18-5
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「お前キザさんのふりをしてどういうつもりだ?」
アマネがはっきりと殺気を出して一歩踏み出した。後ろにいた詩織が圧に押されたように何歩か後ずさりするほどの濃密な殺気だ。
「まさか感染している者を感知できる者がいるとはな。想定外だったが良い話を聞いた。娘、喜べお前はきっと殺されないだろう」
さっきまでとは打って変わって老獪な雰囲気をだした階の形をしてものはそう言って薄く笑った。アマネの殺気にもまったく動じることは無い。
「本物のキザさんはどうした」
アマネが言いながらさらに一歩踏み込む。もうすぐ一足一刀の間合いに入る。
「まさか……本当に偽物だってのかよ。」
未だ完全には信じ切れていない様子のカナタだが、抜刀して詩織をかばうように前に出た。
「今少し遊んでから一人づつ寝首でもかいてやろうと思っていたが……まさか見抜かれるとはな。夏芽とやり合う時も元の記憶を頼りにそれっぽくやって見せたというのに。まあいい。遊びはここまでというわけだ。」
そう言うと階の形をした者は、その形を変え始めた。筋肉が膨張したかとおもったら移動するように波打ち、次第にその様相を変えていく。
やがて動きが収まった時、そこにいるのは階とは似ても似つかない男だった。白髪の老人と言っていい年齢に見える。
「お前……佐久間の所で見たことあるぞ!そうや、烏間とかいうやつやないか。いや、そいつは車いすでしか動けなかったはずや……」
伊織がそう叫ぶと男は愉快そうに笑った。
「ほう……よく覚えていたな。その通りだ、佐久間の研究の成果でゾンビ共の能力を身に着けただけではなく、二度と動かぬはずの両足も、このとおり元より快調に動くようになったわ。元の宿主の姿に化ける事ができるようになったのはおまけだったがな。存外に楽しかったから良いとしよう」
不敵に笑いながら烏間という男は言った。
「そんな御託はどうでもいい。元の宿主だと?キザさんはどうした。言わないならまた車いすに戻してやる。その後は寸刻みにするがなー」
口調はあまり変わらないが、濃密な殺気をまとったままアマネはさらに近づいた。もう間合いの中に入っているだろう。
「そう急くな。若いもんはせっかちでいかんな。さっきの体の持ち主か……教えてやっても良いが……ただというわけにはいかんな」
烏間がそう言った瞬間、アマネが斬りかかった。無言で鋭く踏み込むと逆袈裟に切り上げる。
「ほう……前の私なら死んでいたな」
烏間は半歩だけ下がってその攻撃を避けた。完全に見きっている。カナタの位置からは完全に斬ったと見えたほどだ。
しかしアマネは動じることなく斬り降ろして、薙ぎ、斬り上げてまた斬り降ろしと連撃を入れる。
しかし、烏間は大きく動くことなく最低限の体裁きでことごとくそれを躱した。最後の斬り降ろしの後、アマネも大きく後ろに跳んで気を入れる。
「かなちん、合わせてくれるかー。あいつのニヤニヤした顔がすげーむかつく。キザさんの事も吐かせないといけないしなー。半ご……いや八割殺しで」
「それって結構虫の息ですよね」
「だいじょーぶ。きっとそんくらいではあいつは死なない。」
話しながらカナタはアマネの隣に並んだ。後ろではスバル達やヒナタも武器を構えているが、手を出しかねている。それくらいアマネの攻撃は鋭い。
正直な所、そんなアマネの斬撃に合わせきれるかカナタも自信がないのだが、指名されてしまったしカナタも階の事は気になる。
「いつでもどうぞ。合わせきれなくても怒らないでくださいよ?」
「何言ってる。足を引っ張ったらお仕置きにきまってんだろー」
そう言うとアマネが構える。
「えー、それは嫌だな~」
カナタも苦笑いしながらそれに並ぶ。
対する烏間は、武器を持つこともなく相変わらずニヤニヤしながらこちらを見ている。
「いく」
その声すら置き去りにしてアマネが斬りかかる。
左からの切り払い。構えと動きからそう判断したカナタは、アマネと交錯するように動き、逆から斬り降ろす。
左右から挟まれるような連撃に烏間は想像を超えた防御をした。
迫る刃に自分の腕で受けるように両手を動かしたのだ。
