17-2
戦いは一方的だった。銃器を使う事もなく素早く接近してカナタとスバルが二体ずつ、ダイゴが一体と詩織が一体仕留めると戦いは収束した。
「意外とあっけなかったな」
拍子抜けしたようにスバルが支給刀を鞘に納める。ここにいたのが一類感染者ばかりだったのもあるが、十一番隊の実力もそれなりに上がっていた。これまで厄介な相手と戦う事が多かったので実感できなかったが、それだけにカナタ達の実力を底上げしてくれていたらしい。
「油断大敵だよ、スバル君。こっちは常に感染の危険性があるんだから」
ダイゴが油断なく倒した感染者とその周りを確認しながらスバルを窘めている。確かに感染者との戦いは人間側にだいぶ分が悪い。感染者は弱点である延髄付近を破壊されない限り際限なく動くのに対して、こっちは噛まれたり、ふんだんに感染体を含んだ血液の付着している爪などでかすり傷でもうければ感染の危険性があるのだ。今は喰代博士が開発した試薬があるから感染=死とまではいかないが、それでも完全ではないので傷を受けることなく倒す事が求められる。
わかってるよと答えながら一緒に周りを確認しだした二人を見て、相変わらずいいコンビだなとカナタは少しだけ笑った。
どこか向こう見ずな所があるスバルと慎重なダイゴ。ともすれば臆病になるダイゴと勇敢なスバル。それぞれがお互いの欠点と長所を補い合っている。割と昔からそんな感じだった。
ふと気づけば、そんな二人の事を詩織も見つめているのに気づいた。伊織の事を考えているのかと思って声をかけてみる事にした。
「伊織ちゃんとも案外あんな感じじゃないの?二人の性格的に」
声をかけられてハッとした詩織が少し俯いて答えを返す。
「その、姉さんと一緒に行動するようになったのは最近なんで……」
カナタはまたやらかしたと内心冷や汗をかいた。そういえば、そんな事を言っていたような気もする。どう話を続けるか迷っていると詩織が話し出した。
「私たちの両親は私たちが生まれてすぐくらいに離婚してて……姉さんは父親に、私は母親に引き取られて育ったんです。母はもともと荒っぽいのが苦手な性分だったみたいで、父は優しく接してくれたらしいんですが、周りの環境に馴染めなかったって言ってました。それで出産を機に離婚したと聞いています。最近まで双子の姉妹がいる事をお互い知らなかったんです。」
「別に隠しておく事ではないとおもうけどなぁ」
近くに来ていたスバルも話を聞いていたのかそんな感想をもらした。
「理由はきけないままでした。母は避難所で感染者の集団に襲われ亡くなったので。それで一人になった私を利用しようと佐久間に№3に連れられてきて初めて姉さんがいる事を知ったんです。父とはあまり話す機会もなく佐久間の手に落ちてしまいましたし……」
その父親を救い出すために伊織たちは№3に乗り込もうとしている。佐久間はしっかりと対策をしているみたいだが……
「カナタさんは私と姉さんがスバルさんとダイゴさんみたいな関係に見えるって言ってましたけど、姉さんもほんとは私みたいな性格なんですよ?ただ幼いころから父の元で育ったのでその影響でああなったみたいで。父の会社は暴力団ってわけじゃないんですけど、昔ながらのやくざっていうか……そんな感じの人が出入りしているところだったので……姉さんはだいぶ苦労したみたいです。同級生はあまり関わりたがらないので友人も少なかったって言ってました。小さい頃は色んな陰口をたたかれて、ある事ない事噂されて。強くなるしかなかったんだと思います」
「子供は時に残酷だからねぇ。それほどの悪気はなくても本人にとっては辛い事もあったんだろうね」
悲しそうな表情になったダイゴがこぼした。それに詩織も辛そうな顔になって頷く。
「だから、私は姉さんに対して引け目があるんです。姉さんがそんな目に遭っていた時、私は何の不自由もなく楽しい暮らしを送れてました。普通に学校に通って友人もいて……同じ姉妹なのに。逆の立場の可能性もあった事を考えると特に申し訳なく感じてしまって……」
「それは詩織ちゃんが負い目に感じる事では……大人の都合に振り回されただけじゃ」
カナタがそう言ったが、詩織は首を振った。
「それでも姉さんが辛くて泣きそうな時に私は楽しく笑って暮らしてたんです。私のせいじゃなかったとしても……」
そこまで言うと詩織は辛そうに口をつぐんだ。自分たちのせいじゃないとわかってはいてもやりきれないものがあるという感じだ。
「その……悪かったよ、事情も良く知らないのに見た目だけで勝手に決めつけて。」
申し訳なさそうにカナタが言うとハッと顔を上げて詩織は慌てて言った。
「あ、ごめんなさい。そんなつもりじゃないんです。ただ姉さんが好きでああ振舞ってるわけじゃないって言おうとしただけで……こんな事話すつもりじゃなかったんですけど、つい。もしかしたら私も誰かに聞いてもらいたかったのかもしれないですね」
努めて明るい感じで詩織はそう言ったが、離したことは本音なんだろう。もしかしたら伊織を助けたいのもその負い目があるからより強く思うのかもしれない。
見た目はそっくりな双子なのに、話しかたも性格も仕草も全く違うから違和感は感じていたが、そういう事だったのかとようやく納得した。
「それはゆっくりお姉さんと話したほうがいいですね。お姉さんには負い目を感じている話はしたんですか?」
リヤカーから喰代博士がそう聞いてきた。
「少しだけ……姉さんは、そんな事気にするなって笑ってましたけど……」
「でも詩織さんは気にしてしまうんでしょう?それならもっとゆっくり腹を割って話す必要があると思います。これはどうしても伊織さんを無事に助けないといけませんね」
詩織にそう伝えた後、カナタに向かって喰代は言った。
「そうですね、ここまで聞いて何もしなかったらダイゴが怒りそうですしね」
あえて冗談めかしてカナタが言うと、スバルもそうだと頷き、何でそこで僕がでてくるのかな。とダイゴが口を尖らせたが否定はしなかった。
そのやり取りを見て、ようやく少し詩織の表情が和らいだ。
ダイゴもそうだが、伊織のほうではアマネ先輩も動いてる。いづれにしてもこの姉妹とは関わっていきそうだ。
それならばいい方向に持っていきたいと考える当たり自分もお人好しなのかもしれないと、カナタは自分で考えて笑ってしまった。
目の前の高速道路はまっすぐに伸びている。見える範囲には障害はない。叶うなら姉妹が分かり合えるまでこれくらい
障害がないといいなぁと思いながら歩き続けるのだった。
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