15-6
カナタ達はマザーと戦った所からさらに西へと進み。№1を目指している。四国の南東は山が多く、道路は通っているものの曲がりくねった道となっており、さらに通る者がいなくなった今は荒れ放題である。アスファルトはひび割れ、雑草が隙間から伸びている。
それに隠れて見えないが、割れたアスファルトが反っていて歩きにくい事この上ないのである。
「ふっ!」
そんなアスファルトに足元を取られないよう足さばきに注意しながら、現れた感染者の首を断った。
「こんなとこまでいるんだな……」
血ぶりした刀を鞘に納めながらカナタが言った。高い所から周りを見ても山しか見えないような道路だ。民家などあるはずもないと思うのだが、ぽつぽつ遭遇するのだ。それが登山者の格好でもしていれば納得もするのだろうが、これまで見た感染者はみな普段着だった。
しかもほぼ単体、いても三体より多かったことはない。そのため、ほとんどカナタだけで処置できている。
「不思議だよね。こんな所を歩いてたり、マザーのいる所では集団で動くし。どういう基準で動いてるんだろうね」
倒れた感染者を見ながらしみじみとダイゴは言った。ダイゴは詩織を背負っているのと、持っていたポリカーボネイトの盾は四つ足と戦っているうちに粉々になってしまったので、戦闘には参加していない。
「喰代博士なら何か共通点とか見出すかもしれないけどな」
スバルは支給刀で自分が倒した感染者がもう動かないか確かめながらダイゴに答えた。
「かもしれないけど、博士がいたら移動速度は半分以下になるぞ」
冗談めかしてカナタが言うと、スバルはおかしそうに笑った。喰代博士は感染者の事になると周りが見えなくなるし、自分の知っている生態と違う事があったら感染者にハグしかねない勢いで突っ込んでいく。
以前の遠征は腰に迷子紐を巻きつけてそれを制御していたが、最後の方にはそれもほどかれていたっけ……
「なんか三人だけで動くのも久しぶりだね」
ダイゴが何となく楽しそうに言うと、スバルは今気づいたのか、表情を明るくしている。
時には冗談を言い合いながら歩いて行くと、ようやく標識に高知の文字が出てきだした。すっかり錆びて、文字も分かりづらくなっているが、高知の後のkmの数字はまだまだ多い。
「やっぱりおかしい」
さらに数回出て来た感染者と戦い、それを調べていたカナタはしきりに考えている。
「あーん、何がおかしいんだよ」
すでに歩くのに飽き始めているスバルがやる気のない声で聞いた。変わらぬ風景と同じような道、時折襲って斬る感染者もそこまで脅威ではない。ほとんどが道路上をこっちに向かって歩いてきているし、仮に両側の山の中からでてきたとしても、枝や葉っぱを踏む音が聞こえるので接近に気づきやすい。
従ってだんだん緊張感も薄れてきてしまっている。
「出会う感染者は、全部俺たちが来た方向に向かって移動しているし、服装があまり傷んでない。もしずっと道路上にいたのなら、もっと傷んでいないとおかしいんだよ」
言われてスバルも見てみたが、確かに汚れていたり血がついていたりはしているが、傷んではいない。街で見かける感染者はすでにぼろぎれを引っ掛けてるだけといった見た目の者も多いくらいなのに。
「じゃ何か?こいつらは自宅から出勤してきたっていうのか?」
倒れた感染者を注意深く刀で転がしながら見ているスバルが呟く。
「いや……」
そう言うと周りを見渡して……
「そうか、こいつらは森に中にいたんだ。木々が密集している所は太陽も雨もあまり当たらないだろ」
得意げに語るスバルに、カナタは素直に拍手を送る。カナタも同じ考えだったからだ。
「それがなんで出てくるのさ。俺たちに気づいて出て来たっていうよりも、出てきて俺たちに気づいたって感じだよ?」
「む……それは…………感染者のみぞ知るってやつだな」
仮説も出てこなかったのか、スバルはそう言ってごまかした。そんな時だった。
「呼んでる……」
「え?何、誰か何か言った?」
ダイゴが急に周りを見る。しかし変わった様子はない。
「どうしたんだ、ダイゴ?」
「いや、今何か聞こえなかった?」
少し慌てて言うダイゴにスバルは首を振った。
「俺も聞こえなかった。何が聞こえたんだ?」
カナタもそう言うので、ダイゴの顔が青ざめてきている。カナタの問いには答えず、しきりに周りを見ている。
しかし周りには木々しか見えない。ずっと、両側に森があり一本の道路が伸びているだけといった風景なのだ。
「おい、ダイゴ」
落ち着きなく周りを見だしたダイゴの肩に手を置いて落ち着くように促した。
「で、何が聞こえたって?」
鼻をほじりながらスバルは聞いた。
「その……なんて言ったかはよくわかんないけど……女の人の声だった……」
ダイゴの言葉に時間が凍り付いたようになる。
「おいおい、ダイゴ……退屈だからってそんな冗談いらない……」
カナタがそう言うが、ダイゴの顔は冗談をいったようには見えない。
「冗談なんかじゃ……ほんとに聞こえたんだ」
「あ、詩織ちゃん。寝言かなんか言ったんじゃね?」
しかしダイゴは納得した様子はない。ダイゴは詩織をおんぶしていてもある程度動けるように、背負子を作ってそこに詩織を座らせてダイゴが背負い、荷締めロープで縛っている。そのためダイゴからは様子を見れない。
カナタがダイゴの後ろにまわって詩織を見てみたが、詩織はぐっすりと眠っていて寝言を言いそうな感じではない。
辺りを見回すと、冬に近づき暮れるのが早くなったこともあり、だいぶ薄暗くなってきている。その時、一陣の風がふいて森の木々を揺らした。
ざわざわと枝や葉がこすれ合う音の中に違うものの音が聞こえそうな気になり、少しばかりゾクリとする。
「と、とりあえず行こうぜ。ぐずぐずしてたら日が暮れちまう。地図では、もう少し行ったら小さな集落があるからせめてそこまで行ってから休憩しよう」
カナタがそう言うと、スバルは頷いて足早に歩き始めた。今だ釈然としない表情をしているダイゴも渋々それに続いて歩き出した。
びゅうびゅうと吹き出した風は木々を揺らしていた。
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