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15-1 半感染

遅くなりましたが本日分の投降です!

「ど、どういう……とりあえず詩織はあの化け物にならずに済むっちゅう事やな?」


伊織は勢い込んでカナタ達に聞いてくるが、それに適切な答えを返すことがカナタ達にはできなかった。

見た感じ発症を抑える事はできていると思う。

ゆずが投与したのは試薬S。感染した獅童の手から作ったほうだ。カナタ達が聞いているのは、投与したら24時間程度発症を抑えるという事だけだ。

すぐに効果がでるとか、怪我が治るなどとは聞いていない。


「とりあえず約24時間発症を抑えると聞いている。あとは№1に行けば喰代博士がいる。喰代博士なら今の状態の説明もできるだろうし、適切に対処してくれると思う。ただ問題は……」


カナタがそこまで言った所で、全員の視線がある所に集中した。そこではヒナタと白蓮がマザーと激しい戦いを繰り広げている。


「あいつをどうにかしない事にはここから移動することもできやしない」


「分かった。ウチも全力で戦う。だから頼む!その何とか博士に詩織を診せてほしい。」


土下座に近い格好で、伊織はカナタに、向かって頭を下げた。


「分かったからやめてくれ、立ってくれ。どのみち俺たちもなんとかできなければここで全滅だ。しかし……」


カナタの表情は曇っている。なにしろ、何とかすると言ってもその方法が今の所何もない。今までだってけして手を抜いて戦っていたわけじゃないのだ。


「とりあえずヒナタ達にまかせっきりはまずい。伊織、戦えるな?無理はするなよ?」


念を押すように何回も言った。


「分かっとる!でも何とかせんと詩織は助からん。そんなら無理でもやるわ」


伊織の目はこれまでにないほど本気だ。ゆずもその横でライフルを担いでやる気を見せる。


「よし、生きて帰るぞ!」


カナタが気合を入れる様に言うと、二人の目がマザーの方を向く。


もちろんだからと言って戦闘力が増したわけでもないし、効果的な方法があるわけでもないのだが……


ヒナタ達が戦っている場所は、すごい有様だった。おそらくマザーの振り回すでかい刀のせいだろうが、至る所の地面はくぼみ、コンクリートやアスファルトの破片がそこらに散らばっている。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


近寄って来たカナタに気づいたヒナタが、マザーの攻撃をかわしたついでにカナタの所に移動して聞いてきた。


「試薬を投与した。感染は抑えたと思うしなぜか出血が止まった。訳がわからん。でも猶予はないと考えた方がいいと思う。何とかしてこの場を逃れるぞ」


ヒナタにそう言うと一瞬疑問を持ったようだが、とりあえずこの場は聞き流すことに決めたようだ。カナタの言葉に頷いた。


ドン!という重い音と共にゆずの援護射撃が再開された。マザーにあまり致命的な効果はないようだが、威力の大きさにマザーは嫌がっている。

ゆずもあえて急所を狙わず頭を狙っているので、着弾した瞬間マザーの頭部がぶれるのだ。


カナタや伊織も攻撃に加わるが、マザーは徹底的にヒナタの斬撃を躱すことにしているようで、他の攻撃は避けようともしない。

僅かにカナタの使っている無銘の刀は傷をつけているものの、桜花や梅雪ほどの効果はない。


決定打に欠けたままの戦いが続く。少し離れた所ではダイゴとスバルが四つ足と戦っているが、ダイゴ達は無理に攻撃しようとせずに四つ足を挑発しながら回避に専念している。


決定打に欠けたまま、時間だけが過ぎていった。


{こいつ……疲れるってことを知らないのか?}


必死にマザーの攻撃をよけながらカナタは思った。それも仕方のないことだろう、カナタ達は時間の経過とともにスタミナが切れ動きが悪くなっていく。いつまでも同じコンディションというわけにはいかない。しかし、マザーは時間による変化を見せないのだ。無尽蔵にスタミナがあるかの如く、変わらない動きでカナタ達を攻め立ててくる。


全てがカナタ達にとって悪い方に転がっている気さえしてくる。


{このままでは……}


まずいとは痛いほどわかっているのだが、打てる手は打ち尽くしてひたすら攻撃することしか残っていないのが現状だ。


途中、ヒナタが持っていた桜花をカナタに戻し、カナタの刀を伊織が使う。そうやって効果のある武器を分散させてみたが、マザーはしばらくするとそれも理解して対応してしまう。


それでも逃げようとすれば猛烈な追撃を仕掛けてくるし、四つ足の追跡からはとても逃げ切れる気がしない。全員の疲労が蓄積している現在ならば特に、だ。

それゆえに攻撃の手を緩める事もできない……


マザーの顔の薄くにやけた笑みが深くなった気がする。


「もう勝った気かよ……」


その顔を見てカナタの心は決まった。このままではじり貧、活路はない。こうなってしまえば取れる方法はこれしかないだろう。


「全員、撤退準備。合図をしたら一斉に散り散りに逃げるんだ。決して後ろは振り向くな。これは隊長命令だ」


それを聞いたみんなが怪訝な顔をするが、何人かはハッとした表情をした。


「お兄ちゃん!何を……」


「ヒナタ、いいから。後で説明するよ」


説明できたらな。と心の中で付け加えて、頑張って笑みを作ってヒナタに向ける。


「カナタ……お前何考えてる……」


「分かるだろ。時間をかけてる暇はない。このまま一人でもやられたらきっと一気に崩れる。そうでなくても、そう長くないうちにスタミナ切れで動けなくなる。どちらも待ってるのは蹂躙だ」


スバルはそれを聞いても納得した様子はないが反論もできない。ダイゴや白蓮は苦しそうな顔でカナタを見るばかりだ。


(カナタ君……)


(ゆず、みんなが撤退を始めたらぎりぎりまで援護と足止めをしてくれ。お前が最後の砦だ。頼んだぞ)


そう言うと返事を待たずにインカムの電源を落とした。そして大きく深呼吸する。


「走れ!」


カナタの叫ぶような声を聞き、それぞれが違う方向に駆けだした。みな歯を食いしばり苦痛に耐えるような顔をして……ヒナタはすでに泣き出しそうにしていた。


それを見て少し微笑んだカナタはマザーに向かって斬りこんだ。桜花による攻撃を嫌うマザーはそれを自らの刀ではじく。

その力を利用して、動こうとしていた四つ足の鼻先に振り下ろした。


四つ足は後ろに跳んでそれを躱したが、逃げ出したスバルとダイゴを追撃するタイミングを逸した。


「こいよ、俺だってこんな事はしたくないんだよ。せめてそれなりの代償をおってもらうぜ」


桜花を肩に乗せて、左手でマザーと四つ足を挑発するように招いた。


{無事に逃げてくれよ}


心の中でそう念じながら……



読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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