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19-6

「んで……なんでここにいるのお前ら?」


ソファの方では建佑がダイゴを捕まえて質問攻めにしている。頑張れダイゴ。心の中で応援してそっとそこを離れたカナタはスバルにそう訊ねた。

元々二人は一番外のゲート付近で退路の確保をしていたはずだ。あまり大人数で潜入もよくないし、いざ脱出という時に退路を塞がれてしまったら万事休すだからだ。何といってもここは敵地なのだから。


もう一度大きく鼻をかんだスバルが答えた。


「ああ、白蓮さんがそうしたほうがいいって言うからさ。なんかゲートを守っているここの守備隊の隊長さんも手を貸してくれて、退路の確保は自分たちに任せろって言ってくれたしな」


どうやらあの隊長さんは腹を決めてくれたらしい。それは嬉しい事なのだが……


「で、その白蓮さんは?」


「なんか援軍呼びに行くって言って止める間もなく行っちゃったよ。」


それを聞いてカナタは訝しい顔になる。援軍をどこに呼びに行くつもりなんだろうか。№4は距離がありすぎるし、色々あって余力もない。白蓮の事をよく知っているから、逃げたとは思ってはいないが、釈然としない気持ちになる。


「きっと必要になるだろうから……っていってたぜ」


白蓮さんは何を想定しているんだろうか?どちらかと言えば少人数の潜入ミッションだと思うんだが……


「ともかく俺たちも一緒にいくぜ。せっかく機会を貰ったんだ。」


スバルはそう言って意気込んでいる。ダイゴは……聞くまでもないか。


「最大の懸念だった、伊織ちゃんのオヤジさんの安全は確認できた。ここの防衛は……」


そこで言葉を切ったカナタが村部の方を見る。村部はにっこりと笑ってただ頷いた。なんといっても警察官だし、法という後ろ盾をなくしてやりづらいはずなのに、それでも制服を脱がずに警察官でいる人たちだ。信頼していいだろう。


後顧の憂いなく佐久間の所に向かおう。そう言おうとした矢先だった。血相を変えた一人の警察官が部屋に飛び込んできた。

俺たちに対する時とは違う厳しい声でそれを叱責する村部さんへ謝るのもそこそこに、その警察官は報告しだした。


「海浜公園の手前のバイパス道路のゲートが何者かによって破壊された模様。現在大量の感染者がそこから都市内部に侵入していています。現場付近の居合わせた者達が市民の避難誘導をしていますが、とても全域をカバーするには人員も足りず現場は混乱の極致にあります。指示と采配をお願いします!」


その場を静寂が支配した。


「あいつ……やりおったな」


渋面をつくった建佑さんが低い声でそう言った。その隣に座っていた村部さんが勢い良く立ち上がる。


「手の空いている者は、至急現場に向かえ!あの付近は病院や銃器類の工場もある。一般人の避難誘導と重要な施設の確保だ、急げ!」


さすがに現役の警察署長といったところか。さきほどまでのにこにこしたおだやかな雰囲気は一変して、命令を出す人のそれになっている。


「儂らも手伝おう。ウチの若い衆に声をかけろ!火事場泥棒なんてふざけた事する奴は二つに畳んでゾンビ共に食わせてやりな!」


こちらは建佑さん。雷のような大音響で飛ばす指示は、若い衆とかでなくても背筋が伸びそうだ。報告しに来た警察官と先を争うようにして部屋を出て行ったのは建佑さんの子分みたいな人だ。


「儂がここに捕まってなかったら、もう少しまとまった人数が動かせたものを……」


本気で悔しがっている建佑さんを見ると、本当に義理人情に厚い親分さんということばがしっくりくる。


「おい、俺たちはどうするよ?」


声を落としてスバルが聞いてくる。……正直な所迷っていた。こうしている間にも都市に住んでいる一般の人たちが感染者に襲われているのかもしれない。感染者に襲われるという事は、襲われたほうも感染者として襲う方に加わるから被害は想像できないほど拡がる。


