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18-3

ガキィ!


まるで自動車事故でも起きたかのような音がした。あの勢いでやられると痛みもないのか。と、のんきに考えていたアマネだったが、しばらくたっておかしい事に気づいた。

痛みはともかく衝撃もないのはおかしい。


知らないうちに閉じていた目を意識してこじ開けるとそこにはまたしても信じられない事が起きていた。


肥大化した夏芽の腕を受け止めている者がいた。長い黒髪に伊織と同じようなひらひら成分多めの洋服。見た事のあるそれを思い出さないうちに聞き覚えのある声までする。


「大丈夫か、詩織ちゃん!」


右腕を掴まれ、動きが止まっている夏芽に斬りかかる影。


「はあっ!」


気合一閃。走り込んできた体勢のまま居合の形にもっていき、抜いた刀の残光は夏芽の首を通過している。


しばしの残心の後、血ぶりして納刀すると同時にごとりと音を立てて夏芽の首が地面に落ちた。その目は驚きに見開かれていた。




「もう、びっくりしましたよ!急に何かを叫んで詩織ちゃんが走るからあわてて追いかけてきたら、バカでかい腕の化け物と先輩たちが戦ってるんですもん。」


汗を拭きながらカナタはそう捲し立てた。あのあとスバルとダイゴも追いついて来て、今はアマネと階の応急処置をしている。

№1から強行軍で№3を目指していたカナタ達一行は、もうすぐ№3の都市に着くという時に、詩織ちゃんが何かを感じ道を逸れて走り出した。

そのままにしておくわけにもいかず、追いかけていると右腕だけバカでかい女の子の姿をした化け物と、その腕を抱えて止めている詩織ちゃんの姿があった。さらに詩織ちゃんの後ろには傷だらけの先輩たちの姿が……


一瞬ででかい腕の方を敵と判断したカナタは傷だらけの先輩たちを見て、詩織ちゃんが腕を掴んでいる今しかないと判断し全身全霊の力を込めて得意の居合を放ったという訳である。


わけもわからないまま夢中で飛び出した詩織は、無言で首だけになった夏芽を見つめている。何か気になったのかアマネも隣に立ち、横たわっている夏芽を見ながらぽつぽつと話をしているようだ。


「知り合いかい?」


やがて、すこし深刻な顔をしたアマネがそばを離れた。だが詩織はその場を動こうとはしないので、近寄ってそっとカナタが語り掛ける。しばらく何か考えていたが、こくりと頷いた。


「この子は夏芽っていう子で、苗字は知りません。佐久間の部下みたいな感じの人です。でもあんな姿になってるなんて……」


父親の藤堂元代表が追い落とされて、佐久間が実権をふるうようになってしばらくした時から見かけるようになったらしい。佐久間はおろかその周りの誰とも仲が良くなさそうだったので話しかけてみた事があるそうだ。


「この子が誰とも仲良くしないのは誰も何も興味がなかったからなんです。どうしてそんな悲しい事になったのかわかりませんが……」


敵方とはいえ、顔見知りが目の前で命を落とした事がショックだったのだろうか。しばらく詩織はそこから動かなかった。


「はは、かなちん!やるようになったなー。あいつの首を一撃で落とすなんて!お姉さんびっくりだー」


応急処置を終えたアマネが嬉しそうにカナタの背中をバンバンと叩いている。


「ちょ!いたあ!ほんとに重症ですか?……詩織ちゃんがあいつの腕を抱えていて動けなかったのと、この刀の切れ味が良かったおかげっすよ。刃が食い込んだ時の感触は中まで詰まったトラックのタイヤみたいでしたもん。自由に動けたら斬る前に外されてました」


悔しそうにカナタはそう言った。あの感触は一生忘れられそうもありません。とも……


それからお互いの状況の情報交換をしてすぐに移動することにした。ヒナタ達が先行しているとの事だったからだ。準備しながら先輩たちが一人に圧倒されていた事と夏芽という少女に非常識な強さを聞いた時は冷や汗が止まらなかった。

