後に姿を見せて開口一番謝罪の言葉を言っているスイレン。


「もぅ~、何度も言っているじゃないですかぁ。伝えてる暇がなかったんですよぉ」


ハクレンはスイレンの言葉に頬を膨らませて不満の声を上げるが、それを人にらみでスイレンは黙らせる。


「たとえどんな理由があっても指揮をとっている方に黙って戦場を離れるという事は敵前逃亡と言われても言い訳はできませんよ。ハクレン、何度も言いますがあなたはそういう常識が……」


「あ、あのスイレンさん?うちの部隊はそんなかっちりした感じじゃないですし、一応スバル達に伝言はしてあったみたいなんで……」


ハクレンがこぼした不満の言葉に目の色を変えたスイレンがお説教を始めそうだったので、慌ててカナタは口を挟んだ。そんな細かい規則などないに等しい部隊であるのは本当の事だし、敵を前にして逃げたとは微塵も考えてなかった。カナタがそう伝えるとスイレンは大きなため息をついて言葉を収めた。


「おじいちゃん、どうしてここに?道場は?父さんや母さんは?」


カナタがスイレン達と話している頃、ハルカも質問攻めをしていた。ハルカの祖父であり、カナタやアマネをはじめヒナタや孫であるハルカも剣術を習った師。仁科剣術道場の師範、仁科晴信に対して……


「ほっほっほ。孫や弟子が頑張っとるからの、たまには顔を見ておこうと思ってな?ほれ、そちらのスイレンさんが使える龍さんとすっかり意気投合してな!」


「え、スイレンさん達と顔見知りなの?」


道場に引き籠っているものと思っていたハルカが驚いて声をあげた。仁科道場は四国の中央やや北らへんにある。東の№4、北の№3とちょうど境目くらいにあり、接点などあるとは思ってもいない。

そこにハクレンの話を終えたスイレンがやってきて詳しい話をしだす。


「私やハクレンは先祖代々伝わるやり方で鷹を使役しています。もちろん意思の疎通は簡単なものしかできませんが、手紙を託して連絡を取り合うことくらいはできるのです。ハクレンとは折に触れ連絡を交わしていました。そして今回の騒動の中心人物に迫るときには、受けた恩義を返すべく応援にはせ参じるつもりでハクレンには言い含めてあったのです。そして連絡をうけた我々は№3に向けて移動を開始し、その中間地点でハクレンと落ち合ったのですが偶然といいましょうか……それとも運命とでも言いましょうか、落ち合う場所は仁科道場の近くだったのです。」


「やたら強い女性がいると聞いてな。様子を見に言ったところ龍さんと気が合ってな、聞けばカナタの部隊の応援に行くっていうじゃろ。そんならわしもって感じで便乗してきたのよ」


スイレンの話をうけて晴信がここまでの話をしてかっかっかと笑った。


「いや、それにしたって……フットワーク軽すぎだろ師匠」


晴信は呆れた声を出すカナタと、呆れすぎて声も出ない孫の肩を両手でしばらく叩いていた。


「おう、そうじゃ。ほれ、ハルカ」


そう言って、まるでその辺で拾ってきた棒っ切れのようにハルカに細長い包みを投げ渡した。怪訝な顔でその包みを開けて中を見たハルカは信じられないと言った表情になった。


「おじいちゃん、これ……」


ハルカが若干震えながら包みを開いて中身をのぞかせる。


「おう、我が家に代々伝わる由緒正しき名刀じゃ。銘を晴香(はるか)という。」


「えっ……それって…………」


ハルカが口元を手で押さえて言葉をなくす。


「そなたと同じ名じゃ遥華。そなたの父がそう決めたと言ってきた時はどうしようか悩んだが、別の名にするよう言わなくてよかったわ」


そう言うと晴信はかっかっと笑った。


「へぇ、その刀もはるかっていうのか。なんかすごいな」


ハルカの手元の刀を覗き込みながらカナタが言った。この刀はカナタにとっても思い出深い刀である。何しろカナタが剣術の道に足を踏み入れた直接の原因なのだから。


「お兄ちゃんあの刀がかっこいい、一回触ってみたいとか言って道場に行くようになったんだもんね?」


ヒナタがなつかしそうに言っている。晴信が持ってきた刀は、それまで仁科道場の壁に掛けられ、道場生たちの稽古を見続けてきた。ヒナタの言うように、カナタはこの刀を見てかっこいいと思って道場に足を踏み入れたのである。


「結局何度お願いしても触らせてもくれなかったけどな」


カナタがそう言って口をとがらせると晴信はそれを見ておかしそうにまた笑った。


「かっかっか。今のカナタならいざ知らず、道場にきておった頃のお前さんがやすやすと振れるような代物ではないわい。先祖伝来の由緒ある名刀と言っておろうが」


晴信の言葉にカナタはがっくりと肩を落とすのだった。



「え、松柴さんも近くまで来ているんですか?」


それから少し離れたところでスイレンとカナタ、晴信が情報の共有を図っている。余計な事を勘繰られないよう交代で扉を開けようとしているふうにみせながら。


「ええ、松柴様も此度の№3の一件は重要視されています。ようやくまとまってきた都市同士の連携にも影響しますし、それぞれの都市が手分けして必要なものを作っているので、№3が離脱するような事にはならないようにと。大きな声では言えませんが№4からはほとんどの戦力がこっちに投入されています。佐久間の実験のせいか№3は感染者の数が異常で、まともな行動がとれないのです。なので№4の戦力もかき集めて感染者の掃討にかかられてます。」


そこまでの状況になっているとは思っていなかったカナタが軽くショックを受けていると、ある懸念が心に鎌首をもたげてきた。最悪の事を想像すると背筋が凍り付きそうになる。


「でも……№4の防衛は、非戦闘員も多いのに……」


非戦闘員、つまりは都市に残してきている花音の事だ。松柴さんやパン屋さん……シズクに頼んであったのだが、もし戦闘に巻き込まれるような事になったら……


そんなカナタの懸念を想定していたのか、スイレンはカナタに対して薄く微笑みながら付け加えた。


「ちなみに№4の守備隊はほとんどこちらに来ていますが、臨時の助っ人で仁科道場の人たちが№4の防衛と治安を買って出てくれています。ハルカ様のお父様は警察官でいらっしゃるんですね?みんなをよく統率しておいででしたよ?そして松柴代表の故郷の美浜集落の方も駆けつけてくださっています。戦うおじいちゃん達の姿はとても頼もしいものでした」


「あ、ああ……」


なんとも言えない感慨に包まれていた。これまでに縁のあった人たちが力を貸してくれているのを聞いて嬉しいし、とても頼もしくも感じる。


「龍先生も従軍鍛冶師として松柴代表と共に来られています。なので私も負けられないのです」


龍さんも前線に出てきているらしい。つまりこれは……


「総力戦だな……」


力を込めてカナタは呟いた。


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