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17-1  №3

結局カナタも№3に行く事を決めた。

なんだかんだ言っても、ヒナタやゆずに白蓮さんも一緒に行っているのだから、話を聞けば放っておくことはできない。


「そういう訳で、俺たちも№3に向かおうと思う。これは任務ではないから補給もろくに受ける事もできないし、自己責任でやる事になる。だから……」


「はいはい、皆まで言うな。行くよ、行かないわけがないだろ?」


「そうだよ。仲間が危ない所に行ってるのに、僕たちだけなにもしないでいられるわけないじゃない」


隠しておくことはできないので、スバルとダイゴにも声をかけてみたところ、二人とも行く気になってくれた。そう言ってくれるとは思っていたが、実際に返事を聞くとホッとするものだ。


「でも時間的にかなり厳しいよね?ここに来るのに三日ロスしてる。向こうは順調に進んでいればもう着くころじゃない?」


ダイゴが不安そうに言った。


「いえ、そうとも限りませんよ?」


それを聞いて、喰代博士が棚から何かの資料を出しながら言った。そしてみんなの目の前の机に拡げる。それは詳細な地図だった。


「ここを見てください。」


そして地図上の一部分を指した。


「話ではこのあたりでマザーと遭遇していましたね。このあたりから№3を目指すと直進すれば険しい山があります。ここは登山道はありますが、見る限り楽に通れそうにはありません。ここを迂回しようとしても山裾をぐるっと回りますから……」


「どっちにしても時間がかかるって事か。慣れない登山をするより迂回したほうが早いだろうけど、アマネ先輩の性格からして迂回はしないと思う。その点俺たちは高速道路で一気に進める。まあ邪魔が入らなければだけど……」


こっちに来る当初に邪魔が入った事を思い出して苦笑いしながらカナタは言った。


「でも、間に合うかもしれないって事だろ?そんなら急ごうぜ」


そう言うが早いかスバルは荷物をまとめだした。


「まあ、望みがないよりよっぽどいいね。」


ダイゴもそう言うとスバルの手伝いを始めた。


「カナタさん私も同行させてください。どんな研究をしているのかわかりませんが、研究者目線が必要になる事もあるかと」


自分も出発の準備にかかろうとしたカナタを呼び止め、喰代が言った。どう答えようか一瞬迷ったカナタが言葉を発するより早く喰代が言葉を続けた。


「それに私も十一番隊の一員のはずです。仲間外れは許しませんよ?」


と、にっこりと笑って言った。




準備を終えたカナタ達は何事もなく№1を出る事に成功した。都市を出る時にどういう理由をつけようか悩んだが、喰代による研究素材の採集という名目であっさり通る事ができた。

試薬の開発に成功して、効果と作成データを公表した喰代博士と言えば今や時の人であり、これまで感染したら最後100%発症という恐怖の緩和させ、抗ウイルス剤の作成に一歩前進させたとして有名人となっていた。


「こうも期待されると身が引き締まりますが、重圧で押しつぶされそうでもありますね……」


ゲートの管理をしていた№1の守備隊の中に、喰代の研究発表を生で聞いていた者がいたのだ。そのおかげでスムーズに都市を出る事ができたのだが、寄せられる期待にさすがの喰代も困惑気味になっていた。


「博士でもそうなる事があるんですね」


「それはどういう意味でしょうか、カナタさん?私もか弱いただの女性にすぎないのですが?」


何気なく言ったカナタの言葉をしっかりと聞いていた喰代が横目でカナタを睨みながら言った。


「いやあ、研究対象を目の前にした博士を見ていると、とてもただの女性とは……」


「それは……多少我を忘れる事もあったかもしれませんが……」


言っているうちに思い当たる事があったのか、反論する声も段々としぼんでいった。ちなみにすでに腰に紐をくくりつけてある。これは同行するうえでの最低条件としてカナタがつけた。今度は簡単にほどけないようきつく結んであり、紐の先はダイゴのベルトに結んである。


高速の乗り口が近かったこともあって、一行はすでに高速道路を進んでいる。途中何度か感染者に遭遇しそうになったが、詩織のおかげで戦闘は避けられた。


半感染の状態である詩織には感染者が襲い掛かってこないのだ。偶然判明したことだが、これを利用して感染者を誘い出したりしてうまく戦闘を避ける事ができている。


それが判明した事で、喰代博士が検証を始めようとするのを止める方が大変だったくらいだ。


「感染者は何をもって感染している事を判別しているんでしょうか……」


今も仕切りに呟きながら腕を組んで首をひねっている。未だに感染者については分かっていない事の方が多いのだ。


「悪かったね、怖い思いをさせて。」


「いえ、大丈夫です。そもそも№3行きは私が言いだした事なので。むしろ役に立ててよかったです」


詩織は気丈にそう答えたが、顔色は悪い。なにしろ感染者と至近距離で気を逸らす役割を果たしたのだ。

偶然襲われない事が分かり、何度か試したうえで行った作戦は、詩織が感染者の目の前まで行って音を出したり、カナタ達が隠れるように視線をさえぎるようにする事だった。特に二類感染者がいた場合は慎重に行われた。