腕に何か仕込んでいるのか?咄嗟に思ったが、もう止められない。それならばと、より勢いをつける。アマネも同じ考えだったのか、先にアマネの斬撃が烏間の腕に当たると肘の少し先から両断した。
カナタの斬りこみは、腕の中ほどで止まっている。当たった瞬間硬質な感じがあったから、何か着こんでいるんだろう。それのせいもあって骨を断つことができなかった。
刃を引いて少しでも傷を大きくするように動いて間合いを取る。すでにアマネが飛び退いていたからだ。
「さすがっすね、アマネ先輩。何か防具着けてたっぽいですが、それごと真っ二つなんて。俺なんて半分しか斬れませんでした」
「あんなもんは朱雀流の刃の前には役にたたんからなー」
「…………朱雀流?」
きょとんとしてカナタは問い返した。聞いたことのない言葉だったからだ。
「ああ、そっか。かなちんは知らないかー。あとで教えてやるから、今は働け」
そう言うと再び烏間との間合いを詰める、が烏間の様子がおかしい。
「ガアアア、くそ……まだ定着しとらんということか……グアッ!」
想像はしていたが、アマネの時と同じように腕を斬られたくらいは再生できるようだ。しかし腕の形がおかしいのと、烏間は脂汗を浮かべて苦痛の表情を浮かべている。様子を見ていると。斬られた腕から化け物のような腕が出てくると同時に肩の部分から烏間のものより倍以上太い腕が飛び出した。それにより、烏間の頭部が押されるように傾く。
「くあっ!ガハッ!」
苦悶の表情を浮かべた烏間が激しく吐血する。どうやら感染者の力を移植するという事は、完全に成功しているわけではなさそうだ。
予期せず自らの体から生えてきた腕のせいで、これまでの余裕の表情もなくなっていた。
「くふっ……これから楽しくなるというに……まだ飼いならせていないようだ。ここは退かせてもらおうか、再会を楽しみにしておるぞ」
口の端から結構な量の血を垂れ流しながら、勝手な事を言い始めた。
「そう好きにさせるかよ」
どうやって逃げるつもりか知らんが、満身創痍の今なら……とっさにそう思ったカナタが一気に間合いを詰め、下半身を薙ぐように斬りかかった。逃がさないようにするつもりだったが、下に意識が行き過ぎてしまっていた。
「かなちん!」
あまり聞いたことのないアマネ先輩の焦った声に、カナタの頭が冷える。そして現状に気づいた。
……烏間の生えた腕が狙っていた事に。こぶしを握り、カナタを叩き潰さんと振り下ろそうとしていた。肉薄していたカナタには、筋肉がありえないほど膨張しているのも見て取れた。
「まずいっ!」
自分が危険な位置にいる事に気づいて慌てて避けようとするが、踏み込みすぎている。
背後に気配。軽い足音と踏み切る音。飛び込んできたアマネが援護するようにカナタを狙う腕に斬りかかったが、肩から生えた方がそれを受ける。
それでも、わずかに隙はできた。カナタは斬ろうと振った刀からも手を離して、力一杯後ろに跳んだ。急激な方向転換にあちこちの筋肉や関節が悲鳴を上げるが、のしいかのようになるよりはましだろう。
すぐに拳がカナタの居た所に振り下ろされる。足を開いてそれを躱すと、しばしの浮遊感ののち受け身も取る事が出来ずにしたたかに背中から落下した。
「かはっ、ごほっごほっ!」
肺の空気が一気に押し出されて、咳き込むのを止められない。
くっ、追撃がくる。早く呼吸を……
しかし激しく酸素を求める体は、息を吸いたいのに咳き込んで吸わせてくれない。
「かなちん!」
咳き込むカナタの背中に暖かい手が添えられ、優しくなでられるのを感じた。
「落ち着いて息をするんだ、かなちん。大丈夫あいつはもういない」
明滅する視界の中で、それを聞いたカナタは思わず歯噛みした。自分の迂闊な行動のせいであいつを逃がしてしまった……。
悔しさに思わず息を止めそうになるが、背中に感じるアマネ先輩の手がそれを解きほぐしてくれた。
「すいません、アマ、ネ先輩。俺の、せい……で…………」
それだけ言うのが精いっぱいだった。急速にカナタの意識は闇の中に沈んでいった。
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