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19-12

「……あそこが例の倉庫です。」


「あ、やっぱり?違うとよかったなあ……」


今は海浜公園の端のほう、元々は遊歩道だったらしいところで倉庫の方を窺っている。この元遊歩道、自然豊かな散歩コースと途中の看板にも書いてあった。

管理が行き届いていた頃はそうだったのだろう。いまはすっかり密林となっていた。おかげで見つからずに様子を見る事ができるのだが……


思っていたより大きな港があり、たくさんの倉庫らしき建物が軒を連ねていた。パッと見た時はこれだけの数から探すのは苦労しそうだなと思ったものだが、視線を動かすと、いや、ここだろ。と言いたくなるような光景が見えていた。

そして、その予想は裏切られる事なく、詩織の細い指は件の場所を指している。


そこには数えるのも嫌になるくらいの感染者がひしめいていた。


よく見ると港に車で入って行くためのゲートが開いていて、そこから次々と姿を現している。


「何か感染者を呼び寄せる方法があるんやな」


おとがいに手を当てて、伊織が真剣な顔をしてそう言った。


「…………」


「なんやジロジロと人の顔見て。」


それまでの真剣な顔を引っ込め、むすっとした顔になりそう言ってきた。


「ちなみになんでその結論に達したのか聞いても?」


「ああん?そんなもん、ちょっと考えたらわかるこっちゃ。あれ見てみい!感染者達は入ってくるばっかりで出て行く奴はおらんやろ?しかも別に呼び寄せるような物音も声も出してへん。ほんなら何かようわからんもんで引き寄せとんのはすぐにわかるやろ!」


意外としっかりした内容だった。どうして詩織にくらべると元気だが、あまり物事を考えるのは得意じゃないほうに見えてしまう。

そんな失礼なことを考えつつも、言っている事には同意する。感染者たちは物音や生きている人間を視認しないかぎり目的をもって移動したりしない。もしくはマザーとの共鳴の可能性もあるが、都市の中である。その可能性は除外していいだろう。


「どんすんの、あれ……」


 倉庫のほうを見ながら呆然としているスバル。ほかのみんなもほとんど同じ状態だ。


「どうにかして意識をそらして移動させるか……」


「いや、相手がどうやって集めてるのかわからん。それがわからんと危険やろ」と伊織。


「なら、どうにかして見つからないように目的の倉庫まで……」


「いや、ほとんどの道に感染者が詰まってるよ。特に目的の倉庫がある辺は密度がすごいことになってるよお兄ちゃん」とヒナタ。


 腕をくんで考えながら呟いた考えはことごとく否定されてしまう。


「こっちにもう少し戦力があれば、正面から当たって気を引いているうちに別動隊が……という手段もあると思いますが……」


 それをやるには戦力が不足している。ただ、このままにしておくわけにはいかない。

なにしろ倉庫エリアから海浜公園、そこから都市の内側の壁までは普通に移動できる。

なんなら俺たちも通って来たのだ。時間をかければ、あるいは誰かが感染者を引っ掛けていけば百体はくだらない感染者の群れは都市の内部に雪崩れ込む事だろう。


「都市の守備隊に連絡して出張ってもらう事は?」


カナタが伊織と詩織の方を見て訊ねると、二人は首を振る。


「守備隊の命令権限は佐久間が持っとる。むしろこっちに攻撃してくるのがオチや」


と、伊織は言うがNo.3全体のの危機と言ってもいい状況だ。そこは感染者が共通の敵と認識してほしいところなのだが……


「それに、私たちが通って来たゲート。あそこにもかなりの数の守備隊が配置されてましたので、これだけの感染者に対抗できる戦力は……」


二人の返事に思わず頭を抱えた。こちらの目的は佐久間のいるであろう倉庫に行ければいいのだが、No.3に住む住人の危機を無視してこっちの目的だけ果たすのは違う気がする。所属こそ違うがカナタ達も都市の守備隊なのだ。


「なら答えは一つだなー」


アマネが今も増え続けている感染者から目を離さないまま言った。


「ちなみに?」


ものすごく嫌な予感がしながらも、カナタが聞くとアマネはカナタの方を向いて、にっこりと笑うと言った。


「そんなもん、正面から攻め寄せて感染者の気を引いて数を減らしながら目的地に向かうに決まってんだろー。一石二鳥ってやつだなー」


当たり前だろ?と言わんばかりの顔でアマネは言う。カナタはその答えを聞いてさらに頭を抱えるのだった。



予想通りといえば、予想通りだったアマネのアイデアを実行する事はできない。

一石二鳥どころか、一石ゼロ鳥もあり得る。

悩むがこうしているうちにも感染者は次々と港湾エリアに入ってきている。


「よし!伊織ちゃんは外のゲートまで戻って、隊長さんに知らせてくれないか。申し訳ないけど後の判断は隊長さんに丸投げする」


 №3の住人も助けたい気持ちはあるが、現状カナタたちも侵入者の立場だ。あまり積極的に介入しずらい。ここは隊長さんにお任せしてしまおう。きっとうまく人員をやりくりしてくれるだろう。


「じゃあ、私たちは……」


 期待したような顔でアマネがカナタを見る。その様子に一つため息をついたカナタは残りのみんなを見渡すと言った。


「残りは……都市側からの入り口から侵入しよう。アマネ先輩の案に消極的賛成ということで。どうしても通れないときは排除していく。目的は該当の倉庫への侵入だということを忘れないようにしてな」


 その言葉を聞いてアマネが満足そうに頷いた。戦わないにこしたことはなのに……そう呟いたカナタの言葉は耳に入っていなさそうだった。


 


 

 

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