15-4
すいません、少し投稿順をミスってたみたいです。15-4の前に一話入ってます。ごちゃごちゃになってすいません((+_+))
「アマネさん!お久しぶりです~」
「おお、ヒナちゃんも元気で何より。……ちょっと強くなった?」
「そう見えます?エヘヘ、実戦で鍛えられてるかもです」
仲間が待っていたのは、カナタ達を狙撃しようとした男がいるマンションだった。例によって男はベランダに叩き出されていた。
毛布といくばくかの食料が分け与えてあったのはせめてもの温情なのだろう。……すこしばかり同情しないでもない。ふたたび家に押しかけられた時の心境はいかばかりであったか……
まあ、このメンバーを狙撃しようとして生きていられるだけマシと思ってもらうしかない。特にアマネ先輩がいる今だと、原型も残らない可能性もあるのだ。
そんな先輩は女子たちで集まり仲良く食事している。伊織やゆずと揉めるのを心配したが、ヒナタが仲立ちしたのもあってすんなり馴染んでいる。
一方男子組は、部屋の隅の目立たない所で隠れたようにして食事をとっている。カナタとは小学校からの付き合いであるスバルとダイゴもアマネ先輩とは面識がある。被害もある……。
「すばるんとだんごくんも一緒かー。元気かー?鍛えてるか~」
合流してすぐ、そう言ってダイゴの背中をバンバン叩くアマネ先輩にダイゴもスバルも愛想笑いを返すばかりだった。この先輩は道場に一歩でも足を踏み入れた者は強くなろうとしている。鍛えてやって当たり前みたいな信念を持っていて、カナタを訪ねて気軽に遊びに来たスバルとダイゴは訳も分からず実戦形式の打ち稽古に巻き込まれた。
しかも一度そういった面識を持ってしまうと、道場の外であっても適用されるらしく鍛え方が足りないとか、たるんでるとかの理由で町内を走り回らさせられた事は一度や二度ではない。すっかり苦手意識が刷り込まれているのだ。
しかも見た目はちっこくてかわいらしいのが余計に問題なのだ。それが変にかわいらしい愛称で声をかけてくるものだから、全然知らない別の友人が、「誰だよあの娘」「紹介しろよ」と聞いてくる姿を見た事がある。それをスバルとダイゴが関わり合いにならないほうがいいと必死の形相で止めるまでがワンセットである。
「相変わらずすごいですね、アマネさん。あのマザーを追い返しちゃうんだもん。お兄ちゃんも助けてもらっちゃって……ほんとにありがとうございます」
ヒナタなどはアマネの事を感心しきりである。しんがりを買って出たカナタを救われたものだからことさらに尊敬する。
「んー、まー。あれくらいならな~。ヒナちゃんもすごいぞー。あいつヒナちゃんの真似してたからな~。かなちんの真似はしてなかったけど……」
「うっ!」
背中越しに聞こえる皮肉がカナタに刺さる。しかしここで口を挟もうものならどんな内容の修行を言い出すかわからない。聞こえなかったふりをするカナタであった。
女子組の話は盛り上がり、いつしか藤堂姉妹の話になったようだ。
詩織はダイゴがおぶって連れてきており、今は落ち着いて静かに眠っている。マザーに斬られた傷はすっかりふさがっていて、もう一切出血はない。
とりあえずはちゃんとしたところで診てもらわないと分からないという事と、試薬を投与した初めての人間という事で、№3にも4にも戻らず、そのまま喰代博士が行っている№1へ向かう事になっている。
夜も更けて、何となく寝付けなかったカナタは部屋の外に出て、素振りをしていた。普通の感染者やならず者相手なら遅れはとらない程度にはなっているのだが、ああも圧倒的な力の差を見せつけられるとやはり力不足を実感してしまう。
「こんな事なら、もっと真面目に道場に通っとくんだったな」
通っていた頃もそこまで真面目に取り組んでなかったカナタは、型などもほとんど覚えていない。今の戦い方もほぼ自己流といっていい。
「そうだよ、アマネさんも残念そうにしてたんだから」
ふいに暗がりから声がした。知っている声だったので慌てもしないが。
「それ、前も聞いたけど……単にいじる相手がいなくなったからじゃないのか?」
カナタがいない事に気づいたのか、あるいは同じように寝付けないのか。ヒナタが肩にブランケットをかけて寝巻のままでカナタを眺めていた。
「ううん、違うよ。師匠が言ってたんだけど、アマネさんは教えるのが下手なだけで方向性はすごくあってるんだって。お兄ちゃんによく絡んでいたのも才能を見抜いていたんだろうって」
そんな事を言われていたとは意外だったが、アマネ先輩のそれは下手とかそういうレベルではないと思う。
「ふふっ」
カナタが考えていたことが分かったのか、口を押えてヒナタは笑っている。
カナタは少しむっとして、素振りを再開した。
「師匠が言ってたよ。ウチの道場にはもったいないくらいの逸材がいるって。その中にお兄ちゃんも入ってたらしいよ?」
意外過ぎる言葉に思わずカナタは聞き返した。
「俺が?逸材って……さぼる事しか考えていなかったのにか?師匠も耄碌したんじゃないか?」
「あはは。お兄ちゃんはアマネさんと同じ種類らしいよ。感覚派の天才。なんとなくできちゃう人?なんか、理論とか技術とか、そんなのすっ飛ばしちゃって考えた事をその通りにできて、しかもそのレベルが高いって。私はねー、その逆で理論派の天才って言われたの。理論を突きつめて技術を磨いて……納得できるまで。キザさんもこのタイプみたいだね。」
感覚派……そう言われてもピンとこない。
しかしカナタは分かっていないが、道場に真面目に通っていなくて、型すら覚えていない有様のカナタは言ってしまえば練度においては一般人とそう差はない。
それが今戦えているのは、まさにその証左であるのだ。カナタは優れた動体視力と反射神経を持っている。それに加えて感覚で見た技術を何となくできてしまう。簡単に言うと、バック転のやり方を理解したからといって、それをすぐに再現できるわけではないのが普通で、出来てしまうのが感覚派の天才といったところだろうか。
いまいち理解できていないカナタは変な顔をしている。それを優しい目で見ながらヒナタは話を続けた。
「アマネさんも同じで、何となくできてそのレベルが滅茶苦茶高いってだけなんだって。本人も分かってないから誰とも話が合わなくて、でもお兄ちゃんを見たら自分と同じタイプだってピンと来たんだろうね。だからアマネさんが言う訓練は一見無茶……うーん、ほんとに無茶だったかもだけど……その時点でお兄ちゃんに必要な部分を鍛えるものだったらしいよ。だから師匠も止めなかったんだって」
確かにアマネ先輩からなにかしら無茶ぶりをされていても師匠はニコニコと見ているだけだった。そう考えると、今こうして生き延びているのも先輩のおかげだという事になる。だからといってすぐに感謝できるほど生易しいものではなかったのだが……少し、見る目は変わるかもしれない。
「へくちっ!」
考え込んでいると、ヒナタがかわいらしいくしゃみをしている。夜も更け、また季節も冬が近づいてきている。ブランケットを羽織っているといっても寝巻では寒いだろう。
「これから№1に向かうんだ、風邪なんかひくなよ。ほら、もう寝な。俺ももう少ししたら寝るから」
カナタがそう言うと、ヒナタは名残惜しいようだったが寒くもあったのだろう。ブランケットで体を覆うようにして部屋に戻った。
「感覚派、か。」
話を聞いても、ピンときたわけではなかったが、もう少し……いや、ほんの少しアマネ先輩に教えを乞うのもいいかと考え始めるのだった。
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