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19-2

さっきまでの閑散とした雰囲気とはすっかり変わり、だいぶ活気が感じられるようになってきた。

道の両脇には簡易的な販売所が設けられ、何かしらのやり取りをしている。人通りもさっきまでと比べると格段に多い。

そんな中を伊織を先頭にカナタ達は急ぎ足で進んでいた。


「見つかると厄介やから、守備隊っぽいの見つけたらサッと隠れるで!」


若干息を切らせながら伊織は振り向きもしないで言う。その目は進行方向と周囲の警戒に光らせている。


「まぁ、見つかったらその辺の路地裏に引き摺り込んでボコったらいいんじゃないかー?」


「また、先輩はそんな物騒な……悪い人じゃなかったらどうするんですか。」


「敵対してるんだぞー。いい人も悪い人もあるかー。……なあ、かなちん」


動きは止めないまま戯れる様に言い合っていたが、ふとアマネが真面目な顔になった。


「どうかしたんですか?」


それにつられてカナタも真面目に問い返す。普段は冗談が多く軽口を言い合っているが、意外と深く物事を考える人なのだという事をカナタは知っている。


「こっちのルートにかなちんを引き込んだのはそれなりの理由があってなー」


直進か迂回するかの組み分けの時の事を言っているのだろう。戦力的なバランスもとれていると感じたのであまり深く考えていなかったが、何か考えがあっての事だったらしい。


「こんな状況だからなー。かなちんにすこし技を伝授しとこうと思ってなー」


「技?」


訝し気な顔をするカナタにアマネは簡単に仁科道場で教えている剣術が古式流派である南方朱雀流という流派を元にしたものであること、アマネはそれを受け継いでおり当時道場に通っていた頃のカナタに基礎を叩きこんでいた事を話した。

カナタの脳裏にアマネから言われためちゃくちゃに思える鍛錬?の数々が思い起こされた。あれはアマネのお遊びではなくきちんとした鍛錬だったのか……


「こんな状況だし、かなちんは途中から道場にこなくなったからなー。やれそうな技に限られるがなー」


そう言われると、やはりきちんと通っていなかった事が悔やまれる。まさか世界がこんな事になるとは想像もできないしな……


「ただ、いいか?かなちん。朱雀流は古式流派で、その目的は相手を倒すことだ。スポーツとは違う。殺してもいいような相手以外に使ったらだめだぞー」


言い方はいつもの調子だが、その目と雰囲気は真剣そのものだった。そんなアマネはあまり見た事がない。それでも状況的に戦う術は一つでも多く知っておきたい。

カナタはごくりとつばを飲み込むと真剣な顔でうなづいた。

内輪な内容だったので、積極的に話に加わってこそこなかったが、伊織も興味がありそうな顔をしている。


急ぎ足で移動しながら、空き地のようなところに差し掛かった時、アマネが合図をしていったん止まった。うまい具合に周りに人の姿もない。


「いいかー、手取り足取り教える暇はないし、基礎的な事は昔教えたはずだからなー」


そう言いながらアマネが腰の脇差の鯉口を切った。

昔教えたはずということは、道場に通っていた頃の無茶ぶりのどれかが基礎的な鍛錬になっていたという事だろう。当時に思いを馳せながらもアマネの一挙手一投足を見逃さないようにじっと見つめる。


「これは朱雀流『飛燕』だ。」


そう言って構えた姿は居合。次に瞬間びゅおうと風を切った音と納刀した鍔鳴りの音がほぼ同時に聞こえた。


「え?」


「これが飛燕だ。居合の究極的なやつだなー。朱雀流は速さを重視した技が多いけど、これは特にそうだなー」


もう脇差から手を離し、腕組みして自分の言う事に納得したようにうんうんと頷いている。


「あの……アマネ先輩?」


「おう、どしたー」


「何も見えませんでした……」


「ウチもや。ほんまに抜いたん?」


「…………」


「…………」


「まじかー。ゆっくりとかできないしなー。うーんとなー……基本的には居合なんけどなー……」


それから一生懸命やり方を説明してくれたが、感覚的なものが多すぎてほとんどわからなかった……。分かったのは飛燕という技は居合の形で、早さもなぜか間合いも広くなり相手の先手をとって斬るという技らしい。どうやったら速くなるのか、どうやったら間合いが広くなるのか、肝心なその辺は分からなかったが……


「ともかく、道場に来てた頃の鍛錬にこの技に通じるものがあるからよく思い出して訓練しろー」


最後は面倒になったのか、そう言って説明すら放り投げてしまった。

道場に通っていた頃のアマネ先輩に言われてやった事……色々ありすぎるし、これは絶対遊びの延長だろというのもかなりあってどれがそうなのかわからない。


「追々思い出しますよ……」


そう言うしかなかった。


「え、ええか?ほんなら行くで?」


伊織はカナタがなかなか理解できない事に若干機嫌を損ねているアマネに気を使いながらそう言うのだった。



気を取り直して、人気がない所では駆け足で人の多い所では不審に思われない程度の急ぎ足で目的地へと向かう。

進むにつれ、いかにも廃墟という建物は減り、まばらだった人の姿も多くなっていく。

やがて目の前に、№4でも見かける仮囲いで区切った部分が見えてきた。どうやら最初に安全を確保した区域、つまり中心部に差し掛かろうとしていた。


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