それならば、せめてどうにかして感染者の進行を遅らせるように動くか……いや、まずは一般市民の避難を助けた方が……


スバルに何の返事も返す事が出来ずに俯く。そんなカナタの背中を勢いよく叩いた者がいた。


「うっ……」


一瞬息が止まったカナタが振り向くと、建佑さんが立っている。


「おめえ、何て顔してんだ。お前らはさっさと佐久間をぶっちめてくるんだよ。壁を壊して感染者を引き込んだのが佐久間らの仕業だとしたら、そうしないといけねえ理由があるって事だ。時間稼ぎなんてケチな事させんじゃねえ。……こっちは儂らぁ大人に任せな。これから都市を支えていくおめえらで解決してくるんだ。ケツはいくらでももってやる。思うように暴れて来い!」


建佑さんはそう言うともう一度カナタの背中を張った。それのせいか次に顔を上げたカナタに迷いの表情は消えていた。


「行こう!」


余計な言葉は必要ないとばかりに、お互いの顔を見てそれだけ言うとカナタ達は動き出した。避難誘導に向かう警察官とは逆の方向に……





「これは……」


都市の外周部を進んでいたヒナタ達は唖然として一か所を見つめている。その視線の先では、強固に作ってあったはずの外壁が一人の人物によって壊されたからだ。

しかも、まるで待ち構えていたかのように空いた穴から感染者の集団が我先にと都市の内部に入って行く。


定時通信で藤堂元代表の無事が確認できたとカナタから連絡があり、安心した矢先の出来事だった。


「これは……どうする?私たちだけじゃあの勢いは止められない……」


ゆずが半ば呆然としながらも呟いた。この事態が都市にも伝わったのだろう。おそらく色んな人が無線で連絡を取り出したらしくインカムも混線してしまって使い物にならない。


「進みましょう!」


みんな呆然としているなか、毅然とした声を出したのは喰代博士だった。


「人には役割があります。私たちができるのはあれを止める事ではありません。」


そう言って、勢いよく侵入してくる感染者達を指さす。


「どちらにしても私たちじゃあの勢いを止める手段も力もありませんしね……」


詩織が喰代博士の言葉を引き取って続けた。その言葉に喰代博士も頷いている。


「あれだけの感染者が都市の内部に入ればたくさんの被害が出るでしょう。でもそこに私たちが行って焼け石に水をかけるより、元凶を叩くべきです。むしろそれができるのは私たちしかいません」


「む、確かに。それはそう……私のライフルもあの数を撃つだけの弾丸はないけど、元凶のしろくまを撃つには事足りる。」


「くすっ……しろくまじゃなくて佐久間だね、ゆずちゃん」


「そう、そのくま」


ゆずのあんまりな物言いに、思わずくすっと笑ってしまったヒナタはそのおかげで我に返る事が出来た。


「そうですね。あの感染者達は都市の皆さんに任せましょう。それより、自分が助かるためか目的を果たすためかは知りませんが、こんな事をする奴を私は許せそうもないです。なんでこんな事ができるのか……」


拳を握り締め、歯を食いしばったヒナタが低い声で言った。ヒナタからすればこんな事をすればたくさんの人の命が危険にさらされる。そんな事は分かり切っているのに実行できる思考回路が理解できないのだ。


「みなさん、あれを……」


そう言って詩織が指さした先は、立体駐車場だった。


「感染者が入ってくる穴の手前で、あの立体駐車場に登って……道路を挟んで向こう側にも似たような駐車場がありますから……」


「感染者を避けて通れる。という事ね」


今度は詩織の後を喰代博士が引き取って言った。


「ただ……あいつがそれを許してくれれば。だけど……」


最後にそう言ったゆずは確実にこっちを見ている筋骨隆々の男を見ていた。それは都市の外壁を破壊した男だった。




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