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19-14

タタタン タタタン タタタン


閑静な倉庫エリアに規則正しい銃声が鳴り響く。

ゆずが後方に向かって射撃している音だ。体感でもう1kmくらいは進んだだろうか、ここまでにそれなりの数の感染者と遭遇して戦闘になり、その戦闘音を聞きつけて近いところにいる感染者を集めてしまい、カナタたちの少し後を感染者の集団が追ってきている。


「二類感染者は全部倒した。残っているのは一類のみ!」


二類以降の感染者は運動能力が飛躍的に上がる。走ってきたり、想像もできない距離をジャンプしてきたりするのでそれっぽいのが追ってきているのを確認したら優先的にゆずと詩織が狙撃して倒している。その発砲音がまたさらに感染者を呼ぶが、ある程度は仕方ない。


ゆずがそう告げるのと同時にアマネとカナタが進行方向にいる感染者を切り倒した。今のところさっきの甲殻をまとった感染者とは遭遇していない。それほど数はいないのかなどと思いながら進むとようやく風景に変化が見えた。


「港だ……」


スバルが呟く。目の前に広がったのは、貨物船が着岸するための港だ。その先には当然海が広がっている。


そして佐久間がいると思われる倉庫はここから右に折れて2ブロックほど先だったはず。目的地が近づいたことで、少しだけ気が緩んだのかもしれない。


これまで慎重に進んで確認を怠らず進んできたのに、つい海に気を取られてしまったのだ。


ブオン!


カナタの頭の少し上を何かが横切った。あわてて姿勢を低くして周りを確認した時、右手の道路の先にこれまでの感染者とは少し雰囲気の違うものが立っている。


「なに?あれ……」


ヒナタがそれを見て絶句した。それはまるで人と昆虫を足して2で割ったような形をしている。人と同じような手足はある。だが、それに昆虫のような細い足が4本追加されてワサワサと蠢いている。頭部は人の面影はなく、きゅっと細くなって触角のようなものが額から伸びている。


それでサイズは人と同じ大きさなのだから忌避感が半端ない。


「あいつ、感染者を投げたぞ。とんでもない力だなー」


その声が聞こえる方を見ると、先ほどカナタの頭上を飛んで行ったものが道路の上でかくかくと動いていた。手も足も曲がってはいけない方向に曲がっている。落下の衝撃で折れてしまったようだ。


その様子を見て、視線を右手に戻すと昆虫のような感染者が、近くを歩いていた感染者を片手で持ち上げるのが見えた。


「全員建物の陰に隠れろ!また投げてくるぞ」


投げられる感染者もたまったものではないだろうが、こっちとしては誰かに当たったらケガでは済まない可能性が大いにある。


そして全員が隠れるとほぼ同時に感染者が飛んできてべちゃっ、ともばきっ、とも聞こえるような嫌な音を出した。


地面でもがいている感染者を何とも言えない顔で見ながら、先に動いたのはゆず。それから詩織だった。隠れていた建物の陰から身を躍らせると素早く照準、ライフルが火を噴く。相手との距離は100mもないくらいだ。

タタタンという音と同時に振動する感染者に、詩織が弓を引く。キリキリと滑車の音がしたかと思うとビシュッという音と共に飛び出した矢は吸い込まれるように感染者の胸に刺さった。


この同時攻撃に昆虫型の感染者もたたらを踏むように何歩か後退する。そしてその隙を見逃さずカナタ、アマネ、ヒナタの近接組が一気に距離を詰める。

ゆずと詩織の射線に入らないよう気を付けながら最初にたどり着いたのはヒナタ。


「はあっ!」


走ってきた勢いのまま、右手の脇差で斬り付け、同じ方向に左手の梅雪を振るう。そのまま半回転するように斬り付けるとさっと間合いを開けた。


「キイイッ!」


やや甲高い声とともに節足のようなものと人と同じ腕の二本が斬り飛ばされた。


「フッ!」


さらにそこにカナタが走りこんで、袈裟懸けに斬った。カナタの持つ桜花が閃いてヒナタが斬った逆側の肩口から脇腹に線を引いたような斬撃の後を残す。


「かなちん、借りるぞ。……おりゃー」


やや気の抜けた気合の声のアマネはカナタの肩を借り大きく跳躍。こちらは大胆にも眉間から斜め下に体重をかけて突き刺した。


「ギイイィッ!」


きしむような音を出しながらのけぞった感染者の額を踏んで、軽やかに宙返りしたアマネはカナタの隣に着地した。アマネの脇差は刺さったままである。


よく見てみると細く絞られたようになっている顔の口の部分は昆虫のように鋏状に変化していてそれがカチカチと音を出しながら開いたり閉じたりしている。

それはしばらく天を仰ぐような姿勢で止まっていたが、やがてゆっくりと仰向けに倒れた。


「かたーい」


納刀したヒナタが手を振りながらカナタのところにやってくる。カナタもそれに渋い顔で頷いた。切り裂くことはできたが、手に残る感触はまるで鎖帷子を斬ったような感触だった。もっとも鎖帷子を着込んだ人を斬ったことはないが……


「なー。一瞬刺さらないかと思ったけどな。中身はそうでもなかったけど」


後ろからは仲間たちが走ってくる足音が聞こえてくるが、三人の視線は倒れた感染者から離れなかった。固かったということもあるが、なによりもその変異の異常さに目を奪われてしまっていた。

倒れた感染者は手足を縮こまるようにたたんでいた。その姿はクモを連想させる。よく見ると手足の先も五指ではなくなってクモの足のように一本になっている。


もう動かないのを脇差を引き抜いたアマネが確認すると、追いついてきた喰代博士が子細に調べだす。その間に付近を警戒しながらカナタたちは息を整える。


「やはり、感染者で間違いないようです。名残があるので、二類感染者がさらに変異した物の可能性が高いと思います。」


そして喰代博士はそう結論づけた。それを虫が苦手なヒナタは両手で肩を抱きながら露骨に嫌な顔をしている。


「もー、なんで虫になるかなー。キモイ。怖い!」


「虫は生命力も強いし、大きさを考えると人間よりずっと頑丈。すごく厄介」


気持ち悪がるヒナタの隣で深刻そうにゆずが言う。考えてみれば自分の身長の数十倍高いところから落ちても平気で活動するし、虫たちから見て巨人である人間が叩いても即死はしなかったりする。


「口吻から粘液のようなものを出しています。酸……ではないようですが、おそらく有害なものだと思います。虫には毒をもつものも多いですから」


さらに続けられた喰代博士の言葉にヒナタはげんなりするのだった。


読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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