19-4
「くそ!どいつもこいつも!」
苛立ったように年かさの警官が伊織に向かった動いた。だが、それより素早くカナタが動く。こめかみに突き付けられている拳銃を掴むと軽くひねる。それだけで銃を持っている人は手首が極まってしまう。
拳銃を掴むときに撃鉄とシリンダーの間に指を入れるとさらに安全だ。撃鉄が弾丸を叩かない限り弾は出ない。
「近づきすぎなんだよ」
そう言って、手首が極まって動けない警官を軽く払って転がすと銃を奪い、年かさの警官に向ける。リボルバーに有効な手段だが、オートマチックでも一部には有効らしい。
そして相手の手の届かない距離で、間違いなく当てれる距離。これが正しい距離だとゆずに聞いていた。
「な!……なに……」
簡単に銃を奪い、自分に向けられ明らかに狼狽する警官。周りにいる若手の警官にも動揺が見られる。
「とりあえず銃を捨ててもらいましょうか。このおじさん撃たれてもいいなら別にいいですけど」
どうでもよさそうにカナタが言うと、さらに動揺している雰囲気が伝わる。しかし銃を下ろすまではいかない。
「な、何をしている!私が撃たれてもいいのか!早く銃を下ろせ!」
意外にも年かさの警官があっさり音をあげた。若手警官たちはお互いに顔を見合わせている。
「早くせんか!無能どもが。きさまらが……」
青筋を浮かべながら怒鳴ろうとしていた年かさの警官だったが、最後まで言い切る事はできなかった。
「そこは自分に構わず捕まえろ!だろー」
無表情のアマネがいつの間にか年かさの警官の背後に立っていて、すっと腕を首に絡ませた。
数秒である。あっという間にオチた警官をぽいっと転がす。
そして若手の警官のほうを向くと、どこかホッとした空気が広がっていた。
「敵はこのおっさんだけだったのかもなー」
そう言ってアマネはにっこり微笑んだ。
実際に、周りの警官はほとんどが経験がなく年かさの警官のいうままに動いていただけだった。自分たちがどういう立場にあるのかも聞かされていなかったらしい。
「とりあえず、中に入ってもいいかー」
どうしていいかわからなそうな警官たちにアマネが言ったが、警官たちはお互いの顔を見合わせるばかりで誰も何もおわない。
「俺たちは怪しい者ではないし、ここにいるのはこの都市の守備隊なんです。少し中を確認したいだけなんです」
見かねてカナタがそう付け加えるが、警官たちの対応は変わらない。ちらっとカナタはアマネを盗み見た。見かけはにこやかにしているが、あれはイライラしている顔だ。
間違いなくはっきりしない警官たちにイラついている。
「なんやねんあんたら!」
同じくイライラしたのか、伊織がそう言いながら一歩踏み出すと、警官たちは一斉に銃口を向けた。その表情からは不信感と脅えが窺える。
情けないが、この警官たちはカナタ達が怖いのだ。経験もなくこんなパニックに巻き込まれ、警官と言えど人の子だ。一般人から色んな感情をぶつけられすぎて恐ろしくなっていた。だから頼りなくても年かさの警官のような男に従っていた。
「むかつくなー、こいつら」
さすがに伊織が狙われている状況で迂闊に動きはしないが、苛立った口調でアマネは言った。刺激しないようにゆっくりとアマネに近寄ったカナタが顔を寄せる。
「どうします?この人達、ビビッてほんとに撃ちかねませんよ。」
「こうなったら達人よりタチ悪いなー」
カナタが言うと、アマネは警官たちを憎々し気に睨む。その視線を受けて足が震えだしている者もいる。
カナタは嘆息した。情けないが、きっとこれまでに色々あったのだろう。いまでも警官や自衛官などは無条件に助けを求められたり、なんで救助しないのかと詰め寄られたりするらしい。
そのため、№4ではさっさと制服を脱いで一般人としてふるまう人がほとんどだった。
ここの人たちがなんで制服を脱がないのかは分からない。何か制約があるのか、もしかしたら警官という誇りがあるのかもしれない。もしそうなら失笑ものではあるが……
「でもこの状況はよくないな」
カナタがそう独り言ちた時、警察署の玄関から一人の男が歩いてきた。警官の制服は着ていない。ぱっと見いかつい風貌をしているので刑事かもしれない。
カナタがそう考えていると、伊織がその男を見てぽかんとしていた。
そして大声で叫んだ。
「オヤジ!」
数分後、若手警官たちは銃をしまって端で縮こまっている。カナタ達は捕まっているはずの伊織のお父さん。つまり救出対象の藤堂元代表に誘われ、警察署のロビーでソファに座っている。
「ごめんなさいね。こんな時だから大したものなくて」
女性警官だろうか、私服だから分からないが女性がそう言って人数分のお茶を入れて持って来てくれた。
藤堂元代表、藤堂建佑は豪快に笑いながら手を上げて礼を言っている。その前に座る伊織は未だ状況についていけていないようだ。
「むすめが世話ぁかけたみたいですまねぇな。俺ぁ山城建設の藤堂建佑ってもんだ。元№3の代表ってやつでもある。まあ今は、あのくそったれな佐久間の野郎に好きにさせちまっているがな」
最後の方は苦虫を噛みつぶしたような顔になって建佑は言った。言葉や仕草は豪放磊落といった言葉がぴったりくるような人だ。
「ちょ、オヤジ何してんねん!」
ようやく伊織が再起動したようだ。テーブルを叩いて立ち上がると建佑に噛みつくような勢いで叫んでいる。
「何って、お前……ここに監禁されてんだろうが。見てわかるだろうがよ」
建佑がそう言うと、伊織はプルプルと震えながらテーブルに手を突いたまま俯いている。監禁?監禁って……と呟いている。どうもCPUかメモリが調子悪いようだ。またしばらくしたら再起動するだろう。
その建佑の隣にお茶を持ってきた女性と入れ替わるようにやってきた初老の男性がふわりと座った。
「やあ、心配してこんな所まで来てくれるなんていい娘さんじゃないか、おやっさん」
親し気に建佑に話しかけているが、時々鋭い視線をこちらに投げかけてくる。見た目は気の良さそうなおじさんだが、見た目通りではないようだ。
「おっと、失礼したね。わたしは当警察署長の村部という者だよ。おやっさんとは昔からの知り合いでね。佐久間代表はおやっさんを文字通り監禁するつもりで牢屋のあるここに連れて来たが、まさか知り合いがたくさんいるとは思ってもいなかったんだろうねぇ」
「どうも、№4の守備隊十一番隊の剣崎といいます。こっちは天音といいます」
カナタが形式ばって答えると村部はにこやかに楽にしていいよ、と言ってくれた。
「村部の旦那とはウチの会社が小さい頃からの付き合いでなぁ。なに、血気盛んな若い衆を雇ってると世話になる事が多くてなぁ」
「いやいや、こっちで持て余してる軽犯罪の常習をおやっさんの所で何人更生してもらったか。お互いさまってやつだねぇ」
そう言って二人は笑いあっている。どうやら佐久間は監禁するつもりでここに送り込んできたが、その先は藤堂元代表の味方ばかりだったという事みたいだ。ただ、表立って動くわけにはいかず、警察署内で機を見ていたという事らしい。
「ウチの、やった事はなんやったんや……」
伊織はがっくりきているが、結果はオーライだったんだ。立ち直ってもらいたい。
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