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20-5

「ねえカナタ君。私に一つアイデアがある」


考え込むカナタにそう言ってきたのはゆずだった。


「ゆず、考えって?」


カナタがそう問い返すとゆずはすっと人差し指を立てる。


「その前に確認したい。まず私たちの侵入はもうばれてるとおもっていい?」


「え?ああ、うんそうだな。カメラで見られてたし入り口開けられたし。」


カナタがそう答えるとゆずは満足そうに頷いた。そして振り返るとダイゴになにやら聞いている様子だ。ダイゴは頷いている。


話はついたのか、ゆずが戻ってきた。


「カナタ君、ここは私とダイゴ君とスバル君に任せて先に進んでほしい。」


「まてまて、任せてって何体いると思ってるんだ?」


ゆずの言葉にカナタは難色をしめしている。何をする気か知らないがカナタとしては誰かを捨て駒にして進む気はまったくない。きちんとした考えを聞かないと承諾はしないつもりだ。


「ボディーガードはいりませんか?お嬢さん」


そこにヒナタが冗談めかして加わってきた。


「ヒナタ!ありがとう。じつはそう言ってくれると思っていた」


「そんなら声かけてよ~。私とゆずちゃんの仲じゃない」


ゆずがヒナタの言葉ににっこりと笑って答えた。この二人は仲がいいだけではない。何かする時にもぴったりと息を合わせて見せる。


「ん。声をかけようと思った。でもカナタ君と一緒にいたいかと思って遠慮した」


「あー。うん、でも今日は譲ってあげようとおもって……」


そこから二人は声を潜めて話し出して、カナタの方までは何を言っているか聞こえなくなった。ただ愉快な話なのかしきりに楽しそうにしている。ちょくちょくカナタを見るのが気になるが……


「決まった、カナタ君。私とヒナタ、ダイゴ君とスバル君にここは任せて。作戦としては……」


ゆずが示した作戦はこうだ。

まずダイゴが右の部屋の扉の部分に盾を押し付けるようにして、扉が外側に倒れないようにするとともに中にいる感染者が外に出られないようにする。スバルはその手伝いだ。

そうしているうちにゆずが左の部屋の入り口からアサルトライフルを連射する。弾丸は6番隊が持ってきてくれたそうで、余裕があるらしい。ヒナタはゆずの護衛だ。リロードの時なんかに隙ができるからな。


「話を聞く限り問題なさそうだけど……無理だけはするなよ?」


「うん、分かってる。」


「だいじょぶだいじょぶ。いざとなったらゆずちゃん担いでお兄ちゃんのほうに逃げてくるから」


ゆずはまじめな顔で、ヒナタは冗談とも本気ともつきかねる様子で言った。


「ダンゴさん残るんか。ほんならウチもこっち手伝おうかな」


両手を頭の上に組んで、伊織がそんなことを言いながらダイゴの隣に立った。これには詩織も目を丸くしている。これから佐久間のところに行こうというのに、足止めに加わるとは思っていなかった。


「佐久間をぶっ飛ばしたいのはやまやまやけどな、ボディーガードさんがここにおるからしゃあないやろ。」


それを聞いたゆずが慌てて何かを言おうとするのを、伊織が制した。


「ええねん。ここまで一緒に行動してきて、少なくともここにおる人たちの事は信用しとる。佐久間をぶっとばすのも詩織がやってくれる。まぁ、ここを片づけて間に合えば当然ウチもぶん殴りにいくけどな」


ニカッと笑いながら言う伊織の顔に無理している様子は見られない。


「それにな?ウチも女の子やし、守られたいねん」


体をくねくねさせながらそう言った。


「あ、あの伊織ちゃん。みんなと一緒に行ったほうが……多分ここは危険だし」


「ほーん。ほんならウチを守る言うのは嘘やったと。」


「そんなことない!本気で思ってる!でもここでの適任というか……」


「ほんならええやん、ダンゴさんが守ってくれるならどこでも同じや。そうやろ?」


「……ハイ」


とりあえずダイゴは伊織ちゃんとうまくいっても尻に敷かれそうだというのはわかった。


「姉さん……」


「ごめんな詩織。わがまま言うて。佐久間の事頼んでもいいか」


「うん。任せて。姉さん」


伊織と詩織がそんなことを話していると、カナタの服の裾がちょいちょいと引かれる。


そこにはにこやかに立つヒナタがいる。


「ねえ、お兄ちゃん。向こうの姉妹に負けてられないよ?私たち兄妹もなんかあるでしょ。ほら、なんかそれっぽいこと言って」


「お前……それっぽい事ってなんだよ。無茶ぶりもいいとこだろ」


苦笑いしながらカナタが言うと、ヒナタは頬をぷくっと膨らませてカナタを見つめている。大変ご不満の様子だ。


「いや、でも急に言われてもな……」


何を言っていいか思いつかずカナタが迷っているとヒナタはぽつりとこぼした。


「ふ~ん……お兄ちゃんは私が心配じゃないんだ。ここで死んじゃっても後悔はしないんだね」


そんな事を言い出したヒナタにカナタは慌てる。


「そんな事、心配してないって事あるわけないだろ?」


それを聞いたヒナタはニコッと笑う。ちなみにこの間、周りのみんなは微笑ましい顔で見ている。いつもの事だ。


「じゃ、ほら!なんかいい感じのこと言って。ほらぁ」


腕をぐいぐい引っ張られながらカナタは考えた。なんだこの寸劇は……と。周りには感染者がうようよいて、敵地に侵入している最中だというのにどうして俺たちは真剣さが持続しないんだろう、と。ともあれ、何か言わないとヒナタは満足しないだろう。

カナタとて心配がないわけじゃないし、怪我でもしたらどうしようという気持ちはある。ただ、それと同時にヒナタの腕前や共にいるゆず達の事を信用している事もあった。

その気持ちをさらっといい感じの言葉で伝えることができればいいのだが、カナタにはそのスキルが多分に不足している。そもそもそんなことがさらっとできるのであれば以前のようなすれ違いは起きていない。


しかもいきなり言われ、カナタの頭のCPUはフリーズしかけている。仕方なく勢いで言おうとヒナタに向き合う。


「ぴぃっ!」


勢いに任せたカナタは結局言葉にはできず、進退窮まり抱きしめるという行動に出た。そうくるとは思っていなかったヒナタは変な声を出して硬直してしまう。


「……とにかく、あれだ。絶対無事に戻ってこい」


そのあとなぜかゆずにも同じことを強要された。


「おまえら、何かつけてんのか?」


何気なく聞かれた事の意味がわからずきょとんとするヒナタとゆず。


「いや、なんか二人ともいい匂いするなって思ってさ」


別に深い意味などなく、ただ思ったことを言っただけだったが、そんなカナタに返ってきたのは、二人同時にスネにローキックというものだった。




「いてぇ……」


「ばか……」


憮然とした顔でスネをさすりながら階段をのぼるカナタに、隣を歩くハルカから辛辣な言葉が降ってくる。もっともクスクスと笑いながらではあるが。


ちなみに詩織や喰代博士にまで呆れたような目で見られて少し落ち込んでしまっていた。


読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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