あの瞬間、躊躇しないで斬りに行ってよかったと本気で安堵したものだ。


しかし……


「どうなってんだこりゃー」


アマネ先輩が呆然としている。そんな先輩の姿を見る事は珍しいと言うか初めてだ。その視線のさきには血だまりがあった。そこには夏芽と詩織ちゃんが言っていた女の子が死んでいたはずだ。それが少し情報の共有と休憩をして戻ってきたら遺体が消えている。

カナタは自分の手を見た。ギリギリではあったが確かに首を飛ばしたはずだ、それは間違いない。

仮に夏芽が感染者であったとしても弱点の部分を切り裂いているのだ、動くはずがない。


「なら、誰かが回収していった?」


それに答える者は誰もいなかった。なにもかも訳がわからなすぎる。


ただ、階がぽつりとつぶやいた。


「これは仮説にすぎないけど、彼女……いわゆる非検体なんじゃないかしら。ほら、佐久間って男研究してたんでしょ?感染者の力と不死性を持った人間……彼女はそれに当てはまるわ。そして最悪の場合、自分で帰ったのかもしれないわね」


難しい顔をしながらそう言った階は、その後考え込むように自分の世界に入った。そしてカナタは想像していた。

首を落とされた死体。カナタ達が離れた所でワイワイと騒いでいるなか、ピクリと動く指……しだいに体全体が動き出し、自分の頭を拾い上げるとフラフラと去っていく……かなりホラーである。夜中でなくとも見たら悲鳴を上げる自信がある。

周りを見ると、考え込む階以外全員が真っ青な表情をしている。


「はい!やめやめ。誰かが回収したにきまってんじゃん。きっと研究材料かなんかで貴重だったんだよ、こそっと持ち帰るくらいには!」


パンパンと手を叩いてスバルがそう言った。たしかに普通に考えればそうとしか考えられない。

しかし、重症とはいえアマネ先輩もキザさんもいたのに、気配も悟られず遺体を回収できる者がどれくらいいるだろうか……

そう思ったのは、カナタとアマネ本人だけだったようだ。他の者はそうだよなー。考えすぎだよなーとお互いの肩を叩きあっている。


後ろ髪をひかれる思いで№3のゲート付近までやってきた。気にはなるがどうしようもない。血痕などを追っていけば何かわかるかもしれないが、恐らく戦っているであろうヒナタ達を放ってそれを追う気にはなれなかった。

ゲートでは今まさに激しい戦闘が繰り広げられている。


都市の中からあらゆる火器を用いて攻撃する守備隊と、体の色んな部分を吹き飛ばされながらも前進を止めない感染者達。

しかし様子がおかしい。話では二類感染者を中心に三類感染者の姿もあるとの事だった。しかし目の前で銃撃の嵐にさらされているのは、二類感染者しかいない様に見える。


「アマネ先輩!三類もいたんですよね?」


確認するとアマネは難しい顔をしていたがしっかりと頷いた。パッと見てわかるくらいの数の三類感染者がいたという話なのだが、よく見てもそれらしき姿はない。

先に倒された?それはありえない。三類感染者の不死性は二類感染者の非じゃない。三類感染者を倒せるくらいの火力を投入していたのなら、二類感染者も数を激減させていないとおかしいのだ。


№3からの攻撃を見ると、二類感染者すら倒すのにだいぶかかっている。とても三類感染者を倒せるようには見えない。


「ああもう!ややこしい事を考えるのは苦手なんだよ」


頭を掻きむしってしまう。我ながら短絡的だが、自分は刀担いで前線で振り回している方が向いているのだ。細かい事は上の人とか、研究者の人とかにお任せしたい所存であります。


「あ……」


頭をかきながら見ると、自分達が身を隠している所とゲートの中間くらいの土手のくぼんだような所に手を振っているのが見えた。

双眼鏡で確かめるとヒナタに間違いない。


「みんな、あそこ!ヒナタがいる。よかった、まだ斬りこんでいない」


姿が見えないから心配していたのだが、どうやらあそこに身を隠して機会を窺っているようだ。そして気づいたと分かると、ハンドサインで自分たちの所に来るよう合図してきた。

カナタは皆にそれを伝えると、見つからないようにあそこに行くルートを模索し始めた。



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