17-8
緊急対応のためバタバタ( ; ; )
「なあ、ほんまにやるの?考え直さへん?」
アマネにすり寄るようにして伊織が何度も問いかけている。先ほどから何度も見てる光景だ。ヒナタは昔からアマネの事を知っているので、本気でやる気だ。と最初から分かっていたが、それ以外の者は冗談とでも受け取っていたのか、ここにきて顔を青くさせている。伊織もその一人だ。
「いや、確かに言うたよ?守備隊は英雄じゃないとあかんて。今もそう思ってるよ?でもこれはあかんて」
「うるさいなー。じゃ、帰れよ。だれも一緒にやれなんて言ってないぞ?」
そう言われて伊織は黙った。帰る事もしない。これも先ほどから何度も見てる光景だ。
ヒナタ達は現在№3の正面ゲートの近くに身を潜めている。夕べ遅くまで観戦していたがあそこにいる守備隊では攻め寄せる感染者を追い返す事はおろか、止める事もできないだろうと判断して移動してきたのだ。ここなら№3からの援護も期待できるだろうとの計算で。
「なあ、ほんまに来ると思う?」
アマネにうるさがられた伊織が今度はゆずにまとわりついている。じっとしている事が出来ないのだろう。こういった状況に慣れていなければ無理はない。
「ん。昨日見ていた限りあそこにいた守備隊じゃ感染者を止めることもできない。きっと今全員おいしく頂かれているか、散り散りに逃げていると思う。」
ライフルの整備をしながらゆずが言うと、「嫌な事いうなよ」と伊織が渋い顔をしている。
あれから一度拠点の農家に戻った一行は、完全装備になって急いでここまで移動してきたのだ。様子を見る限り№3から気づかれた様子はない。向こうも迫りくる感染者の群れに戦々恐々なのだろう。夜が白み始めると同時にゲートの周りで人が動き回っている気配がしている。
「なあ、せめて中の守備隊から応援出してもらうとかさぁ。ほら、ウチが声かけてもいいで!一応二番隊やし!」
「だめだ。そうしちまったら意味がない。あいつらを私たちで退けて堂々と中に入る口実にするんだ。他の部隊がいるとうやむやにされるかもしれないだろー」
腰に手をあてて、軽くむすっとしたアマネにそう言われ、伊織はおとなしくなった。
作戦としてはこうだ。
恐らくそう長くないうちにあの場所で見た感染者達がここにやってくるだろう。なぜだかわからないが、あの感染者の群れは普段と違い目的に向かって動いている感じがした。そしてその方向がこの№3の都市というわけだ。
それならばココで待ち、№3の都市守備隊の目の前で偶然居合わせた№4の守備隊として颯爽と現れて感染者達を倒す。
すると大手を振って№3に入る事ができるというわけだ。しかもその部隊は伊織が都市の危機を察知して連れて来た事にする。
「ちょっと雑やないか?作戦が……」
心配そうに伊織は言うが、慣れているのか誰も同意してくれなかった。それどころか……
「これくらい雑な方がうまくいく事もある。多分、知らんけど」
という、ゆずの返事に言葉を無くしていた。
「それよりしっかり準備しとけよー。感染者達の集団を私たちだけで倒すことが前提なんだからなー」
まるで寝る前に歯ぁ磨いとけよー。と言ってるくらいの気軽さでアマネが言うのを聞いて、伊織は顔を引きつらせていた。
「ん、これ。」
ゆずがそう言って伊織に押し付けたのは、守備隊に広く支給されているM4のレプリカだ。伊織は後方から支援射撃をすることになっている。言ってしまえばお飾りの二番隊である伊織は戦闘能力はそれほど高くない。前線で戦うには無理と判断されてそうなった。
銃器や弾薬の類は撤退した№3の陣地後から回収してきている。さすがここで生産されているだけあって一部隊に支給される武器弾薬の量がけた違いに多い。
ここの守備隊もそれに慣れてしまっているため、意外と簡単に放棄してしまうようだ。かなりの量を確保している。
諦めて伊織も渡されたライフルを手に取って確認をし始めた。整備はゆずがやっているので照準の調整など個人の好みの範囲で微調整するだけになっている。
「……きた」
ジッと感染者達がやってくるであろう方向を見ていたアマネが鋭い声を出した。№3のゲートから見える範囲は一直線の道路が伸びていて視界を阻害するようなものはない。その道の先に僅かに動くものが見える。
「間違いないです。感染者です、多分二類……走るタイプが先頭です」
双眼鏡をのぞいていたヒナタが敵の様子を告げる。
「まずはひと当たりさせましょう。ここの戦力も見たいし、感染者の怖さも知ってもらいたいわね」
冷静にそう言う階にアマネも頷く。
「そだなー。それに私たちが100%受け止めるとさすがに被害がでるかもしれないしなー。」
№3の守備隊は打って出るつもりはない気配だ。ゲートなどを利用して戦うつもりなのだろう。つまり籠城戦をするつもりのようだ。
それならば一度当たって感染者との戦闘を味わってもらったのち、援軍として突っ込む。
走るタイプの感染者も獲物を視認しない限り他の感染者と大差ない速度の動きだ。つまり緩慢な速度で前進するのをヒナタ達はジリジリする気持ちでただ見つめる。しかも迂闊に物音も立てることもできないので体はずっと緊張したままだ。
「今からそんなに固くなってたらもたないぞー」
ふいに後ろから声が聞こえたと思ったら、両脇の下から手が伸びてきた。
「~~~~~~~っ!!」
よく声を上げなかったと自分をほめてあげたい。後になって伊織はそう思ったものだ。おそらくは緊張をほぐそうという意図なのだろうが……
伊織の両脇から手を入れたアマネが思い切り胸を揉んだのだ。
声にならない叫びをあげた伊織は思わず後ろに向かって拳をふるったが、その頃には後ろに飛び退いていたアマネはケラケラと笑っていた。
この頃になると自分の反応に面白がってやっているとわかっているのだが、忘れた頃やこういった意識がどこかに向いている時にかぎってやってくるものだから、つい同じような反応をしてしまう。
半分涙目になってアマネを睨むがアマネはそれすら面白いのか笑っている。
「こんな時にやめーや!」
普通ならそこで終わるのだが、さすがに今の状況での悪ふざけは黙っていられなかった。伊織が文句を言うと、ケラケラと笑っていたアマネは一瞬真面目な顔になり、声を潜めて言った。
「見た目より大きいんだなー。着やせするタイプか?」
「~~~!」
顔を真っ赤にして殴りかかる伊織をひょいひょいといなしながらアマネは楽しそうに笑っている。それを周りの者は苦笑いで見ていた。
こっちに向かってくる感染者にも、ゲート付近で息を飲んで待ち構えている№3の守備隊にも存在を気取られるとまずい。
それを承知しているのか、ふざけ合っている二人はほとんど声も物音を出していない。
ようやく気がすんだのか、肩で息をしながら伊織が元の場所に戻ってきた。アマネはケラケラ笑いながら先頭のほうに戻って行った。
「すっかり気に入られてるねぇ。アマネさんがあそこまで絡んでくるのはお兄ちゃんか伊織ちゃんくらいだよ」
苦笑いを受かべたまま言うヒナタを伊織は睨みながら言った。
「嬉しくない!」
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