14-15
手違いで昨日の投稿が出来ていませんでした。すいません!
全員がそれを見ていた。しかし誰も止める事はできなかった……
ふらつきながらもなんとか動こうとしているが、ダメージが大きかったのか、伊織の動きはにぶい。
そこに向かって振りかぶったマザーの刀をどうにかするには、それぞれの位置も悪かったのだ。
伊織に向かって振り下ろされ刀を、スローモーションになった映画を見てるような感覚で見ていた。
そこに割り込んできた者がいたのだ。
「姉さん!」
詩織はそれまで近接戦を仕掛けていなかったので、ほとんどダメージは無く動くことができた。
しかし伊織のメインウェポンは弓である。マザーの凶悪な刀を防ぐ術はない。
……その身を盾にする以外は。
「詩織!!」
その声と同時に、詩織は伊織を突き飛ばすと替わりにマザーの凶刃にさらされる。
「きやあっ!」
背中を斜めに切り裂かれた詩織は悲痛な叫びをあげながらその場に倒れ伏した。
「詩織……」
伊織は地面に座り込んだまま、呆然とそれを見ている。
「くそっ!」
ようやくそこに来たカナタがマザーに対して斬りかかるも、マザーは薄ら笑いを浮かべたままその攻撃を刀で防ぐ。それどころか短いほうの刀でカナタにも斬りつけて来る。
「伊織!詩織を連れて下がれ!何してる動け伊織!」
なんとかマザーの攻撃をいなして、伊織にそう言うが当の伊織は倒れている詩織を呆然と見ているだけだ。
「お兄ちゃん、ここはなんとかするから!」
「カナタさん、そっちは任せますぅ」
そこに同じく走りこんできていたヒナタと白蓮がカバーに入る。
「すまない、五分ほど頼む!」
そう言うとカナタは倒れている詩織の元に走り寄る。
「しっかりしろ!くそ、これは……」
詩織の背中を斜めに切り裂いた太刀筋は深く、あふれでる血でよくわからないが骨も砕いているだろう。なにより……
「感染したか……」
詩織の体は痙攣していて、触って分かるくらいの発熱をしている。
このままでは、怪我による出血多量か発症して感染者となるかの二択しかない。
斬られた箇所も悪く、止血も難しい。
「カナタ君!」
状況を見て、急いできたのだろう。息を弾ませてゆずもやってくる。
「ゆず、そっちを持ってくれ、ここじゃまずい。離れないとヒナタ達も動きにくいだろう」
そう言うと詩織の腕を肩に回して二人で引きずるようにして離れた場所へ移動する。
「くっ、伊織!いつまでぼうっとしてんだ!」
詩織を担いだままカナタは叫んだ。その声でびくっとして伊織がようやく我に返る。
「あかん……詩織、なんでかばったん。あかん、詩織!」
伊織が叫ぶように言いながら移動してうつ伏せに寝かせられた詩織の元に近づいて来る。
背後では激しく刀のぶつかり合う音と、気合の声が聞こえてくる。
「ね、ねえさんは……」
うつ伏せのまま、意識を取り戻したのか詩織が言った。
「詩織、気がついたんか!ここにおる、ここに……」
伊織が焦って詩織の顔の所に行って声をかけるが、もう顔を動かす力もないのかそのほうを見ることもできない。
背中を斬られているので、タオルなどで押さえるくらいしか止血の方法が無い。カナタとゆずは荷物から出したタオルで傷を押さえるがみるみる赤く染まってゆく。
「ゆず、あるだけ出してくれ。おい、詩織。気をしっかり持つんだ!」
カナタの言葉に、力を振り絞った様子で体を動かした詩織は首を振る。
「私はほっといて……逃げてください。私は……もう。だめだもの……。カナタさんお願いが……」
途切れ途切れでそう言う詩織にカナタは顔を近づける。
「……私を、ゴホッ!……囮にしてくだ……さい。そして姉さん、を連れて……逃げて……ゴホッゴホッ!」
そう言うと、伊織の肩を掴みながらも何とか自力で体を起こした詩織は、伊織を見て微笑みながら話した。
「姉さん……私ね?……ずっと、負い目を感じて……ゴホッ!私は、普通に……暮らして、姉さんがいる事も知らないで……ゴホッゴホッ!……姉さんは、父さんの所で……苦労して……双子なの、にね……」
「あかん、詩織!もう喋ったらあかん!そんなんどうでもいいねん。なんも思っとらん!」
