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18-10

ゲートから見えない裏手まで来るとカナタは足を止め振り返った。その横にアマネも並ぶ。


「あ~。けが人のふりも楽じゃないです。姉さん替わりません?」


「いやいや、けが人変わってたら気づかれるやろ、さすがに」


「それも含めて。面白そう」


詩織は伊織と二人笑いあう。


そして隊長が見ている事に気づくと、目の前まで来て頭を下げた。


「改めまして、藤堂詩織です。こっちが姉の藤堂伊織。藤堂元代表の娘です。騙そうとしてすみませんでした」


「あ、ああ。いや、それはいいが……なぜそれを離した。私はけが人だと信じて疑ってもいなかったぞ?」


隊長がそう言うと詩織はクスリと笑った。


「それは隊長さんが信じるに値する人物に見えたからです。そして上からの命令で苦心されている事も……これからお見せするのは、現代表佐久間がしたことの一部です」


「ウウガアア……」


「おとなしくしろって。かなちんそっちちゃんと抑えて!」


「やってますよ。とんでもないバカ力なんですって」


「きっ!君たち何を……」


詩織たちが話している間に、アマネとカナタは近くをうろついていた感染者を捕まえてきていた。


「おう、気にすんなー。もしもの時は瞬殺できるくらいの人間が揃っているからなー」


感染者に関節技をかけているアマネがそう言うと、あごで後ろを指した。


「ッッ!」


隊長に気づかせる事なく抜刀したヒナタと、バカでかいライフルを構えているゆずだった。すでにヒナタは感染者を間合いの中に置いているし、ゆずも照準をつけていた。


「君たちは……いったい……」


呆然としている隊長の脇を詩織は無防備に通り抜ける。まるで天気のいい午後に散歩に行くような雰囲気で……

しかしその先にいるのは、公園でもカフェでもなく感染者だ。


その両手両足は、カナタとアマネが抑えている。


「アアアァアァァ!」


唯一自由に動く頭だけでも噛みつこうと口を動かしている感染者に近づいた詩織は、その口にそっと手を近づける。


「なっ!止めないか、君っ!」


慌ててそれを止めようとするが、遅かった。詩織の手は感染者の口に中にある。


「ああ……なんて事を…………なんのためにそんな事を!」


隊長はその場に崩れ落ちると両こぶしで地面をたたいた。その様子からこれまでも何度も感染者によって悲しい思いをしてきたのだろう。そう思えた。


「隊長さん?」


そんな隊長に詩織は優しく声をかけた。その声に恐る恐る顔を上げた隊長は驚きのあまり目を瞠った。

感染者の口に手を入れながらも平然として立っている詩織と、噛もうとしない感染者と。どちらも隊長が持っている感染者の常識からは信じられない事だった。


「君は、一体……何者なんだ…………」


隊長は立ち上がる事も忘れたように、詩織を見上げることしかできなかった。




「私はいわば半感染者なのです。私はマザーに感染させられ、そこにいる喰代博士のおかげで発症を免れこうして生きています。」


詩織は喰代博士が開発した試薬には触れずに、自分の状況について話した。


「私は偶然の産物ですが、佐久間はこれと同じことを人為的にやろうとしています。すでに実験台として多数の一般の人が犠牲になっているようです。そして身勝手な理由で最近は子供をさらって実験に使っています。」


そして話は佐久間の狂気じみた研究に及んだ。


「そんな……とても、信じられない」


隊長は頭を抱えて地面にうずくまってしまった。


「……無理もないですよね。いままで従ってきたトップが自分が守るべき者を積極的に害していたんですから」


ヒナタはカナタの隣まで歩いて行くと、悲しそうな顔で隊長を見つめてそう言った。カナタは何も言わずに妹の頭を撫でている。


アマネはというと、感染者にあらゆる関節技をかけていた。じつはさっきカナタが言ってしまった一言が原因だ。詩織の話を聞いて、感染者を捕まえてきて暴れないように抑えたとこまでは良かったのだが、関節技を掛けたアマネに、「無駄な事やってないで真面目にやってくださいよ」と言われ、ムキになり、詩織の用事が済んだ後も関節を極めまくっていた。

実際の所、感染者に関節技は意味がない。人間が開いてであれば関節を極めれば、それ以上動かない関節と痛みで動きが制限されてしまうが、痛みを感じない上に自分が傷つくことを考慮しない感染者には無効なのだ。なにしろ関節を極めればみずから関節を外してでも動くだろうし、痛みで行動を止める事がそもそもない。


きっとそれはアマネも分かっているはずなのだが、ムキになって結局体を動かすほとんどの関節を破壊してしまった。


「かなちんかなちん!関節全部壊してしまえば効果あるぜ。関節技!」


「もうそれ関節技とは言わないですから!別の何か超必殺技的なやつでしょうよ。もう……」


それで満足したのか、アマネは延髄を破壊すると感染者を転がした。哀れな感染者はようやく解放されたのである。


そんなやりとりをしていると、うずくまる隊長のそばに詩織がゆっくりと歩いて行った。


「隊長さん?私たちの事を100%信じろなんて言わないです。一緒に戦えともいいません。ただ、ゲートを通してくださったら、後はこちらで……」


そこまで詩織が言うと、隊長は肩から無線機を外し、ゲートにいるであろう部下に詩織たちをこっそり通してやるよう指示をしてくれた。


「隊長さんありがとうございます!これが正しいかどうかは……今後証明されていくでしょう。今はすみませんが……」


詩織はそう声をかけるとゲートの方に歩き出した。


「なあ隊長はん。あんたはウチの知ってる人の中でもトップクラスに信用できそうな人や。もしウチ等のやる事が成ったら№3は必死に立て直さんといかんやろう。そんな時にな、隊長さんみたいな優秀な人が必要なんや。信じとるで。ウチ等のやる事が成る頃には立ち直って手伝ってくれるって」


そう言うと伊織はポンと隊長の肩を叩くと詩織の後を追った。


ほかのみんなもそれに続いて歩いて行った。どれくらい経ったか……伊織が叩いた肩に、その上から包むように自分の手を置く隊長の姿があった…………。



「隊長から聞いています。こちらへ……」


ゲートまで戻るとすぐに一人の隊員が近づいてきた。隊長の後ろで銃を構えていた隊員だ。その後に続くと、倉庫のような部屋に入る。

いろんな物資や武器弾薬がきちんと整理されて置いてあるそこは紛れもなく倉庫だった。ただ、出入口が都市の外からと、都市の中らの二つあった。


都市側のドアをそっと開けるとそこは古い街並みの路地裏に出た。全員がそこを出てドアが閉まる寸前まで、案内した隊員は敬礼を解くことは無かった。



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