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19-11

結局克也はもう動くことは無かった。感染体に届けばいいなと思ってはなった斬撃が届くどころかすっかり切り裂いて首を飛ばしたのだから無理もないのだが。

ちなみにその後、運悪くアマネ先輩の近くに飛んで行った克也の頭部は先輩のフルスイングを受けることになり、コンクリートの壁にディープキスするはめになった。成仏しろよ。ヒナタにしたことを考えたらまったく同情心はわかんが。


警察署を出て、合流地点である海浜公園に向かっていると、途中で恐らく佐久間の手により感染した克也と遭遇、戦闘になったとゆずからインカムで連絡があった。その後都度都度やり取りをしながら急いでいると、とどめの一撃を頼むとだけ連絡があり一方的に切られてしまったのだ。それで慌てて海浜公園についた途端、交戦するヒナタ達が見えたからあわてて向かった。

それまでの経緯は断片的にではあるが聞いていたので、単純に決定力が不足していると判断したカナタは走りながら気を高めて、飛燕の訓練らしきものを思い出しながら放った一撃だったというわけである。


「だから完璧に会得しているわけじゃないんだよ」


「ふーん」


「意地悪で教えないんじゃなくて、うまく伝えきれないんだって!」


「つーん」


「ヒナタぁ」


背を向ける妹に必死に言い訳している兄の図がそこにはあった。


当然ながら他の者は仲裁などという野暮な事はしない。皆生暖かい目で見守っている。


「よかったなぁ」


そんな二人を見ながらダイゴが呟いた。


「ん?何がだ?」


聞こえたのだろう、スバルがダイゴに聞いてきた。


「いや、あの二人。ちょっと前ならあんなくだらないケンカなんかできなかったじゃない?お互いに距離をとってさぁ」


「ああ。確かに。変な遠慮しあってたもんな」


小学校からの付き合いであるスバルとダイゴは、カナタとヒナタがとても仲の良い兄妹であることは見てきている。でもいつのまにかお互いに距離を取り、不自然に遠慮しあう姿を見るようになりなんだか残念に思っていたのだ。


しかし、今の二人は昔のよう、いやもっと自然に仲良くなっているかもしれない。友人としてそれが無性にうれしいのだ。


結局、稽古に付き合う事とその折に美味しいものを食べに連れていく事で決着したようだ。カナタも困ったような顔をしながらもまんざらではない様子である。


「皆さん!」


カナタ達を見ながら和んでいると、喰代博士が呼ぶ声がした。克也と戦ったヒナタ組とここまで駆けどおしだったカナタ組もいったん小休止をとろうとなり、残っていた克也の胴体部分を喰代博士が調べていた。


「何か分かったんですか?」


駆け寄って一番に声をかけたのは詩織だ。自分の事を相談したり一緒に行動したりして大分打ち解けているようだ。


「この体、至る所に外科手術の後があります。これはただ人為的に感染させただけではなく……」


そこまで言うと喰代博士は少し言いよどんだ。これは珍しい事だ。感染者の研究の事になると外部からのブレーキ以外で止まることなど滅多にない。


「…………恐らくですが、この体には複数の感染者が詰め込まれるように……これは摂取したのではなく、無理やり外科手術的な方法で……」


つまり、克也の肉体は複数の感染者で構成されているが、それは感染した克也が食べるなりして取り込んだのではなく、手術かなにかで無理やり詰め込んだと……よくもまあ人間の体でそんな事ができるもんだ。胸糞悪い……


腹の奥から何かがせりあがってくるのをカナタは何とか抑え込んだ。他のみんなも顔色を悪くしながらも憤っているのが見ただけでわかる。


「恐らく彼は初期の実験体ではないかと思います。こうした実験を繰り返して、見た目は自然なまま感染者の力を振るえる者を作り出したと思います」


カナタ達の頭に夏芽と烏間の顔が浮かんだ。


「そいつもある意味哀れな奴だったかもなあ」


スバルがそう言うと、何かを考えるようにしていたヒナタが静かに首を振った。


「ううん、これは因果?だと思う。この人は他人がどうなろうと興味がない感じだった。その証拠に……」


今度はヒナタが何かを言い淀んだ。


「ヒナタ、いいんだ。お前は何も気にしなくて。辛い事を無理して思い出す必要は……」


カナタが慌ててヒナタの肩を抱いて、そう言うがヒナタはそれにも首を振った。


「いいのお兄ちゃん。私の胸の中だけにおいておけない事だし、彼はもういないし」


ヒナタは克也の残骸をチラリと見て話し始める。カナタを探し町へ行き、克也に会った事。そして克也の母親の勤めるところまで一緒に行ったこと。そして、そこで克也の母親とその同僚。生きている人を二人殺してしまった事。


「だからこれはきっと因果応報というやつなんだと思います」


ヒナタにしては厳しい意見だが、自分もまきこまれているだけになぁ。


「じゃあ、こんなバカげたことをやっている奴にも因果が回ってこないといかないなー」


わざと明るくアマネがそう言うと、いくらか元気な声でヒナタも同意する。

そんな事を話していると気の済むまで調べたのか喰代博士が戻ってきた。ただ、その表情は暗い。


「どうかしたんですか?博士」


さすがすぐに気づいたダイゴが心配そうに声をかけると、力のない笑みを浮かべた喰代博士は話し出した。


「悔しいけれど……佐久間という人は本物の天才です。私なんかよりずっと先に研究は進んでいます。」


きっと研究者ならではの分かる部分があったのだろう。


「もしかしたら彼を失うのは人類の損失になるかも……私などは足元にも」


「そんな事ないですよ」


喰代博士の言う事をバッサリぶった切ってそう言ったのはヒナタだ。


「私が思うに、佐久間って人はやっちゃいけない事をして先に進んだ人です。でも喰代博士はやっていい範囲で佐久間に追いすがっているすごい人です。この違いって大きいと思いません?」


カナタの隣に座ったままヒナタがそう言った。喰代博士はそれを聞いて唖然としていたが、数秒で復帰するとにっこりと笑った。


「そうね。そこを見失っちゃだめよね。うん、よおしがんばりますよぉ!」


元気になった喰代博士をカナタが微笑ましくみていると、まだヒナタの肩に手を回したままだった事に気づく。しかし、回した手の先をヒナタが掴んでいる。


「えーと」


カナタが何か言おうとする前に、ヒナタがコテンと頭を預けてきた。


「ねえ、お兄ちゃん。私いい事言った?えらい?」


「あっ?そ、そうだな。喰代博士元気になったしな。うんいい事言ったと思う。えらいぞヒナタ」


カナタがそう言うとヒナタは頭をグリグリと押し付けてくる。


「ふふー。それじゃあご褒美をもらわないといけないなあ」


ヒナタが言わんとする事がわかったカナタはため息をつく。そして肩に回した方とは逆の手でヒナタの頭を強めに撫でる。


「むふふー」


髪型が少し乱れるが、ヒナタがご満悦なのでいいんだろう。こうして遠慮なく甘えてくれるようになったのは純粋に嬉しいんだけど、周りの生暖かい目が……いまもそういう目で見守られている感じだ。あっ違うアマネ先輩は何か言おうと考えてる目だ。目を合わせないようにしよう。


そして、なかなか満足してくれない我が妹の頭をしばし撫でるカナタだった。

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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