表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
173/309

19-13

それまで隠れていた海浜公園を出て港湾エリアに向かう。


途中で誰にも会うことなく港湾エリアの入り口までやってきた。入り口は横に開くようになっている頑丈そうな鉄の柵でしきってはあった。高さは1m程度しかないので少しは足止めできるだろうから、開けずに乗り越えていく。


柵を乗り越え、港湾エリア内に降り立つと風に乗って感染者たちの唸り声が聞こえてきた。たくさん立ち並んでいる倉庫などの建物に反響するのか、はっきりとした方向はわかりにくいが、かなりの数だというのはわかる。


「さっきも言ったけどなるべく戦闘は避ける方向で。ある程度は把握していると思うけど佐久間に正確なこっちの位置を伝えるのは避けたいからな」


カナタが正面を見たまま言うと、パラパラと返事が返ってくる。


港湾エリア内は区画がきちんと整理されている。船をつけて荷物を積み下ろしする場所があり、道路を挟んで向かいには似たような大きさの倉庫が碁盤の目みたいな区画に立ち並んでいる。カナタたちが入ってきた入り口は南側にあり、感染者たちが侵入してきている入り口は西側にある。佐久間がいると思われる倉庫は北の端にあるからどこかで感染者たちの波を潜り抜けないといけない。


カナタたちが入ってきた入り口はトラックなども出入りするようになっていて、かなり広い。道はまっすぐに伸びていて、道が縦横に何本も交わっているのがここからでも見てとれる。


全員が武器を構え。非戦闘員の喰代博士と弓や銃をメインウエポンとしているゆずと詩織ちゃんを中心にして、一塊になって進んだ。


「右は異常なし」


「左も誰もいないよ」


道が交差しているところを通るたびに慎重に周囲を確認しながら進んでいく。そうして何本かの交差している道をこえると、先頭を走っていたアマネが鋭い声をあげた。


「正面!感染者だ。数は3、こっちに気付いている」


その声に正面を見ると、確かに三体の感染者がこっちに向かってきているのが見える。そのうちの一体は走るタイプのようで、他の二体を引き離してみる見る間に距離を詰めてくる。


「後ろのほうが強い感じがするなー」


アマネがそう呟くと、目の前に迫った感染者の横っ面を鞘に納めたままの脇差で思いっきりひっぱたいた。


「ガアアッ!」


首が折れるんじゃないかという勢いで殴られた感染者がたたらを踏んで横に動いて脇をアマネが駆け抜けていった。


「そいつよろしくなー」


軽い感じで言うと、さっさと後ろの感染者のほうに行ってしまった。


「相変わらずだな~、アマネさん。集団行動に向いてないよね」


早速単独で動き出したアマネを見て、苦笑いしながらヒナタはアマネが殴った感染者が態勢を整えないうちに斬り付けて行動不能にした。


「ヒナタ、それ……」


さりげなくやっていたが、ヒナタが感染者を斬った動きはアマネがよく使う技に似ていた。


「あ、わかった?アマネさんに習ったの。お兄ちゃんだけ教えてもらうのずるいし」


「あ、そう……」


アマネが得意としている技で、左右から斬り付ける高速の二連撃。例えば左から切り払った後、間髪入れずに右から斬り返す。それを高速で行うことで、鋏で切られたように感じる。らしい……

アマネはこれを一本の刀でやるのだが、ヒナタは脇差と短刀の二刀流なので、再現は比較的簡単だったらしい。

そもそも一本の刀でハサミを再現するアマネがおかしいのである。


「おりゃ。っと」


そのアマネは後続の感染者の片方に斬りかかっているところで、気合が入っているんだかよくわからない掛け声を口にしている。


ガキン


「え?」


アマネのほうから硬質の音が聞こえてくる。思わずそちらを見ると斬りかかったアマネの斬撃が途中で止められている。

その間にもずっと走っているので、すぐに状況がわかる距離まで近づいた。


「嘘ー、アマネさんが斬れなかった?」


ヒナタが信じられないという感じで驚いている。すでのアマネは飛びのいて次の攻撃に備えている。カナタたちが近づいてきたのを確認するとアマネが言う。


「こいつら、なんか着てるなー。鉄よりは柔らかい感触だったけど斬れなかった。むかつくなー」


そう言いながらも滑るように間合いを詰めたアマネが、今度は胴を狙って斬り払おうとする。


ギャキリッ


アマネの斬撃を感染者は無防備に受ける。しかし刀は感染者の脇腹を斬れずに止まった。


「っのぉー」


その後、もう半歩踏み込んだアマネが気合の声をあげる。脇腹で止まった刀をそのまま力を入れて振りぬこうとしている。


「……っ、りゃあ!」


一瞬の後、アマネが感染者の胴を断ち切った。上半身と泣き別れになった感染者はべちゃっという音を出して地面に倒れた。感染体を斬っていないのでまだ動いているが、アマネが無造作に襟首をつかんで端のほうに放り投げた。


「こいつら、今までとは違うなー。やたら固いぞ。気を付けろ、かなちん」


そんなアマネの言葉を聞きながらも、すでに居合の態勢になっていたカナタは桜花を抜くと、残った感染者の首を狙って抜いた。


ヒュンという音をさせながら振るわれた刃は狙いを過たず、感染者の首のところを通過して再び鞘に収まった。


「固く……はない。こいつは違うのか?」


先ほどの様子を間近で見たため、いつもより気合を入れて斬った。が、たいした手応えも感じないで振りぬくことができた。ころりと頭部を落とした感染者は、そのまま糸が切れた操り人形のように倒れ伏した。


調べたところアマネが斬った相手は皮膚の表面がカニの表面のように変容していた。ごく表面は柔らかいがその下は固い殻のようになっていた。


「これも佐久間が何かして進化したってことか?」


感触を確かめながらカナタが言うと、横に来て様子を見ていた詩織が答えた。


「そうかもしれませんが、感染者も進化しますからね。それに佐久間が手を加えるならもっとえげつない進化の仕方をしているかなって思います」


「ああ、確かに」


詩織の言うことに納得してうなづく。佐久間はすでに自意識を残したまま感染者の力を取り入れた人間を少なくとも二体、少し中途半端な進化だった克也も入れると三体は作り出している。

そいつらと比べると進化の仕方が物足りないというか……


「でも、これが自前で進化したんなら、面倒だなー。」


アマネが少し憮然とした表情で言った。きっと一回で斬れなかった事が悔しかったんだろう。


もっと詳しく検分したいとこだが、いつまでもこうしていて感染者たちが集まってくるとまずい。とりあえず先を急ぐことにしてカナタたちは再び走り出した。

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

ブックマークや感想、誤字報告などは作者の励みになります。ページ下部にあります。よろしければ!

忌憚のない評価も大歓迎です。同じくページ下部の☆でどうぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