いくら襲われないといっても目と鼻の先まで近づくのはかなりの勇気がいる事だろう。


「そんなにやばい相手何ですか?その、二類感染者って」


話題を変えるためか、詩織がそう訊ねてきた。その言葉に喰代博士が答える。


「あそこにいたのが特にやばいのよ。感染者の分類は聞いてる?」


聞き返した喰代の言葉に詩織は首を振った。その佐久間という男はそういった情報は共有していないらしい。


「まあ、こっちで勝手に分類してるんだけどね。まず感染者に噛まれたりして感染・発症したのを一類感染者と呼んでる。一時はほとんどこれだったんだけど、マザーの出現で変化が起きたの。マザーに取り込まれたりして、マザーから直接感染させられた個体は意思の疎通ができたり、肉体の一部が変容したりする。これを二類感染者としてるわ。二類感染者は何種類か確認されていて、さっきいたのが笛とか警報とか呼ばれてる。非感染者を発見すると高い音の声を発して他の感染者を呼び寄せるの。他にも腕が発達して強い力を発揮するマッスル、足が発達して走る事ができるランナーとかが確認されてる。現場でつけられてあだ名が定着してるからネーミングセンスには目をつぶってね」


喰代博士は一息にこれらを説明すると、ペットボトルから水を一口飲んだ。

カナタ達も初めて聞くものもあったが、それらは試薬の発表の時に他の都市とも情報を交換し合ってまとめたものだそうだ。


「マザーっていったいなんなんでしょうね。その理屈で言うと私も二類感染者という事になりますね」


寂しげな表情でポツリと呟いた詩織の言葉を喰代博士が強く否定した。


「それは違うわ!そもそも感染者と定義されるものは、感染して()()した人の事を指すわ。詩織さんんは発症はしていないのだから、まず感染者ですらないの。」


「……そうですね、ごめんなさい。つい弱気になっちゃって」


喰代博士の言葉を聞いて、少し微笑みながらそう答えた詩織だったが割り切れない思いがどうしてもぬぐえないのだろう、表情は優れない。


なんとか声をかけたいが、きっと感染したこともない自分たちが何を言った所で詩織の心は晴れない気がする。カナタはどうしてもそう考えてしまって声をかける事を躊躇してしまう。


感染すると100%の発症率のために、感染して発症していない者と話す事など前例もない。それだけに余計で不憫でならないのだ。

結局何の言葉もかける事もできずに俯いて歩いていると、視線の先に黒い染みがいくつもできていくのに気づいた。


「……雨か」


「うわ、まじか。ここじゃ雨宿りもできねえし……最悪」


カナタが呟くのに気づいたスバルがつられて空を見上げて愚痴をこぼした。高速道路を歩いているのでトンネルでもないかぎり雨を遮ってくれるものはない。ひどく降る事はなさそうだが、いつまでも降りそうな空模様だ。


「濡れると体力奪われるから、小雨でも雨具を使ったほうがいいよ」


そう言ってダイゴは早速荷物から雨具を引っ張り出している。№4から引いてきたリヤカーにはそれぞれの荷物が載せてある。リヤカーもシートをかけないといけない。一同は足を止めて、それぞれ雨対策をすることになった。


それから一時間ほど歩いただろうか。


「いるね」


高速道路の端で壁に身を隠すようにして前方を双眼鏡で確認したダイゴが言った。最初に気づいたのは詩織だった。ひどくはないがそれなりに降る雨にうんざりして、自然と視線が下を向きがちだったがかなり早い段階で詩織が何かが動いたのが見えた、とみんなの足を止めたのだ。


カナタ達には肉眼ではわからないほど距離があるので、向こうも気づいていないようでただ虚ろにふらふらと彷徨っているようだ。


「放置車両のかげになってはっきりとはわからないけど……5体から10体の間ってとこかな。どうする?」


双眼鏡をのぞいたままでダイゴがそう聞いてくる。判断するのは一応の隊長であるカナタの役目だ。と、いってもまばらにある放置車両は身を隠せるほどにはないし、戦うしかないだろう。カナタは腰の桜花の柄を握った。


「仕方ない。迂回もできないんだから排除するしかない。喰代博士はダイゴの後ろかリヤカーに、詩織ちゃんは……」


「私も戦います。あまり戦力にはならないかもしれないけど、ただ足手まといでいるのは嫌なので」


真面目な顔でそう言って、背負っていた筒から弓を出して弦を張っている。


「わかった。即興で連携は難しいだろうから、俺たちがなるべく複数相手にならないように牽制をお願いできるかな?」


カナタがそう言うと、詩織は頷いて矢をつがえて準備した。


「行こう」


静かに、それでも力強くカナタはみんなに告げた。


読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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