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19-1 ラスダン

全員がゲートをくぐったのを確認して、通してくれた隊員に一言声をかけようとカナタが振り返った時だった。


ドゴオオォォン!


何か重い物を鉄製であるゲートに叩きつけた様な音。件の隊員は入り口から倒れているのが見えた。同時に怒号がゲートの外で聞こえる。


こもっていて聞き取りづらいが、進化したとかさせるなとか叫んでいる。


「進化したってのか……」


一類から二類に至る流れは解明されている。マザーに取り込まれ、嚢腫格から出てくると二類に進化している。

だが、二類から三類に進化する条件は解明されていない。ゲートの外ではそれが起きているのかもしれない。


聞こえてるくる怒号の中に隊長さんらしき声も混じっているのに気づいた。ただ、今は怒号より悲鳴が多くなっている。

思わず止めていた足をゲートのほうに一歩踏み出す。


「おいおい、かなちんよ。目的を履き違えたらいかんぜ?」


アマネの声にカナタの動きが止まる。半ば無意識に動いていたが、振り返ると苦い物を飲み下した後の様な顔をしたアマネがカナタをじっと見ていた。


「アマネ先輩……」


「ゲートを守るのはあの隊長さん達の使命だ。私達はちがうだろー?進化とやらも気になるが、博士も我慢してるのにかなちんが行ってどうする?」


そう言われて視線を動かすと、喰代博士も気にはなるようだが戻ろうとはしていない。


「……そうすね」


何かを振り切るようにカナタもゲートから離れるように歩き出す。

背後では戦いの音が熾烈になってきている。カナタは、いやおそらくはそこにいる全員が隊長さんらの無事を願いながら都市の内部へと、走り出した。



走り出してしばらく経つが、周りの雰囲気はあまり変わらない。復興が進んでいないのだ。外と変わらないくらい崩壊した建物の瓦礫が堆く積まれているし、付近に見える人は一様に汚れていて、疲れているのか俯いて歩いている。

余裕がないのかこちらを気にする者は一人もいない。


「まるで壁の外にいる人達みたい……」


同じ事を考えていたのかヒナタもそれらを見て呟いている。


壁で囲って都市ができてから、もうすぐ三年が経とうとしている。No.4では壁の中の復興はだいぶ進んでいるし、なんなら壁の外に人が住む区域を拡げていってる。

しかし、ここNo.3は内部の復興も進んでいないようだ。


「……都市ができて、すぐに佐久間が代表になったからな。あいつ武器の製造や感染者の研究にばかり予算つぎ込みよる。製造した武器を他の都市に売った利益は自分を支援する奴等にばら撒くしな。あいつにとって都市の中に住む人を助けようなんて考えはないんや。」


カナタとヒナタが周りを見ていると、先頭から伊織がそう言ってきた。カナタ達の位置からは見えないが悔しそうな顔をしているのだろう。声の感じだけでわかる。

 

「No.4を訪れた時は驚きました。復興具合もそうですが、市民の皆さんが会う人会う人挨拶してくれて……」


そう言う詩織の視線の先には、母親に抱かれた子供がいる。さっき道にいたのだが、近づいてくる俺たちを見るとギョッとして走って瓦礫の中に逃げ込んだのだ。そこに母親と住んでいるのか……

子供を抱きながらこちらを暗い目で睨む母親の周りには僅かだが身の回りの品と思える物が置いてある。


「ここでは、一部の人達と守備隊との間には敵愾心があります。無計画に都市に入れて生活が成り立たなかった人々が苦情を申し立てようものなら……それを排除するように命令されるのも守備隊なので」


そう言う詩織は泣きそうな顔になっている。どうやらここはNo.4とはだいぶ違う様だ。

今はいくらでも物資があるわけじゃない。都市で受け入れできる人数には限りがあるのだ。松柴さんはこうなる事を考慮していたのか、決して定員を超えて避難民を受け入れる事はしなかった。

どちらが正しいかは意見が分かれるだろう。


しかしこの現状をみると……

ここの避難民達も、安全は確保できているのに不満ばかりが先に立っているように感じる。


「まあ、そこらへんの事をどうするかっていうのも佐久間をどうにかしてからの話や。まずはあいつをどうにかせんと絶対ここは良くはならん!」


伊織がパン!と自分の手に拳を叩きつけた。


そんな光景を横目に見ながら薄暗い道を足早に進む。目指す港湾地区に行くためには市街地を真っ直ぐぬけるか、外周部を迂回するか、大きく分けると二通りある。

当然市街地を進む方が敵方に発見される可能性も高く危険度も高い。外周部を迂回するほうは危険性は低いが時間がかかる。


「どのみち二手に分かれるんだ、伊織班は市街地、詩織班は外周部を行こう。」


足早に歩きながらカナタがそう提案する。反対の声はでない。


「ほんなら、ウチはこっちや。誰が一緒に行くん?一人で行けっちゅうのはなしやで?」


茶化したように伊織が言う。表情からしてもいくらか余裕が戻ってきたように思える。


「私は戦えませんから外周部がいいですかね。足手纏いになるでしょうし」


喰代博士はそう言って詩織の後ろに並んだ。


「そだなー。少数精鋭がいいな。じゃあ私とかなちんもこっちだな」


「またそんな勝手に……まあいいですけど」


アマネがカナタを引っ張って伊織の隣に並んだ。


「そしたら私たちはこっちかな?ゆずちゃんも市街地だと戦いにくいしね」


残ったヒナタがゆずを連れて詩織のところに行く。これで班が二つ出来たわけだ。


「一応合流地点は、海浜公園にしておこう。大幅に時間がずれたり、万が一進む事ができない事態に陥ったらインカムで連絡する事。ゆずの持ってる親機は都市全体とまではいかないがかなりの距離で交信できる。ただ、万が一無線を傍受されるといけないから、通信は最低限で」


カナタがそう言って締めると、それぞれ無言でうなづいた。


「よし、じゃあ行くかー」


まるでピクニックでも行くような感じでアマネが言うので、若干拍子抜けしたが、二手に別れた一行はそれぞれの方角に向かって動き出した。

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