必死にそう言う伊織の言葉も詩織には届いていないのか、苦しそうに詩織は話し続けた。
「母さんが死んじゃって……一人になって、私も、ね?死んじゃうんだ……って思ってた……。でも姉さんが……いるって、知って……会えて嬉しか、ったの。」
「詩織!もう喋ったら……」
もう話しながら詩織の視線は焦点が合っていない。それでも詩織は口を動かして、言葉を紡ぐ。
「姉さん、生きて」
「詩織!」
その言葉を最後に、詩織は瞳を閉じた。もう口を動かすこともなかった。
「詩織ぃ!」
伊織はそんな詩織にすがりついてしまった。カナタもゆずもそれを肩を落としてみる事しかできない。
「キヤアアァァッ!」
だが、事態は感傷に浸る事も許さない。マザーの雄たけびが響く。戦いが続いている事をしらせるように……
「伊織、動け!詩織が守ってくれた物を無駄にするな!」
カナタは詩織に縋りついたままの伊織に言うが、伊織は首を振るばかりでその場を動こうともしない。
マザーはヒナタと白蓮がなんとか凌いでいるものの、伊織を獲物と定めているのかじりじりとこちらに近づいて来ている。
「はん!普段の勢いはどこ行った。とりあえず、そこをどいてさっさと移動する!」
ゆずがそう言いながら乱暴に伊織の肩を引いた。
「何し……」
そんなゆずに文句を言おうとした伊織の言葉が止まる。ゆずの真剣な顔を見たからだ。
「カナタ君、試薬を使おうと思う」
ゆずは詩織を少し見た後、カナタを見あげてそう言った。
「試薬……でも、それは……」
ゆずにそう言われたカナタだったが、躊躇しているように見える。
「頼む!クスリがあるなら使ってやってほしい!お願いやから……ウチがなんでもするから」
泣きながらカナタにすがり、最後には懇願するように伊織は言う。それを見てカナタは辛そうな顔をしていたが、しばらく考えた後で意を決したように頷く。
「わかった。どのみちこのままだと助からないし、感染者になって動き出したらきっと止められない。ゆず、試薬を使用してやってくれ」
ゆずはその言葉を最後まで聞かないうちに荷物から金属製の箱を取り出すと、ふたを開けた。中には青と赤二種類の液体が入ったビンが緩衝材に包まれて入っている。
ゆずはそこで少し迷ったが、青い液体のビンを取り出して一緒に入っていた注射器に入れた。
「伊織、これはあくまで試薬。効果が保証されたものじゃない。それでもいい?」
「頼む!詩織が助かるなら何でもいい!」
伊織の方を見ずに、ゆずは確認をしたが間髪入れず伊織はそう返事をした。それを聞いたゆずはナイフで詩織の肩の部分の服を切り裂くと、そこから見える肌に注射した。
そこにいるみんなが固唾を飲んで注目する中、注射器に入った分の薬剤をすべて注入した。が、詩織に変化は見られない。
「遅かったのか……?」
「そんな……」
見ていたカナタが思わず呟くと、伊織が落胆した声を出す。
「まだ!」
しかし詩織の腕を取っていたゆずがそう言った時、わずかにだが詩織の眉が動いたのが見える。
「ゴホッ!ゴホッ!……う……ああ」
やがて、詩織が咳き込みだした。そして苦しそうな声を出していたが、やがてうっすらと目を開けた。
「姉さん……」
「詩織!」
かすれた声で伊織を呼ぶと、それを見た伊織は大粒の涙を流し始めた。
「なんとか効いてくれたか……」
カナタ思わず安堵の声がもれたが、問題はそれだけではない事を思い出し気を引き締める。
「カナタ君……血が」
詩織の様子を見ていたゆずが、マザーに斬られた場所を押さえていたタオルを替えようとしたまま、何かを見つめていた。
ゆずの視線の先では、確かにマザーに斬られて大量に出血していた傷が盛り上がり、出血の量も少なくなっていた。
「発熱も安定してる……」
驚きの顔でカナタを見上げていた。こんなにすぐ効果が出るとは聞いていない。ましてひどいケガもしているというのに……
わけがわからず、カナタとゆずは顔を見合わせるばかりだった。
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