19-16
スバルがいったん撤退するか聞いてきたが、カナタはそれに首を振った。
「撤退してもすっと追いかけてくるだろうし、もし近くに民間人がいたら面倒なことになる。どこか安全に逃げ込める場所があるなら撤退もありなんだろうけど……」
「それは勘弁してな!」
スバルとの会話にいきなり割り込んできた。
声の方を見ると、伊織がゆずが使うライフルを太く、ごつくしたような銃を抱えていた。
「いっくで~!」
そして大きい声でそう言うと引き金を引いた。
ドドドドドっ!
普段聞かないような重い音が響いて、当たった感染者はダンスを踊っているように弾かれて飛ばされた。
「姉さん!」
伊織に気付いた詩織が嬉しそうに声をあげる。それにちょっとだけ手を挙げて答えた伊織はまた別の感染者に向かって引き金を引いた。
「よかった。何とか間に合ったようだね」
そう言って息を弾ませながらやってきたのはゲートの守備をしていた隊長さんだった。その後ろには守備隊の制服をきた隊員たちが並んで立っている。
「私も目が覚めたよ。ぜひ君たちの手伝いをさせてくれ。ここは私たち№3の守備隊が受け持つ。あいつらもそれがいいだろう」
前半はりりしく言っていた隊長さんの言葉が後半は後悔がにじんでくるような雰囲気で言う。その視線は迫ってくる感染者のほうに向けられていた。
「彼らは№3の住民だし、中には守備隊だった者もいるようだ。ここは代表して私たちの部隊が引導を渡してやろうと思う。いいだろうか?」
「ダメなんて言えるわけないじゃないですか。でも……」
「気にしなくていい。ここに来る途中に手当たり次第に声をかけてきた。もうすぐしたらもっと集まるはずだ。」
親指を立てて隊長さんはそう言ってくれる。そしてマシンガンを撃ちまくっている伊織に大声で話しかけている。
「伊織ちゃん、もうそれの弾はないんだから大事に撃ってくれよ?」
その声が聞こえたのだろうか、ぴたりと撃つのをやめた。
「え、もうないん?」
「ないよ。まさか……」
隊長さんの言葉に少し焦った表情をする伊織。
「いや、全部は撃ってないで?ただ少しだけ撃ちすぎたかなぁって思っただけや」
そう言って弾倉の部分を隊長さんに見せる。すると目に見えて肩を落としてがっかりしている。
こっちからもちらっと見えたが弾丸が一列に並んで箱に収まっている。たしか分隊支援火器ってやつだ。まあ隊長さんの様子をみるに伊織ちゃんはだいぶ景気よく撃ったようだ。
「いや、まぁ……大丈夫だ。感染者の数が多かったからな、仕方ない」
まるで自分に言い聞かせるように言うと、ライフルを受け取っている。
「よし、うちの部隊が突撃をかける。君たちはそれに交じって一気に突破して先に進むんだ。できる限り支援はするよ。」
隊長さんは機関銃を掲げてそう言ってくれる。すでに№3の守備隊の人たちは武器を構え突撃体制に入っている。
「かなちん、タイミング外して迷惑かけんなよー」
汗と泥にまみれたアマネがそう言ってカナタの肩をたたいた。カナタを中心にこっちも突っ込む態勢だ。伊織ちゃん達は俺たちと一緒に行動するつもりのようで、二人並んでいる。
伊織ちゃんとダイゴが近い気がするのは気のせいだろうか……
「よし、突撃!!」
俺たちの準備が整ったのを見て、隊長さんが号令をかける。次の瞬間、地面が揺れたと錯覚するほどの雄たけびをあげて、№3守備隊の人たちが感染者の集団向かって突っ込んでいった。
「カナタ君たちはまだだ。まだ感染者がみっちり詰まっている、せめてもう少し乱したい。私が合図するから、そうしたら行ってくれ。感染者を倒そうとか思わなくていい。進路を阻むやつだけ排除すればいいから」
そう言うと隊長さんはニコッと笑いかけてくれる。しばらく様子を見ていた隊長さんは頃合いを見て、空に向かって一発拳銃を撃った。
するとゆずとおなじ支給小銃を持って待機していた集団が素早く前に出ると、膝立ちになってライフルを構えた。
そして感染者の集団に突撃していた部隊がさっと踵を返して戻ってきた。当然感染者がそれに向かって手を伸ばそうとするが、突撃組が戻ってくるのを援護するためにライフルが一斉に火を噴いた。
常に少人数で動いてきた俺達にはできない動きだし、なによりその迫力に圧倒されていた。
突撃組は、撤退するのを援護するためとわかっていても、自分たちのいる方向に銃口が並んでいて射撃をしているにもかかわらず、まったく躊躇うことなく走って戻ってきた。お互いに信頼していないとどこかで躊躇してしまうことだろう。
そして突撃組が元の位置に戻ると、ライフル部隊は射撃をやめ後ろに下がった。
そして突撃部隊の息が整う暇もなく再度突撃準備の号令がかかる。
「すごい迫力だなー」
カナタの隣でアマネが顔を輝かせて見ている。もし、突撃するのがきちんとした部隊じゃなかったら、一緒に加わって突撃して暴れたい。そう思っている顔だ。
そんなアマネに苦笑しながら感染者のほうを見ると、かなりの数の感染者がうち倒されている。まだ動いているのもたくさんいるが自力では動けないようだ。
「それに射撃も正確。味方がいる方向に撃つのはなかなかできない。かなりの訓練をつんでる」
アマネの逆側にはいつの間に来たのかゆずが射撃部隊に目を輝かせている。その様子を隊長さんが満足げに見ていた。
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